人外しと精神病院

燈紗那菊(ひしゃなぎく)

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憂鬱な日から非日常への始まり

2.特別講義にて

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念のため、大学の掲示板を見ていこう。充を疑っているわけではないが、確証して言ってはなかったので見に行くだけだ。よし、第一講堂だ。
さあ、行こうと思った所、
「ねぇねぇ、爽くん。この後授業ないんでしょ?一緒に帰ろうよ。」
嫌なのに捕まった。彼女は開海 集美ひらうみ つどみ。いや、僕が彼女のことを嫌なんじゃ無くて、彼女の言ってもないのに、相手がいけると思って行動するところが嫌なのだ。
まぁ、そう言いつつも僕の彼女であることには変わりないのだが。
「あー、ごめん。この後行くところがあって……。だから今日は……」
「えぇ~いいじゃない、別に。行かなくても死ぬわけじゃないんだから。ね?」
こういうところだ。こういうところが嫌なんだ。人の話を聞かないところ。いえば直してくれるが、またちょっとすると出てしまうのだ。癖みたいなものなんだろう。お陰でこっちは、苦労しているが。それを除けば、いい子なんだけど。
「今日限りのやつだから、今日行かないともう行けないかもしれないんだ。だから今日は、一緒に帰れないんだ。ごめんね」と、やんわり彼女の誘いを断る。
「そっか、じゃあ仕方ないね。それってどれくらいで終わるの?」
まさか待ってくれるつもりなのか?掲示板を見た限り、2時間ほどあったはず。そこまでして僕と帰りたいということか。そういうところは愛おしいと思う。
「えーっと二時間後くらいかな?」
「あー、長いね。でもそれくらいなら待てるよ。終わったら連絡してくれる?」
「え、いいの?」
「うん!いいよ。爽くんに話したい事いっぱいあるし。中庭のカフェテリアで待ってるね」
「ごめんね。でもありがとう。終わったらすぐ連絡して、すぐに行くよ」
「ふふ、分かった。じゃあまた後でね」
「うん、また後で」
まさか本当に待ってくれると思っていなかった。どうやら普通に人を待つのと、恋人を待つのとでは違うらしい。これは終わったらすぐに怒られない速さで走らなくては。
さて、そろそろ講堂に行こう。遅刻はしたくない主義なのだ。

第一講堂に行くと、それなりに人はいたが、自由参加の為なのか、やっぱり人がまばらだ。僕とおんなじ考えの人がいるらしく、前に座っている女子二人組は特別授業の先生がどんな人か、 楽しそうに話している。僕は後ろあたりの窓辺に座った。みんな少し暇そうだ。ルーズリーフを机の上に出して待つ。桜の花びらが散っている。綺麗だ。
そろそろすごい研究者とやらが来るはず。
少し重たい鉄の扉が開いた。

瞬間、場の空気が変わった。

みんな僕と同じようにびっくりしているようで、異世界にいるような、そんな不思議な空間にいるような感覚だった。
「おや?人が少なめなんだな。やっぱり強制的に参加させた方が良かったか……?いろんな生徒達に僕の話を聞かせたかったんだが……。うーん……。まぁ良しとしよう」
その人を見た瞬間、とてつもない高揚感に駆られた。何だこれは。初恋みたいな感覚だ。いや、初恋なのかもしれない。とても儚げで上品な印象で、白い肌、ベージュを少し濃くしたような色の髪、鬱金色が映える切れ長のつり目、落ち着いた声色……。この世のものではないような、人間ではないようなそんな人だった。とても、とても美しいと思った。そう思ったのは僕だけではないらしい。近くにいた女の子は顔を赤らめている。
「ああ、そうだ。名前を言っていなかったね。僕は真中もなかハリエだ。今日一日だけだが、よろしく頼むよ。あ、ちなみにもなかは和菓子の方の漢字ではないよ。真ん中とかいてもなかだ。それだけは覚えておいてくれ」
真中 ハリエ。ハーフの人みたいな名前だ。本当に純日本人なんだろうか。
「ああ、あとそれと、僕は純日本人だ。んまぁ、イギリス生まれではあるからわかりにくのかもしれないが。」
イギリス生まれ日本育ちか。英国紳士というわけか?
「さ、そろそろ特別授業といこうか。まぁ、授業というより僕の話みたいなものだが、それでもいいかな?」
目が合った。目を細めて笑みを作りながら、僕を見ているような……。気のせいか?
「さあ、始めよう。君達にとって良い経験となればいいが……。」

 それからは、どんな気持ちで授業をしたのか覚えていない。確かなのはあの人に夢中だった事だ。

パァンッ

突然の手を叩く音に正気に戻った気がした。
「さて、そろそろチャイムがなる頃だ。僕の話はこれで終わりとしよう。誰か、黒板を消すのを手伝ってくれないか?一人で消すのには大きいのでね。」
あっという間だった。
前に座っている女の子2人組が、黒板を消すのを手伝っている。周りを少し見たが、僕だけでなく、見れる限りの人はみんな、はっとしたような表情のまま固まっていた。
黒板を消すのが終わったようだ。

チャイムが鳴った。

「さ、チャイムが鳴ったね。では僕はこれで失礼するとしよう。君達に会えて良かったよ。それでは、さようなら」
そうだ、聞きたいことがあったんだった。あの人に。僕は急いで帰る準備をして、後を追った。
「あ、あの! 先生!先生の授業分かりやすくて……。えっと……」
先生がふふっと笑った。優しい笑い方だ。
「それはそれは良かった。君はとても熱心に僕の話を聞いていてくれたね。僕が学生の頃は真面目じゃなかったから、感心するよ」
意外だ。真面目そうなのに。
「あの……また先生に会えますか?」
「勿論だ。だが、僕はずっと研究所に籠っていてね。山にあるんだが、それでも会いにきてくれるかい?」
「はい。必ず。」
「うん、素晴らしい意思だ。僕も君にまた会えるのを楽しみしているよ。いつでもおいで」
「はい」
すごく嬉しかった。あの人と直接話をできたのも、僕が行くのを楽しみしてくれているのだ。僕みたいにあの人と僕と同じような話をした、別の人がいるのかもしれない。その人にも同じように言ってるのかもしれない。それでもいいのだ。いつかはわからないけど、行こう。山にある研究所……あとで調べよう。集美を待たせている。早くカフェテリアへ行こう。集美に連絡をして、返信を待つ。帰ってきた。僕は怒られない速さで走った。
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