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序章 (幼少期編)
赤毛の親友と憧れの先輩
しおりを挟むそして待ちに待った、剣術部入部初日はやってくる。
私はその日もう胸が高鳴りすぎて、収まらないテンションを隠すこともしないままその時間を迎えた。
放課後、剣術部が使用する剣舞場の前でカナタと待ち合わせをしている間も、終止腑抜けた顔をしていたことだろう。
弾む気持ちのまま小刻みに体を揺らしつつ、剣術部に入部する人たちの中から群青色の髪を探していると、ふと私と同じ赤毛の少女が、花の香りと共に目の前を横切る。
――同じ赤毛だ、珍しい――
たった一瞬、目の前を通っただけだったが、同性でも見惚れてしまいそうなほど、中世的な顔立ちにスラッとした高身長で立ち振る舞いの美しい子だと分かった。
艶のあるショートボブの赤髪は、私のウェーブがかった髪と同じ色していると言うのもはばかれるほど綺麗な色をしている。
ふわっと風が私の前髪を揺らしていく。
ーー先輩だろうか。それとも同じ学年の子だろうか、と恍惚な思いが胸を埋めていく。
カナタを待っていたはずなのに、いつの間にかその美しい子のことばかり考えている自分がいた。
「ラミエルごめん! まっ、た?」
赤毛の少女に見惚れてから数分後。
カナタが私の方に向かって走ってくるのが見えた。
「ううん。そんなに待ってないよ……って大丈夫……?」
膝に手を当て苦しそうに呼吸を整えるカナタ。
その顔は真っ青で、目の下には隠しきれないくまがある。
ただでさえ忙しいのに、こんな体を動かすクラブ活動を選ばせてしまってよいのだろうか、と酷く心配になる自分がいた。
カナタはあの時――剣術部がいい――と口にはしたが、正直私と同じクラブを選ぶためにそう言ったとしか思えなかった。
彼は友達がそこまで多くない上に、遊ぶ時間もない。
幼い頃から共に過ごした私といれば心が休まるという事も理解は出来る。
私が折れて天文部にでもすれば良かったーーと心の隅で後悔が生まれはじめる。
不安の色を瞳に灯しながら、カナタの背中をそっと撫でた。
「ねカナタ……本当に大丈夫? 今日辞める? 私は全然気にしないし」
「大丈夫。せっかく楽しみにしていたんだし、行こう!」
カナタはなんでもないような笑みを見せ、さり気なく私の手を引いて剣舞場の門をくぐり抜ける。
まだ息の上がっているその大きな背中。
それが酷く脆く見えるのに、それでも彼と共にいられる事にどこか嬉しさも感じていた。
結果から言うと剣術部はとても楽しかった。
元々体を動かすのは好きだったし、相手の動きを見て予測して、自分の体を思うように動かすという忙しさが私にはとても合っていた。
そして私の恍惚な想いが通じたのか、あの一瞬だけすれ違った美しい赤毛の子とペアを組むことが出来た。
カナタとペアになれなかった事を落ち込んでいた矢先、私の背中には羽が生えたように有頂天になった。
彼女の名はカレン・マイヤンと名乗った。
先輩かと思っていたのに、まさかの同級生だということを知る。
「2組のカレン・マイヤン。よろしくね」
彼女は満面の笑みで勢いよく私に手を差し出す。
額から滴る汗で頬に髪が張り付き、それが何だか妖艶に見えて変な気持ちになる自分に思わず戸惑う。
「ら、ラミエル・レイ。8組です。よろしく、お願いします」
震える手で彼女の手を握った。
妙な緊張がカレンにも伝わったのか、カレンはクスクスと私の目を悪戯に覗き込み笑う。
その彼女の瞳に、私はまた緊張してしまう。
初めての剣術は全く緊張しなかったくせに、美人の前になると途端に緊張しだす自分が情けなくて、苦笑いしか浮かべられなかった。
「ねぇレイって、もしかして、レイ国の? あのラミエル?」
カレンの声のテンションが一気に上がり、我に返った私の声は変にうわずる。
「あ、そ、そう」
「わ! すごい! 私、ハニル様にすごく憧れてるんだ!」
私の手をさらに強く握りしめ上下に振りながら、眩しいくらいの満面の笑みを浮かべるカレン。
「……そ、そうなのね!」
「じゃあ、ラミエルは風を使うんだね! 凄いわ!」
美しい顔立ちから勝手に物静かなタイプかと思っていたが、意外とテンションの高いカレンに若干戸惑いつつ
「うん。一応ね。まだ勉強中だけど」と愛想笑いを浮かべる。
「でも風だなんて凄い! 今度見せて!」
「ええ、もちろん」
「ふふ、よろしくね! ラミエル」
「――よろしく」
それはまるで時が止まったようにーー。
その眩しいほどの満面の笑みは、不純なものが何ひとつとして混ざっていなくて、まるでシーセイル人を代表するかのような雰囲気を感じた。
この一瞬だけでも私には分かった。
もし彼女が自然系の能力を授かっていたら、きっと何の問題もなくシーセイルの責任者になっていただろう。
尊敬に限りなく近いけれど、それは尊敬よりももっと近づきたいものーー。
理由のない湧き上がる感情の正体は分からなかったが、友と呼べる人が見つかったような気がした。
そして私とカレンはその日以降、二人でよく遊びに出掛けるようになった。
自然とふたりで放課後を過ごし、自然とふたりで勉強をし、他愛もない話を繰り返す日々を送った。
ちなみに彼女が持つ能力は残像だった。
ものや土地に手を当てて意識を集中させると、その場で起こった強い念や量子のようなものを感じ取り、場合によっては映像として視ることもできる能力。
手を当てている方とは逆の手を他人と繋ぐと、その映像や念を、自分と手を繋いだ他人に伝えることも出来る。
自然関係の能力ではないものの、神秘的な能力のひとつだった。
ちなみにエリヤも同じ残像の能力を授かっている。
才能があったのか私は剣術の腕をメキメキとあげ、一年も経たずして剣術部内では3番目、学年ではトップの成績を収めるまでに成長した。
カレンもまた剣術部内では5番目、学年でも私に継いで2番目の成績だった。
彼女は私以上に気さくで明るくて面白くて、話せば誰もが魅力的に思うであろう人気者だった。
最初は彼女の魅力に圧倒され緊張していた私も、彼女の優しい人柄に触れる度にその緊張も解け、次第に心を開いていき、互いに"生涯の友"と呼び合うまでになった。
そして私は憧れの先輩に ご執心 するようになった。
パウロス・ユークという剣術部でトップの強さを誇る一学年上の先輩だった。
漆黒の黒髪に青い瞳、彫りの深い顔立ちと、そして紳士的な振る舞いの、私の好みの真ん中を付いてくる完璧な人だった。
私はそんな完璧な彼に次第に猛烈な憧れを抱くようになる。
信じられないほど強い、信じられないほどかっこいい、信じられないほど優しい、の特大三拍子が揃っているパウロス先輩は、私だけでなく剣術部内で数多くのファンを抱えていた。
私自身はパウロス先輩に特にアピールをすることもなく、あくまでファンの一人としてパウロス先輩の一挙手一投足を騒ぎ立てながら見守った。
パウロス先輩に認められたい一心で剣術に励んで、学年トップの成績を収めることが出来たのだから私もつくづく自身に都合の良い人間だと思う。
「レイ……!」とパウロス先輩から笑顔で声を掛けてもらうだけで私の心は舞い上がり、その日一日はパウロス先輩の話を飽きることなくカレンに聞かせた。
呆れつつも大爆笑しながら聞いてくれるカレン。
そんなカレンはあの陽気なカイトが最近気になっていると言っている。
こうやって青い春は訪れていくのかと胸が高鳴る日々を過ごしていた。
いつの間にか、カナタが剣術部を辞めていたことにも気付かずに。
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