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プロローグ
16年間交わした手紙の一部
しおりを挟むこの間は助けてくれて、本当にありがとう。
感謝してもしきれないわ。
良ければあなたの名前を教えて!
私は……セイルというの。
あの、あの後お父様? とは大丈夫だった?
こちらこそ、ありがとう。
セイル って確か王女様と同じ名前だよね? とても素敵だね。
僕はナジュム。セイルはいくつなの?
良ければ、また…会いたいな!
父上はいつもあんな感じだから、大丈夫だよ。気にしないで。
セイルも怪我は大丈夫?
ナジュム! あなたも素敵な名前!
私は10歳。ナジュムは同い年くらいかな?
私も会いたいけれど、今は少し難しいかも。ごめんなさい。手紙ならできると思う。
ナジュム、お父様の事であまり思い悩まないでね。私でよければ話を聞くわ。
怪我は大したことないから大丈夫よ! ありがとう。
僕は8歳だよ。
いや、謝らないで!
友達が少ないから、君と友達になりたかったんだ。ありがとう。
そういえば、川沿いに咲く花を見たいと言っていたよね?
この間、川沿いに行く機会があって、一輪つんできたからセイルにあげる。
早く良くなりますように。
まさか年下だったなんて……! とても勇敢なのね!
ナジュム、もちろんよ。私はあなたの友達。
そう! 川沿いに咲く花を見たかったの!
ありがとう! とても嬉しいわ!
本当にありがとう。
この間、父からまた冷たくされてしまったよ。
何も持っていない僕はどうすればいいんだろう。
12歳になって強くなったつもりでいたのに、弱い自分ばかり見えてしまう。
もう、僕に味方など居ないのかもしれないって。
こんな話ごめんね。
ナジュム。よく聞いて。
私はいつでもあなたの味方よ。
お父様はあなたに辛く当たったかもしれないけれど、私はあなたに辛く当たったりする事は決してしないから。
あなたの過去は苦しかったかもしれないけれど、これからはきっと光に満ちてるはず。
私はナジュムが私生児だろうと何だろうと気にしないし関係ないわ。
あれから1度も会っていない私の言葉を信じてくれるか、分からない、けれど、でも、信じて欲しい。
あなたはひとりじゃないわ。弱くもない。
誰よりも優しくて勇敢なのよ。
セイル、ありがとう。
セイルからの手紙をずっと読み返してる。
この手紙が僕の支えだよ。ありがとう。
セイルもきっと大変だろうに。ありがとう。
私は人のことを考えるのが仕事みたいなものだから!
↑深くは捉えないで。笑
でも、きっと、ナジュムは私にとって特別な存在なんだと思ってる。
ナジュムには分かってもらえない感情だとは思うけれど。
いつか会えたら、星でも見ながらお互いの人生語りましょう。
私星大好きなの!
14歳の誕生日、母と会って花束をいただいたんだ。どうか、1輪貰って欲しい。
あまり悩みすぎないで。僕はセイルを心から信じているから。
あと実は僕、騎士になりたいと思っているんだ。
家は一応貴族ではあるから、18歳になった年に騎士試験を受けようと思う。
14歳になったのね! おめでとう!
お母様と会えたのね。綺麗な花をありがとう。とても癒された。
最近、周りからの期待と、態度と、全てを信じる事が出来なくなっていたの。
何故ナジュムは私のことを分かってくれるのかしら。不思議。
ナジュムが私を信じてくれるように、私もあなたを信じたい。
騎士試験、受けるのね。私もたまに城に出入りする事があるから、もしかしたらすれ違ったり出来るかもね。心から応援してる。
ナジュム。地震、大丈夫だった? 無事でいる?
一言でもいいわ。お願いだから無事なら返事をちょうだい。
私はこれからしばらく忙しくなるから、手紙を書けなくなるかもしれないけど、いつもナジュムの身を案じているわ。
どうか、どうか無事でいて。私はいつでもあなたの味方よ。
セイル、ありがとう。僕は無事だよ。
セイルも無事でよかった。
僕も君の身が安全であるように祈ってるよ。
ああナジュム、無事なのね!
本当に、よかった。
騎士試験まであと1年だ。
合格出来るようにと、毎日剣術や勉学に励んでるよ。
最近夜勉強で疲れたら星を見てるんだ。
また会いたいと思うことはだめかな。
返事、遅れてごめんなさい。
勉強お疲れ様。応援はしてるけど、あまり無理しすぎないでね。
私も最近星を見上げることが多くなった。
私ね、この間まで少し遠い異国に行ってて。
そこで出会った人と関係を持って子供が出来たの。
分かっていたし、嬉しいことなのに、父から酷く叱られて、罪深い事をしてしまった気がして……望まれていない子になってしまうんじゃないかって、複雑な気持ちにもなってしまって。
きっと、ナジュムも私に呆れるでしょうね。
セイル。そんな事ないよ!
僕はセイルが一人の女性として、幸せになることをずっと望んでいたし、そして望まれない子なんてこの世に存在しない。
セイルの子供のことだから、きっと聡明で愛らしく育つよ。その子の成長を僕も見てみたかったな。セイルが母なら絶対幸せだよ。
セイルは、その、出会った人、の事を好きなの?
結婚してしまうの?
その言葉にとても救われたわ。
もし、もしもナジュムと普通に出会って今も普通に一緒に居る事が出来たら、幸せになれるのかもしれないと、そう思ってしまう。
ごめんね。忘れて。
その人はとても(ずる)賢く偉大な人ではあったけれど、私の心はきっと別の所にあったから……だから、なの。
子供の事は心から愛する決心がついたけれど、結婚はしないわ。父と母と共に子供を育てる。
ナジュム、ありがとう。私頑張るわ。
セイル……!
何故か、君のことがとても、心配になった。
大丈夫? 本当は会いたい。
それを君が許してくれないのも知っているけれど、それでも会いたい。
もうすぐ騎士試験だ。頑張るから。きっと会おう。
ねえ、ナジュム、もしかして私を知ってるの……?
知っていたとしても、お願い。何も言わないで。とても辛くなってしまう。
私は大丈夫よ。ありがとう。
騎士試験、頑張って。
この手紙では君はただのセイルだよ。
君は神でも何でもない、僕の目にはただの女性に見える時がある。
今まで通り、辛い気持ちを吐き出してほしい。
大きな悲しみを一人で背負わないで。
傍にいる事が出来ない、僕には聞いてあげることしか出来ないから、少しでも力になりたい。
もう誰も信じられないの。
それはナジュムのせいじゃなくて、私のせいで。
ごめんなさい。
もう無理かもしれない。
どうすれば信じてもらえるだろう。
僕は、幼かったあの日、初めて出会った日からずっと、君を慕い続けてきた。
足が痛いはずのセイルがあの日僕の前に立って、父に怒ってくれた。
セイルは僕の出自や過去をそんなの関係ないと言ってくれた。
もうずっと何年も何年も届かない場所にいる君が切なくて、僕が情けなくて。
今もし、セイルが苦しく辛い思いをしているのなら少しでも寄り添いたいんだ。
傍に行けない自分が情けなくて本当に嫌になるんだ。
信じてほしい。
いつか、必ず会いに行くから。
返事、遅れてごめんなさい。
あれからずっと考えていて。
もし、ナジュムが私の思うような人でなくても、それでも、いいと思ったの。私はナジュムを信じたいと思う。
……大好きな両親が亡くなったの。
本当は悲しくて寂しくて辛くて怖くて堪らないのに、やるべき事がある。
その為に感情を殺さなければならなくて。
私は皆の期待に応えられるのか不安で、そしていつまで一人で居ればいいのか、分からないの。
もし、私がやるべき事を終えたら、その時会ってほしい。
どれくらいかかるか分からない。
でも、ナジュムには幸せになってほしい、きっと私では幸せにできない。
ごめんなさい、矛盾してる。
もう手紙は書けないかもしれない。
騎士試験、合格したんだ。
まだ下位の位だけれど、セイルを守りたいその一心で頑張れた。
僕はいつでもセイルの選択を心から尊重する。
神様は見ててくださる。絶対にあなたを1人にしないし、あなたが人知れず流す涙を感情を僕は知ってる。
本当に、僕は頭がおかしいのかもしれないと思うくらい、セイルを守りたいと思うんだ。
セイルの返事が無くても、僕は手紙を書き続けるよ。
僕だけはセイルをただのセイルとして、ずっと、死ぬまでずっと、好きでいたい。
どんな孤独の中にもどんな賞賛や批判の中にも、僕は遠くからずっとセイルを想っている。
会うよ。僕たちは絶対に会うから。
……私が私でなければ。
ふとそう思う時があるの。私が望む私だったら、ナジュムの言葉を何一つとして疑わずに心から信じることが出来たのにと。
おめでとう。騎士になったのね。
あなたを大切に想っているから、自由でいて欲しいから。
あなたを調べるような事はしないわ。
私は自分の責任を果たし、運命が、神が巡り合わせてくれるのを待ちます。
これを最後にするわ。どうか元気でいてね。さようなら。
セイル。
やっと小隊を任せて貰えるようになったんだ。
知識や教養を買われて、とある偉い方の身の回りの世話をする事にもなったよ。
ユリウス……さま……は、3歳? かな?
健やかに育っていることを願ってるよ。
セイル。
この間、儀式の衣装を纏い冠を被って、群衆の前に立つセイルを見たんだ。
今まで見ないようにとしていたけれど、とても綺麗だった。
住む世界がまるで違うように思えた。
どんなに手を伸ばしても届かない人なんだと、僕ごときが守れる存在じゃないんだと、素直に感じてしまった。
ねぇ、セイル。セイルはあの時何を思って言葉を紡いでいたの?
僕はあの日のセイルを見てからずっと、幻想を見ていたのかもしれないと、勝手に辛くなってしまった。
僕ももう24歳だ。
順調に出世すれば、家柄の助けもあって、もうすぐセイルを間接的にでも守れる立場に行けるのに、不安なんだ。
せめて僕は寄り添える存在でありたいと思っていたのに、セイルがそれを望んでいなかったら、と考えただけでとても苦しくなる。
君が君でなかったら……と考えてしまう僕が嫌だ。それはセイルの努力を否定してしまう事になるのに。
街中ですれ違うひとりや、食堂で隣同士になったひとりとして出会っていれば、何か違っただろうかと。
僕の一方的な勘違いで生きていたなら、僕からセイルへの気持ちがなくなったら空っぽになってしまうということに気付いたんだ。
いても立ってもいられず、返事を書いてしまったわ。
ナジュム、あなたが言ったのよ。私をただのセイルと。
そう言ってくれたから、私は今まで孤独にも耐えることが出来た。
私たちただの友人として16年もこうして、手紙を送りあっているの。
今更私を特別扱いしないで。
私が今までどれほどあなたに会いたいと思っていたか。どれほど、言葉を交わしたいと思ったか。
ナジュムが騎士になるとそう言った時、どれほど嬉しかったか。
ナジュムの幸せを願っていたのに、いつしか私とナジュムの幸せに変わっていた事、知らないでしょう?
返事が書けなくて、ごめんなさい。
でもね、ナジュムの手紙、ずっと楽しみにしていた。心の支えだった。
ずっと、私の心を守ってくれていたのは、優しく勇敢なナジュム、あなたなの。
でも、幸せになって欲しかったの。
ナジュムありがとう。本当に。
ここまで言ってしまったけれど、私はナジュムが苦しまない環境で生きて欲しいと心から願ってる。
もう、私を目指さないで。
頑張らなくていいから、私のせいで辛い思いなどしないで。
あなたが幸せな事が私の幸せ。
決してあなたは1人ではない。ずっと想ってる。
でも、その近くに私は居てはいけない存在だということに気付いたの。
この手紙がきっと私が送る最後の手紙になるでしょう。
どうかずっと幸せで。
何も知らないのは、セイル、君の方だよ。
どれだけセイルを想っていたか何も知らないくせに。
ただの1度、幼い頃に会ったセイルに、こんなに心を奪われるなんて、そして触れることも会うことも許されない人だなんて、辛くないわけが無い。
でも、セイルがこの世界に居ると思ったから、家に居場所が無くても耐えることが出来たんだ。
君と同じだよ。僕も心の支えだった。
ずっと、会って伝えたかった。ありがとう、と。セイルが居たから、僕は生きることができた、と。
セイルが辛いなら、一旦、このやり取りも終わりにしよう。
本当に必要な出会いなら、神様がきっと巡り合わせてくださる。
セイル、僕はセイルを愛してる。
友だち以上に愛してるよ。
そして遠くからでも、君の心を照らす光で在りたいとずっと願っていること。
それはずっと変わらないよ。
どうかこの言葉だけはずっと信じて欲しい。
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