砂漠の女王が愛した星【完結】

藤沢はなび

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本編

終わりと始まりを予言する夢

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 昼か夜かも分からない。そこは殺伐とした空気が漂う見知らぬ砂漠だった。

「やめて!」
 私は涙ながらに必死に叫んでいる。
 目の前でユリウスが何者かに鋭い剣で刺され、ばたりと頭から地面に倒れた。
「…………っ。ユ、ユリウス……?」

 亡くなったはずの母も父も、タリクやアビド、その他信用していた側近たちも、次々と見知らぬ何者かに刺されていく。
「――――え?」
 そして追い打ちをかけるように、このシェバ国の民たちも悲痛な叫び声をあげながら、刺され斬られ、次々と倒れていった。

「もう……もう……やめて!」
 私の足元は愛する人の血で浸され、呼吸が荒くなり、膝から崩れ落ち、耳を塞いだ。

 少し先でナジュムだけが何者かと応戦しており、必死に刀を振って戦っていた。

 やめて……! お願いだからやめて。
 もう、戦わないで。もう誰も失わせないで。
 苦しまないで。傷つかないで。お願い、私のこの目に気付いて……。お願いだから。
 誰の事も守らなくていいから、縛られなくていいから、私の傍に、近くにいて。
 この悲惨から、私を置いて逃げて。
 彼にとって、守ることや戦うことは生きる理由を指し示していると分かっていても、それでも私にあなたを守らせてほしかった。
 そんな訳の分からない想いが雪崩のように胸に覆い被さっていく――。

 彼を見つめる私の瞳には深い悲しみが宿っていた。
 体は動くことが出来ずに、ただその光景を見ているだけしかできない。
 そしてついに

「ナ、ジュム……?」


 囲まれたナジュムは一瞬で斬られてしまう。
 背中、腹、肩と次々と――。

 ナジュムの倒れる様子はスローモーションとして私の目に映り、頭を真っ白にさせていく。
 駆け寄りたくとも何故か体が動かない。
 涙は絶えなく流れ、呼吸さえままならず、拳で自らの胸を強く叩いても消えてはくれない、悲惨すぎる光景に溺れていった。

「やめて、おねがいだから。……もうやめて」
 薄れていく意識の中少しずつ辺りが暗くなり、鼓膜が機能しなくなるのが分かった。

「やめて……。やめて……」

 霞む視界に映るのは愛する人達の青白くなった死に顔と、足元を染める血の海。

「全部……もうやめて。……いや……いやだ」

 決して、決して許さない。
 愛する人達を傷つけた者たちを……。
 そして、私を、一番許さない。






「セイル様! セイル様!!」
 地獄から逃げ出すようにパッと目を開ければ、そこには酷く焦って私を見つめるナジュムがいた。

 ――ああ。夢か――

 良かった。ああ、生きていて……生きていてよかった。
 あなたが、生きていて……本当に良かった。

「ああナジュム……!」
 私は涙ながらに咄嗟にナジュムを強く抱き締めた。
 ナジュムは驚きながらも、私の背中に腕を回し、優しく背中を撫でる。
「うなされていたので……心配で……大丈夫ですか?」
 恐怖に溺れていた私は一層強く彼を抱き締める。
「恐ろしい、夢を見た。み、皆が……」

 すると、一瞬だけナジュムの手が止まった。
「私が居ますから。大丈夫ですよ。大丈夫。大丈夫だから」
 彼の声も心なしか震えていた。

 神に愛された女王が神殿で見る夢――それが何を指しているのか、恐らくナジュムも分かっていたのだろう。

「だ、誰にも……誰にも言わないで。夢、夢のこと」
 声も手先も、全てが、全身が恐怖で覆われていた。
 何もかもが分からなかった。
 夢と現実の区別さえ付かずに、軽いパニックに陥っていた。
 逃げてしまいたい。全てからもう、逃げてしまいたいと本気で思うほど恐ろしい夢だったのだ。

「大丈夫。大丈夫です」
 私の背中をさするナジュムの手は震えている。
 この手を守らなければと強く思うほど、夢でナジュムを失った時の恐怖が鮮明に蘇り、私は恐怖に溺れた。

 ――夜明け前、私の運命の終わる音が聞こえ始めた。



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