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会長×会計
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・会長視点
・時間軸は書記√3以降
仕事が多いわけでもなく。だからといって仕事が少ないわけでもなく。
愛咲が淹れたコーヒーが入ったマグカップを片手で持ったまま、書類を捲り目を通す。
犬塚は部活で不在のため生徒会室は愛咲と二人きり。お互い無駄口を叩くわけもなく、静寂が続いているものの居心地は悪くない。むしろ最近ではこの静かな空間を気に入っている。
「会長、話があるんだけど」
……だがその静寂を破るように愛咲は俺に声を掛けてきた。
それは別にいい。だがいつもの間延びした甘ったるい声ではなく、至って真面目な声と表情で話す愛咲に、俺は眉間に皺を寄せた。
そんな愛咲の姿を何処か懐かしく思いながら、椅子に座ったまま見上げる。
「…何だ?」
「俺、生徒会辞めようと思ってるんだけど」
別にいいよね?そんなことを今日の天気でも話すような軽い口振りで言い放つ愛咲。
「あ゛?」
それには思わず自分でも驚く程の低い声が出た。
ガチャンっと乱暴に机の上に置いたカップからはコーヒーが溢れて、書類が茶色く濡れていくのが視界の端で見える。これが明日までが期限の大事な書類だとかはいっそどうだっていい。
「はい。これ辞任の書類。もう会長以外には許可も得たから」
「……、」
「早く判子押してくれる?」
差し出された書類は受け取らず、俺は愛咲をじっと見つめた。
その表情からは、俺が何を言っても聞かないと言わんばかりの意思が固さが見て取れた。それが余計に腹が立って仕方がない。
確かにここ最近は本来の半分の人数しかまともに仕事すらしていない。その分の皺寄せは残った三人に重くのし掛かっている。それは仕事を放棄している奴等が一番悪いが、会長として下を上手く引っ張れていない俺の責任でもあるのは確かだ。
「…駄目だ」
だからといって「そうか、分かった」と一言で、愛咲の申し出を許容してやれる優しさや器が俺にあるわけでもない。
「何で?俺じゃなくても仕事が出来れば誰だっていいじゃんか。俺より優秀な人はきっと居るよ」
「駄目だって言ってるだろうが」
この状況を作り出した原因でもある俺が、愛咲を引き止める権利などあるだろうか。いや、あるはずがない。だがこいつと唯一繋がりがある生徒会という組織すらも辞められてしまえば、話すことは疎か、会うこともままならないだろう。
『辞めて欲しくない』。そうみっともなく縋り付けばこいつは俺の元から離れることはなくなるのだろうか。
「……チッ」
だがそんなもの俺の柄ではない。プライドが邪魔をして上手く口に出来そうにない。
「ただ駄目だって言われても、納得出来ないよ。俺じゃないと駄目な理由でもあるの?」
「………」
そんなもの。
お前が好きだからという理由しかないだろう。
確かに愛咲は優秀だ。一般家庭で育っておきながら、この俺様と同様の力を持っているのだから。だがだからといってそれだけで愛咲では駄目だという理由にはならない。愛咲の代わりになる人材を宛てがえばいいだけなのだから。一人では補うことが出来なければ、二人でも三人でも会計の職に就かせればいい話だ。
「ねぇ、何でー?」
「…煩え。この話は終わりだ」
「何だよそれ。それで俺が納得すると思う?」
「……っ、煩えって!ただお前は、黙って一生俺の隣に居ればいいんだよ…っ」
……こいつを失うのが嫌で。
俺から離れていこうとする愛咲にも、はっきりと己の気持ちを伝えられない自分にも腹が立ち、ただ我武者羅に俺は愛咲が手に持っている書類を俺はビリビリに破いてやった。
これでは余計に生徒会を辞めるのを助長しているようなものだ。
きっと愛咲は怒鳴り散らし、このまま俺の元から離れていくんだろう。
……そう思ったのだが。
「…ふふ、っ」
俺の予想に反して、愛咲は手で口元を押さえながら笑い出した。
「何故笑う…?」
「いやぁ、…俺って愛されてるなぁと思ってね」
「あ?」
「会長。ほら、カレンダー見て」
「………」
「今日は四月一日でしょ?」
全部嘘だよ。そうニッコリと愉快そうに笑う愛咲に俺は文字通り言葉を失った。
この怒りと焦りを一体何処にぶつければいいというのだ…。
「わーい!大成功ー!」
「っ、一体俺がどういう気持ちで…、」
「え?どんな気持ちだったの?」
「…チッ。何でも、ねえよ」
「ふふっ」
「…俺は分かってて騙されてやっただけだ」
「それこそ嘘でしょ?」
「……ふんっ」
冷静な判断が出来なくなった今、何を言っても目の前に居る小悪魔に勝てるとは思えず。俺は眉間を指で押さえながら、深い溜息を吐いた。
END
結局、先に惚れた方が負けなのですよ。
そしてどさくさに紛れて、告白よりも熱烈なプロポーズをした会長でした(笑)
・時間軸は書記√3以降
仕事が多いわけでもなく。だからといって仕事が少ないわけでもなく。
愛咲が淹れたコーヒーが入ったマグカップを片手で持ったまま、書類を捲り目を通す。
犬塚は部活で不在のため生徒会室は愛咲と二人きり。お互い無駄口を叩くわけもなく、静寂が続いているものの居心地は悪くない。むしろ最近ではこの静かな空間を気に入っている。
「会長、話があるんだけど」
……だがその静寂を破るように愛咲は俺に声を掛けてきた。
それは別にいい。だがいつもの間延びした甘ったるい声ではなく、至って真面目な声と表情で話す愛咲に、俺は眉間に皺を寄せた。
そんな愛咲の姿を何処か懐かしく思いながら、椅子に座ったまま見上げる。
「…何だ?」
「俺、生徒会辞めようと思ってるんだけど」
別にいいよね?そんなことを今日の天気でも話すような軽い口振りで言い放つ愛咲。
「あ゛?」
それには思わず自分でも驚く程の低い声が出た。
ガチャンっと乱暴に机の上に置いたカップからはコーヒーが溢れて、書類が茶色く濡れていくのが視界の端で見える。これが明日までが期限の大事な書類だとかはいっそどうだっていい。
「はい。これ辞任の書類。もう会長以外には許可も得たから」
「……、」
「早く判子押してくれる?」
差し出された書類は受け取らず、俺は愛咲をじっと見つめた。
その表情からは、俺が何を言っても聞かないと言わんばかりの意思が固さが見て取れた。それが余計に腹が立って仕方がない。
確かにここ最近は本来の半分の人数しかまともに仕事すらしていない。その分の皺寄せは残った三人に重くのし掛かっている。それは仕事を放棄している奴等が一番悪いが、会長として下を上手く引っ張れていない俺の責任でもあるのは確かだ。
「…駄目だ」
だからといって「そうか、分かった」と一言で、愛咲の申し出を許容してやれる優しさや器が俺にあるわけでもない。
「何で?俺じゃなくても仕事が出来れば誰だっていいじゃんか。俺より優秀な人はきっと居るよ」
「駄目だって言ってるだろうが」
この状況を作り出した原因でもある俺が、愛咲を引き止める権利などあるだろうか。いや、あるはずがない。だがこいつと唯一繋がりがある生徒会という組織すらも辞められてしまえば、話すことは疎か、会うこともままならないだろう。
『辞めて欲しくない』。そうみっともなく縋り付けばこいつは俺の元から離れることはなくなるのだろうか。
「……チッ」
だがそんなもの俺の柄ではない。プライドが邪魔をして上手く口に出来そうにない。
「ただ駄目だって言われても、納得出来ないよ。俺じゃないと駄目な理由でもあるの?」
「………」
そんなもの。
お前が好きだからという理由しかないだろう。
確かに愛咲は優秀だ。一般家庭で育っておきながら、この俺様と同様の力を持っているのだから。だがだからといってそれだけで愛咲では駄目だという理由にはならない。愛咲の代わりになる人材を宛てがえばいいだけなのだから。一人では補うことが出来なければ、二人でも三人でも会計の職に就かせればいい話だ。
「ねぇ、何でー?」
「…煩え。この話は終わりだ」
「何だよそれ。それで俺が納得すると思う?」
「……っ、煩えって!ただお前は、黙って一生俺の隣に居ればいいんだよ…っ」
……こいつを失うのが嫌で。
俺から離れていこうとする愛咲にも、はっきりと己の気持ちを伝えられない自分にも腹が立ち、ただ我武者羅に俺は愛咲が手に持っている書類を俺はビリビリに破いてやった。
これでは余計に生徒会を辞めるのを助長しているようなものだ。
きっと愛咲は怒鳴り散らし、このまま俺の元から離れていくんだろう。
……そう思ったのだが。
「…ふふ、っ」
俺の予想に反して、愛咲は手で口元を押さえながら笑い出した。
「何故笑う…?」
「いやぁ、…俺って愛されてるなぁと思ってね」
「あ?」
「会長。ほら、カレンダー見て」
「………」
「今日は四月一日でしょ?」
全部嘘だよ。そうニッコリと愉快そうに笑う愛咲に俺は文字通り言葉を失った。
この怒りと焦りを一体何処にぶつければいいというのだ…。
「わーい!大成功ー!」
「っ、一体俺がどういう気持ちで…、」
「え?どんな気持ちだったの?」
「…チッ。何でも、ねえよ」
「ふふっ」
「…俺は分かってて騙されてやっただけだ」
「それこそ嘘でしょ?」
「……ふんっ」
冷静な判断が出来なくなった今、何を言っても目の前に居る小悪魔に勝てるとは思えず。俺は眉間を指で押さえながら、深い溜息を吐いた。
END
結局、先に惚れた方が負けなのですよ。
そしてどさくさに紛れて、告白よりも熱烈なプロポーズをした会長でした(笑)
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