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三空間目
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しおりを挟む翌朝。
至る所の筋肉が悲鳴を上げているせいで強制的に目が覚めてしまった。
痛い。痛過ぎる。何でこんなところが、とツッコミを入れたくなるような箇所すら痛い。
……原因は。
恐らく俺の真横で寝ている、顔の整っている悪魔のせいだと思います。はい。
スヤスヤと気持ち良さそうに寝やがって。俺は少しだけ貞操の危機を感じて、深く寝入ることが出来なかったんだぞ。こんにゃろう。
「……」
そういえば此処に来て初めて神田さんの寝顔を見たかもしれない。いつもは俺より神田さんの方が先に起きているからな。
しかしまあ。何というか。
イケメンって得ですよね。
普段は格好良くて、寝顔は少し可愛いなんてさ。これがあれか。所謂「ギャップ萌え」というやつだろうか。今の俺の立場は全世界の女性が羨む立場なのだろう。きっと大金持ちだったら数千万という大金でも叩いてこの場を勝ち取ると思う。
「(改めて考えると怖いな…)」
もし一般人以下の俺のような見た目も中身も最悪の俺なんかが、こうして神田皇紀と密室の空間で暮らしていると知られたら俺はどうなってしまうんだろうか。しかも給与付き。
……や、やっぱり、殺される?
「って、いやいや」
これ以上余計なことを考えるのは止めよう。筋肉痛だけでは済まず、頭痛すらも伴ってしまいそうだ。
俺は痛んだ筋肉を伸ばすように一度だけ前屈をしてから立ち上がる。
ふと時計に視線を向ければ、丁度五時を過ぎた所だった。
さて、どうしようかな。
少し寝汗を掻いちゃったし、今の内にお風呂に入るのもいいかもしれない。この時間ならば、まだ神田さんも起きないだろうし。入浴中に入って来られることは恐らくないだろう。
そう思って、鞄から着替えを取り出している時だった。
玄関口でカタンと微かな音が鳴ったのは。
「…?」
聞き間違いではない。だが配膳にしては早過ぎる。
少し不安はあるものの、こんな所に強盗が来る可能性はほぼゼロに近いだろうし、きっと職員の人だと思って俺は玄関に向かった。
するとポスト口に新聞紙が入っていることに気が付いた。
「あ、さっきの音はこれか」
なるほど。今まで知らなかったけれど、此処は新聞も配達してくれるのか。
本当に至れり尽くせりだなぁ。テレビでニュースを見れない代わりに、新聞で世の情勢を知れと言うことか。
そういえばここ数日の新聞を神田さんは何処に仕舞ったのだろうと暢気に思いながら、俺は新しく届いた新聞に視線を落とした。
……そして俺は、今更ながらこの状況の重大性に気が付いたのだった。
『神田皇紀失踪!?』
新聞の一面をデカデカと飾る見出しは、実にシンプルで分かりやすかった。
詳しく文章を読んでみると、神田さんが所属している事務所すらも彼の所在が分からないということで、警察は何らかの事件に巻き込まれたことを想定して行方を捜しているらしい。
「………」
俺の身体はこれ以上先の文章を読むことを拒んだのか、思わず持っていた新聞を落としてしまった。
…おいおいおい。やばいんじゃないのか、これは。
俺は落としてしまった新聞を震える手で拾い上げながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには事の重大さを知らないまま、気持ち良さそうに穏やかな顔で安眠している神田皇紀の姿が見えた。
先程と何ら変わってはいない。そりゃあ、そうだ。俺が今の状況を把握しただで彼はまだ知らないのだから。
「………」
行方不明?事件に巻き込まれた?
馬鹿言うな。その神田皇紀は俺の後ろで気持ち良さそうにスヤスヤと寝てるわ!
「か、神田さん!」
俺は神田さんの身体を激しく揺さ振った。
すると神田さんは覚醒したようで、「あ゛ー?」と何とも機嫌の悪そうな呻き声を発しながらゆっくりと身体を起こした。失踪記事を見ていなければ、彼のその低い声や冷たい視線に恐怖のあまり漏らしてしまっていたかもしれないが、今はそれどころではない。
神田さんの恐怖は二の次、三の次だ。
「…てめぇ」
「俺に怒るのは後ですよ、これ見てくださいっ」
「どうせ揺さ振るなら俺の上で腰でも振って起こせよ」
「ば、馬鹿…っ、こんな時にセクハラ発言なんて、」
心配してやっている自分が阿呆らしくなってくるじゃないか。
俺は頬を膨らませてぶすくれながら強引に神田さんの胸元に新聞を押し付けてやった。少しグシャッと音を立ったものの、破れてはいないので何ら問題はないだろう。
「…失踪って、大丈夫なんですか?」
“芸能界引退?”などの記事ならまだしも、事は失踪事件にまで発展してしまっている。
この状況は大丈夫なのだろうか?どうやって対処するのだろうか?そのことで頭がいっぱいだ。
自分とは全然関係無いことなのに、他人事とは思えないのは、数日とは言えど彼と一緒に暮らしている所為だろうか。大事になっているこの状況が心配で仕方が無い。
……だけど。
そんな俺とは正反対に。
「何の問題もない」
当の本人は、何の心配もしていない様子。
それどころか。
「全て予定調和だ」
不気味なほどに良い笑みを浮かべる始末。そんな神田さんを見て、俺が更に不安になったのは言うまでもないだろう。
「…………」
俺はただの期間限定の同室者。部外者中の部外者だ。
だがここまでことを知ってしまった以上、神田さんが放った「予定調和」の意味が気になってしまうのは仕方がないことだと思いたい。
なので俺は恐れ多くも神田さんに、どういう意味なんですか?と訊いてみた。
もしかしたら「部外者は関係ねえだろ」と、怒られてしまうかもしれない。それとも「うぜえんだよ」と、面倒臭がられてしまうだろうか。
「いいぜ、教えてやるよ」
だが俺が想像していた暴言を吐かれるどころか、神田さんは一度欠伸をした後、然も面白そうに俺に教えてくれた。
マネージャーにだけ居場所を教えておいたとか、失踪記事が出回ったすぐに記者会見を開かせるようにしただとか、突拍子もないことを色々と。
「え?ということは今日が会見…?」
「もしかしたら今がその最中かもしれねえな」
「…神田さんは出なくていいんですか?」
「そんな面倒臭えこと俺がするかよ」
「………」
そ、そんな適当でいいのか?
マネージャーの人が少し可哀想だ。絶対苦労耐えないだろうなぁ。
というかどういう内容をその会見で話すんだろう?
詳しい経緯が気になるけれど、此処ではテレビは見られない。それにこれ以上はあまり深入りしない方がいいだろう。神田さんにだって訊かれたくないこともあるかもしれないし。機嫌の良い今の内に深追いするのは止めておこう。
だけど、これだけは訊いておきたい。
「あ、あの、…神田さん」
「あ?」
神田さんの本当の性格が俺様だとか意地悪だとかは置いといて。
テレビの中の神田皇紀は俺の憧れの人だった。
引退するかしないかは神田さん自身が決めることだろうけれど、結論が気になって仕方がない。
「その、…芸能界、引退しませんよね?」
不安そうに訊ねる俺とは正反対に、俺の言葉に神田さんはニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべ始めた。
「何だ?俺が辞めたら嫌なのか?」
「そ、そりゃあ、…嫌というか残念というか…」
「ふーん」
「…何でニヤニヤするんですか?」
俺が「引退しないで」と淡い期待を抱いて縋っている様子を楽しんでいるということだろうか。そんな反応をされたら、恥ずかしくもなるし、多少の腹立たしさを感じる。
俺はこんなにも心配しているのにさ。
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