蜜空間

ぬるあまい

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四空間目

16(弟視点)

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(弟視点)


兄貴を探すために家を飛び出して、一ヶ月ぶりに帰ってきた家には、誰一人居なかった。
というよりも、すでに俺と兄貴の私物以外は何一つない。

「………」

“捨てられた”
簡単に言えばそうだろう。

だが俺からしたら何の問題もないどろか、好都合だ。
……だけどきっと兄貴は、あんな親でも居なくなれば悲しむのだろう。

「ふん。…ざまあみろ」

だがこれは兄貴が俺を捨てた罰だ。この家に帰ってきたら精々悲しむがいい。
その悲しみと虚しさの十倍以上、俺だって現在進行形で味わっているのだから…。

……結論から言えば。
クソ腹正しいことに、何一つ手掛かりが掴めなかった。

どこを走り回っても。手下を使って探しても。大金を叩いて探偵を雇っても。
……何一つ、分からなかったのだ。

どう考えてもおかしいだろ。
なぜ見つからない?なぜ手掛かり一つない?
……金で情報を消されているとしか思えない。

しかし、なぜ兄貴が……?
考えれば考えるほど、分からない。

俺は疲れを癒すために、兄貴のベッドに横になる。
俺のベッドとは違う、少し小さくて硬い寝床。

「…………」

一ヶ月間掃除一つされていないどころか、人も立ち寄らなかったせいか埃臭い。
だが僅かに兄貴の甘ったるい匂いがするような気がする。砂糖菓子に牛乳をぶっ掛けたような、クソ甘い匂いが。
その微かな匂いにしがみつくように、俺は顔を埋めた。

「…、…死ね」

…そうだ。
俺の物にならないくらいならいっそ死んでしまえばいい。
最後は俺の顔を見て、俺を憎みながら、…そして、俺の胸の中で死ね。

そんなことを素で考えてしまう俺は、心底頭がおかしのだろう。
そのことに、自覚はある。

「どこで、違った…」

兄貴を好きになった時か。兄貴を助けるために勉強し始めた時か。
兄貴に振り向いて欲しくて暴力を振るい始めた時か。

……ふん。
どれもまともではないじゃねえか。いつも俺一人が空回ってばかりだな。
だが、暴力を振るうその時だけは、俺だけをその目に移してくれるから止められそうにない。

もっと俺が器用だったならば、もしかしたら違う未来があったのかもしれない。
しかし、そんな根本的なことから後悔などしても意味はないのは分かっている。
……だが、この状況では嫌でも縋りたくなる。

「馬鹿か、俺は…」

何と女々しいことか。

「全部……兄貴が悪い」

埃の混じった甘ったるい匂いを嗅ぎながら、俺は考えるのを一時止めて、目を閉じた。

「…俺を好きにさせた兄貴が、全部悪いんだ」

帰ってきたら蹴っ飛ばして。殴って。首を絞めて。引っ掻いて。吸い付いて。噛み付いて。
……そして、殺してやる。

「……ふんっ」

実際どれ一つ出来そうにないが、頭の中で実行するくらいはいいだろう。
とりあえず首を絞めることが出来なかったら、苦しがるくらいに抱き締めるくらいは許されるはずだよな……?

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