蜜空間

ぬるあまい

文字の大きさ
44 / 152
五空間目

3

しおりを挟む
「………」

湯船の中で体操座りをした俺は冷静に思った。
これからどうしよう、と。

「……俺ってば、本当に可愛くない…」

そんなことは知っている。それに別に可愛くなりたいわけでもない。
……だけど。
今だけはそんな可愛くない性格に嫌気が差している。
だって立っているだけでも限界ギリギリだったというのに、自分で濡れた身体を拭いて、服を着て、なおかつ向こうの部屋まで歩くなんて芸当は今の俺には出来そうにない。

「頼れば、良かったのかなぁ」

今更そんなことを言ってもしょうがないことは分かっている。時間は戻らないのだから。
だけども冷たく断っておきながら、大声で助けを求めるなんて真似は出来ない。
一応こんな俺にだって、プライドはある。

「……全部、神田さんのせいだ」

そもそもこんな原因を作ったのは神田さんだ。それなのにヤるだけヤっておきながら、終わったらポイッなんてあんまりじゃないか。

いや、確かに俺が断ったけれど、そこはまあ、あれだよ。
そこでこそ俺の可愛くない性格を察して強引に押し切って手を貸せよ。

「…………」

腰は痛い。尻も痛い。叫び過ぎて喉も痛いし、それに喉が渇いた。
そろそろ熱くてのぼせそうなのに、自分で湯船から出れる気がしない。

「……、ぐすっ」

…何て最悪な日なのだろう。
今日一日だけで数年分涙を流したような気がする。

そう。全部、今日のこの出来事は。
神田さんのせいなのだ。

……それなのに。

「っ、…かんださんの、あほぉ…」
「…誰が阿呆だ」
「………ぁ、」

まさか返事が返ってくるとは思っていなかった俺は、俯いていた顔を上げて、反射的に声のした方を向く。

……するとそこには。
目を細めて俺を見下ろす神田さんが居た。

「……な、んで…」

グスッと鼻を啜りながら顔を見合わせる。また泣いているとろこを神田さんに見られてしまって恥かしいやら、弱味を握られてしまったのではないかと、色々葛藤するものの。
それよりもなぜ再び俺の前に現れたのかが謎で、俺は涙を拭うことすらも忘れて首を傾げた。

「……ほら、手を出せ」
「…………」

ぶっきら棒にそう言われた。
思わず強気に反抗する暇もなく、おずおずと素直に手を差し出してしまった。

「…少し痛いと思うが、我慢しろよ」
「……ん、」

差し出した手をギュッと掴まれ、俺は神田さんのその言葉に頷く。
すると神田さんは自分の服が濡れることすらお構いなく、俺の腰を支えながら手を強く引いて、無理矢理立たせてくれた。水に濡れた俺はいつもよりも重いはずなのに、軽々と抱き上げてくれた神田さんには驚くばかりだ。

神田さんはそのまま俺を横抱きにしたまま、タイルの上に座り込んだ。

「………」
「………」

決して広くはないユニットバスルーム。
しかも、神田さんは半裸で、俺は全裸。おまけに情事後で、口喧嘩のようなものをしたばかりだ。気まずいこと、この上ない。

「………」

しかし神田さんはそのまま俺を放置することなく、俺を背後から抱き込むように座ると、柔らかいタオルで俺の身体を拭いてくれた。…家にある物とは違って、優しい柔軟材のようないい匂いがする。

「あ、あの…、」

だけど流石にここまでされる義理はない。というかむしろ恥かしいから止めてくれないだろうか。こんなことを、こんな状況でされ続けたら、俺は恥かし死してしまいそうだ…。

「俺、…自分で…」
「黙ってろ」
「………、」

細々と小さな声で訴えたものの、バッサリと切られてしまい、これ以上強く言えなくなってしまった。神田さんはそのまま俺の身体をタオルで拭いていく。
しかも、足の指まで丁寧にだ。自分の身体を拭く時はあんなにも雑だったというのに、なぜ俺なんかの身体は丁寧に拭いていくのだろうか…。

………もしかしてこれは神田さんなりの仕返しというわけか……?

「…………」

だがそんな回りくどくて面倒なことをわざわざ神田さんがするわけがない。
…それならば、これは神田さんなりの俺への気遣いということだろうか。

「っ、あ……!」
「………」
「そ、そんなところまで、拭かなくていいです……!」
「黙ってろって」
「………っ、」

…いや、だけど嫌がらせという可能性も微レ存。
どこを拭かれたのかというのは、俺の名誉のために割愛しておこう。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...