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九空間目
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しおりを挟むどうやら想像していた以上に、神田さんと対面できる時間は短いようだ。それを理解すると同時に焦ってしまう。
……俺はこの貴重な数秒間を活用して、彼に何を伝えよう。
『お久しぶりです』
『ずっと会いたかったです』
『ちゃんと俺のことを覚えていますか?』
『あなたのことが好きです』
伝えたいことはいっぱいあるけれど、どれも大勢の人が居る中で言えることではない。俺なんかと神田さんが接点があるとは思われないだろうから、こんなことを言ってしまえばきっと俺は精神異常者だと思われてしまうだろう。なによりそれ以上に神田さんには迷惑は掛けたくない。
「次の方どうぞー」
……そんなことを考えている内に、俺の番が来てしまった。
「……あっ」
「…………」
係の人に促されるように座っている神田さんの前に立てば、バッチリと彼と目が合った。
……本当に久しぶりだ。久しぶりに俺は神田さんと対面している。感動で思わず泣いてしまいそうだ。だけど折角の再会の時に泣くなんて時間が勿体ない。きっとこれが俺が神田さんに会える最後のチャンスなのだ。きちんと目を見て話したい。
「ま、毎日テレビで見てます。頑張ってください」
「ありがとうございます」
二人きりの時に見せてくれた笑みではなくて、営業用の笑顔を浮かべた神田さんはそう言うと手を差しだしてくれた。出された大きな手をジッと見つめて、俺は男として憧れでもあるその手をギュッと握り締めた。
「これからもよろしくお願いします」
節ばってゴツゴツした神田さんの手は、相変わらず温かかった。
……ただの握手だ。神田さんからしてみれば色々の人とも、もう何回もしていることだ。だけど彼の体温を直に感じた瞬間、色々な感情が溢れ出しそうなってしまった。このまま周りの目など気にせず、この感情を彼にぶちまけられたらどれほど楽だろうか。『好きだ』と『愛しています』とぶちまけたい。
……だけど彼の順調に進み始めた芸能人生を、折角チケットを当選して楽しみにしてきた人たちの邪魔はしたくない。溢れそうになる感情を必死に抑えながら、俺は彼の手を手放した。
「是非ともじっくり見てくださいね」
「は、はい」
積み上げられている写真集の山からではなくて、なぜか別に置かれていた写真集を俺に手渡すと、最後に神田さんはそう言ってくれた。
「次の方どうぞー」
どうやら俺の時間はもう終わってしまったようだ。係の人に会場から出るように指示されてしまった。
俺は神田さんの手の温もりと感触を必死に忘れないようにしながら、会場を後にしたのだった……
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