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夜明け
夜明けⅡ
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おどろきに、息が上手く飲み込めない。
どういう意味だろう。私は、雨の日の教室で、女学生を殺したはずだ。
「しめす偏の方の二倍視だよ」
「しめす偏……?」
そういえば昨夜、屋上で峰子とそんな話をした気がする。たしか、途中でトランシーバーが鳴って、結局解答をもらえなかったのだ。
「人を殺したというのは、君の魔眼が見せた幻視だ。実際、私が、君の高校に侵入して君を保護した時、教室には君が倒れているだけで、血痕や死骸のようなものは一切見あたらなかった」
「それじゃあ……」
「ああ。君の魔眼は、現実の他に、もう一つ別の映像を君に見せたわけだからね、それで二倍視さ。なんでこんなことが起きたのかは分からないけど、その幻視以降、君が能力によって無差別に動物を殺すということも無くなったのも事実だ。あのまま進んでいたら、もしかしたら実際に人を殺してしまうなんてこともありえたわけだから、一種の抑制装置のような働きだったかもしれないね。もっとも、君に殺害衝動を抱かせた魔眼が、君の殺戮を止めたっていうのはおかしな話だけれど」
「――――信じていいのかしら」
「うん。構わない」
力強く首を縦に振る峰子の返事に、全身から一気に力が抜けたような気がした。本当に良かったと、ただただ、そう思う。
「そこでどうだろう。警察に行く必要は無くなった今でも、チームを組む件、返事は変わらないかな?」
優しい声音の峰子。
「うーん、確かに、断る明確な理由は無くなったけど……。そもそも、憑依者なんてそうそう出てくるわけでは無いでしょ? そんなに人手が必要なの?」
私の問いに、峰子は、考えるような仕草をした後に、言葉を発する。
「うん。人数が多いに越したことは無い。中四国を、日本の組織の元締め的な立場の私が担当している理由は、この地域がでの憑依者の発生が、世界的にみてもかなり頻繁な部類に入るからなんだ。それで、もう一人くらい人員が欲しいというのは、事実だ。ただ……それだけの理由じゃない」
「他に、何か理由があるの?」
「ああ。たいした理由じゃ無いんだけどな。笑われるかもしれないが、君がここに来てくれてからは、ずいぶんと賑やかになって楽しかったからさ」
頬をほんのりと赤く染めて、照れくさそうにはにかむ峰子。その態度に、私まで恥ずかしい気持ちになってくる。
「……なっ! そんな理由?」
「まあね。君が来てから、海斗もすごく楽しそうだった」
「そう? この施設にいる時は、アイツに、かなり嫌ってるような態度とられたのだけど。今朝でこそ普通に接してくれたし、電車に乗ってた時は、そんなこと無かったのに」
「うーん。それは、私の前で、歳の近い女の子と喋るのが恥ずかしかったんじゃないか? ほら、家族の前で異性と仲良くするのは、照れくさいみたいな時期あるだろ? 私は、海斗の母親代わりみたいなものだったから、それで恥ずかしくて、慣れないうちは、あんな態度を取ったんじゃないかな」
「は? 小学生じゃないんだから」
「でも、電車の中では普通だったんだろ? 電車とこことの違いは、私が存在するか、しないか、だろ?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「私たちが孤児院から海斗を預かって以来、海斗には、長い間、歳の近い知人がいないからね。距離感を計りかねたのだろう。アイツは、ああ見えて不器用だからな。前に言った通り、君のような年齢で能力に憑依される例は稀なんだ。だから君を誘ったのには、海斗の友人になってやって欲しいという意味もある。あ、恋人でもいいぞ?」
「恋人はさておき、そういうことだったら、あなたたちの手伝いをする件、お試し体験くらいなら考えてあげないことも無いわ」
「いいのかい、そんな簡単に決めて? 誘っておいてなんだが、もう少し、ゆっくり考えてもいいんだぞ? 普通のバイトなんかとは違うんだから」
「兵は神速を貴ぶっていうし、やってあげるっていうんだから、それでいいじゃない。江藤をいじるネタもゲットしたことだしね」
真梅雨なんていう忌むべき名前をもらった時点で、私がこの物騒な能力に憑かれたり、この変な組織と関係を持つことは決まっていたのかもしれない。そう思った。
2019 6月。梅雨。
「で、私を愛姫まで送り届けるのに、何で大量の荷物と一人のお荷物までついてきてるわけ?」
隣で中型トラックを運転している舞田峰子に、ジトっとした視線を送る真梅雨。
「誰が、お荷物だ!」
そんな真梅雨に抗議したのは江藤海斗で、峰子は、言い合いをする二人の姿をバックミラー越しに見て、微笑ましく思う。
真梅雨たちが廣島市から持ってきた大量の段ボール箱は、峰子の事務所の引っ越しに使用されることになった。騒音を伴う峰子の実験も一区切りがついていたため、真梅雨を仲間に引き込んだついでに、峰子の事務所も、愛姫に引っ越すことになったのだ。
峰子の運転する中型トラックは、しまなみ海道を渡り終えた。
どういう意味だろう。私は、雨の日の教室で、女学生を殺したはずだ。
「しめす偏の方の二倍視だよ」
「しめす偏……?」
そういえば昨夜、屋上で峰子とそんな話をした気がする。たしか、途中でトランシーバーが鳴って、結局解答をもらえなかったのだ。
「人を殺したというのは、君の魔眼が見せた幻視だ。実際、私が、君の高校に侵入して君を保護した時、教室には君が倒れているだけで、血痕や死骸のようなものは一切見あたらなかった」
「それじゃあ……」
「ああ。君の魔眼は、現実の他に、もう一つ別の映像を君に見せたわけだからね、それで二倍視さ。なんでこんなことが起きたのかは分からないけど、その幻視以降、君が能力によって無差別に動物を殺すということも無くなったのも事実だ。あのまま進んでいたら、もしかしたら実際に人を殺してしまうなんてこともありえたわけだから、一種の抑制装置のような働きだったかもしれないね。もっとも、君に殺害衝動を抱かせた魔眼が、君の殺戮を止めたっていうのはおかしな話だけれど」
「――――信じていいのかしら」
「うん。構わない」
力強く首を縦に振る峰子の返事に、全身から一気に力が抜けたような気がした。本当に良かったと、ただただ、そう思う。
「そこでどうだろう。警察に行く必要は無くなった今でも、チームを組む件、返事は変わらないかな?」
優しい声音の峰子。
「うーん、確かに、断る明確な理由は無くなったけど……。そもそも、憑依者なんてそうそう出てくるわけでは無いでしょ? そんなに人手が必要なの?」
私の問いに、峰子は、考えるような仕草をした後に、言葉を発する。
「うん。人数が多いに越したことは無い。中四国を、日本の組織の元締め的な立場の私が担当している理由は、この地域がでの憑依者の発生が、世界的にみてもかなり頻繁な部類に入るからなんだ。それで、もう一人くらい人員が欲しいというのは、事実だ。ただ……それだけの理由じゃない」
「他に、何か理由があるの?」
「ああ。たいした理由じゃ無いんだけどな。笑われるかもしれないが、君がここに来てくれてからは、ずいぶんと賑やかになって楽しかったからさ」
頬をほんのりと赤く染めて、照れくさそうにはにかむ峰子。その態度に、私まで恥ずかしい気持ちになってくる。
「……なっ! そんな理由?」
「まあね。君が来てから、海斗もすごく楽しそうだった」
「そう? この施設にいる時は、アイツに、かなり嫌ってるような態度とられたのだけど。今朝でこそ普通に接してくれたし、電車に乗ってた時は、そんなこと無かったのに」
「うーん。それは、私の前で、歳の近い女の子と喋るのが恥ずかしかったんじゃないか? ほら、家族の前で異性と仲良くするのは、照れくさいみたいな時期あるだろ? 私は、海斗の母親代わりみたいなものだったから、それで恥ずかしくて、慣れないうちは、あんな態度を取ったんじゃないかな」
「は? 小学生じゃないんだから」
「でも、電車の中では普通だったんだろ? 電車とこことの違いは、私が存在するか、しないか、だろ?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「私たちが孤児院から海斗を預かって以来、海斗には、長い間、歳の近い知人がいないからね。距離感を計りかねたのだろう。アイツは、ああ見えて不器用だからな。前に言った通り、君のような年齢で能力に憑依される例は稀なんだ。だから君を誘ったのには、海斗の友人になってやって欲しいという意味もある。あ、恋人でもいいぞ?」
「恋人はさておき、そういうことだったら、あなたたちの手伝いをする件、お試し体験くらいなら考えてあげないことも無いわ」
「いいのかい、そんな簡単に決めて? 誘っておいてなんだが、もう少し、ゆっくり考えてもいいんだぞ? 普通のバイトなんかとは違うんだから」
「兵は神速を貴ぶっていうし、やってあげるっていうんだから、それでいいじゃない。江藤をいじるネタもゲットしたことだしね」
真梅雨なんていう忌むべき名前をもらった時点で、私がこの物騒な能力に憑かれたり、この変な組織と関係を持つことは決まっていたのかもしれない。そう思った。
2019 6月。梅雨。
「で、私を愛姫まで送り届けるのに、何で大量の荷物と一人のお荷物までついてきてるわけ?」
隣で中型トラックを運転している舞田峰子に、ジトっとした視線を送る真梅雨。
「誰が、お荷物だ!」
そんな真梅雨に抗議したのは江藤海斗で、峰子は、言い合いをする二人の姿をバックミラー越しに見て、微笑ましく思う。
真梅雨たちが廣島市から持ってきた大量の段ボール箱は、峰子の事務所の引っ越しに使用されることになった。騒音を伴う峰子の実験も一区切りがついていたため、真梅雨を仲間に引き込んだついでに、峰子の事務所も、愛姫に引っ越すことになったのだ。
峰子の運転する中型トラックは、しまなみ海道を渡り終えた。
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