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第7章
閑話:白狼の憂鬱(2)
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ヤコフは少しだけビクつきながら、話し始めた。
「す、すまない。いや、俺が出来ることなら、俺がやるんだが」
そう言ってポケットから差し出したのは、掌より少し小さな丸い光の玉。
それを見て、アーロンは慌ててヤコフの掌から奪い取る。
「お前、これは」
「あ、ああ。俺も初めて見るから、何なのかわからなくて母さんに見せたんだ」
この光の玉を手にしたのは、昨夜の捕り物の最中だった。
ヤコフはアーロンのいた場所と反対側の倉庫に張り付いていた。その彼の目の前に、いきなりこの光の玉が飛んできたという。最初は、攻撃か何かかと焦ったが、ヤコフの掌に乗っても、それ以上の反応がなかったので何らかの魔道具ではないかと判断し、仕方なく自分の服のポケットに入れてしまったという。
そして捕り物が無事に終わり、帰宅してからポケットの中身を思い出し、捕り物の報告のついでに母親に見せたのだという。
「マジか……お前、これの意味、わかってるのか」
「母さんに聞くまで知らなかった。これ、本当に『救援の玉』なのか?」
「ああ……これは本国のウルトガ王家の王族が使う緊急用の魔道具だ」
「う、うわぁ……やっぱそうなのか……母さんが、アーロン叔父さんに渡せって言った意味わかった気がする」
この大陸にいる白狼族で、現役の冒険者は数人いる。しかし、王家に近しい血族となると、ジラート一族が一番濃かった。今のウルトガ国王の正妃が、白狼族の族長の娘であり、アーロンの父親の従姉でもあるのだ(ちなみに、へリウスはその正妃の末の息子である)。
肝心の玉の受取人であるヤコフはといえば、外見は完全に人族と変わらないが、四分の一とはいえ、白狼族の血が入っている。しかし、彼は行商人であり、残念ながら獣人としての能力が力以外にほとんど伝わっていなかった。
――この魔道具からの情報を受け取れない、ということだ。
手にした玉をしげしげと見るアーロン。
「玉からの情報を見て、俺に話を持ってきたってことは、ねぇちゃんにはキツイって判断したんだろうな」
商人の嫁になったライラ。若い頃、夫のラオルを護衛していた時に怪我をして以来、現場から退いていた。
「ったくよぉ、俺も休ませてくれよぉ……」
そう言いながらも、魔道具の玉に集中するように目を閉じる。
光の玉が微かに光を放ち始めると、アーロンの脳裏にいくつかの情報とともに情景が浮かんでくる。
「……マジか。ウルトガの元王子様とか。あー、そういや、親父から冒険者やってる人がいるって言ってたなぁ。って、いや、これは」
アーロンの脳裏には、今にも泣きそうな小さなエルフの子供が映っていた。
魔道具の持ち主は王子でも、それを使ったのは、そのエルフの子供。
「ちょっと、ヤバそうじゃねぇか」
顔を強張らせ、目を開くアーロン。
「や、やっぱり?」
「ああ、くそっ、すぐにでも出なきゃ」
「母さんがこれも渡しとけって」
そう言って手渡されたのは、大き目なリュックタイプのマジックバッグ。
「おいおい、こいつは行商用の特大サイズじゃ」
「うん、なんか、色んなものをつっこんであるらしい。何が入ってるかわかんないけど」
「さすがだね」
疲れが残っていないはずはないのだが、アーロンはそれをすぐに背負うと、部屋を出ていこうとして思い出す。
「あ、ヤコフ」
「なんだい、アーロン叔父さん」
「玄関のドア、直しとけよ」
「あ……はい」
しょぼんとしたヤコフを残し、アーロンは部屋から出ると、そのまま町の大通りに向かう。
先ほどの『救援の玉』には位置情報も表示されていた。さすが王家の魔道具。その情報によると、エルフの子供は少しずつ移動をしているのがわかった。しかし、子供のスピードにしては早すぎる。
「絶対、ありゃぁ、やべーって……間に合うのか、間に合うのか、俺……あー、くそー、俺の休みを返せ~」
そうぼやきながらも、アーロンは徐々に走るスピードを上げ、港町カイドンを飛び出したのだった。
「す、すまない。いや、俺が出来ることなら、俺がやるんだが」
そう言ってポケットから差し出したのは、掌より少し小さな丸い光の玉。
それを見て、アーロンは慌ててヤコフの掌から奪い取る。
「お前、これは」
「あ、ああ。俺も初めて見るから、何なのかわからなくて母さんに見せたんだ」
この光の玉を手にしたのは、昨夜の捕り物の最中だった。
ヤコフはアーロンのいた場所と反対側の倉庫に張り付いていた。その彼の目の前に、いきなりこの光の玉が飛んできたという。最初は、攻撃か何かかと焦ったが、ヤコフの掌に乗っても、それ以上の反応がなかったので何らかの魔道具ではないかと判断し、仕方なく自分の服のポケットに入れてしまったという。
そして捕り物が無事に終わり、帰宅してからポケットの中身を思い出し、捕り物の報告のついでに母親に見せたのだという。
「マジか……お前、これの意味、わかってるのか」
「母さんに聞くまで知らなかった。これ、本当に『救援の玉』なのか?」
「ああ……これは本国のウルトガ王家の王族が使う緊急用の魔道具だ」
「う、うわぁ……やっぱそうなのか……母さんが、アーロン叔父さんに渡せって言った意味わかった気がする」
この大陸にいる白狼族で、現役の冒険者は数人いる。しかし、王家に近しい血族となると、ジラート一族が一番濃かった。今のウルトガ国王の正妃が、白狼族の族長の娘であり、アーロンの父親の従姉でもあるのだ(ちなみに、へリウスはその正妃の末の息子である)。
肝心の玉の受取人であるヤコフはといえば、外見は完全に人族と変わらないが、四分の一とはいえ、白狼族の血が入っている。しかし、彼は行商人であり、残念ながら獣人としての能力が力以外にほとんど伝わっていなかった。
――この魔道具からの情報を受け取れない、ということだ。
手にした玉をしげしげと見るアーロン。
「玉からの情報を見て、俺に話を持ってきたってことは、ねぇちゃんにはキツイって判断したんだろうな」
商人の嫁になったライラ。若い頃、夫のラオルを護衛していた時に怪我をして以来、現場から退いていた。
「ったくよぉ、俺も休ませてくれよぉ……」
そう言いながらも、魔道具の玉に集中するように目を閉じる。
光の玉が微かに光を放ち始めると、アーロンの脳裏にいくつかの情報とともに情景が浮かんでくる。
「……マジか。ウルトガの元王子様とか。あー、そういや、親父から冒険者やってる人がいるって言ってたなぁ。って、いや、これは」
アーロンの脳裏には、今にも泣きそうな小さなエルフの子供が映っていた。
魔道具の持ち主は王子でも、それを使ったのは、そのエルフの子供。
「ちょっと、ヤバそうじゃねぇか」
顔を強張らせ、目を開くアーロン。
「や、やっぱり?」
「ああ、くそっ、すぐにでも出なきゃ」
「母さんがこれも渡しとけって」
そう言って手渡されたのは、大き目なリュックタイプのマジックバッグ。
「おいおい、こいつは行商用の特大サイズじゃ」
「うん、なんか、色んなものをつっこんであるらしい。何が入ってるかわかんないけど」
「さすがだね」
疲れが残っていないはずはないのだが、アーロンはそれをすぐに背負うと、部屋を出ていこうとして思い出す。
「あ、ヤコフ」
「なんだい、アーロン叔父さん」
「玄関のドア、直しとけよ」
「あ……はい」
しょぼんとしたヤコフを残し、アーロンは部屋から出ると、そのまま町の大通りに向かう。
先ほどの『救援の玉』には位置情報も表示されていた。さすが王家の魔道具。その情報によると、エルフの子供は少しずつ移動をしているのがわかった。しかし、子供のスピードにしては早すぎる。
「絶対、ありゃぁ、やべーって……間に合うのか、間に合うのか、俺……あー、くそー、俺の休みを返せ~」
そうぼやきながらも、アーロンは徐々に走るスピードを上げ、港町カイドンを飛び出したのだった。
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