39 / 39
1章 覚悟のとき
38話 いざ帰省!
しおりを挟む
目が覚めると、隣のぬくもりはない。しかし、すぐ目と鼻の先で人がなにやら動き回る気配がして重たい瞼を持ち上げる。そこには、なにやらばたばたした様子で衣類を畳みもせずにキャリーケースへ詰め込む聖也くんがいた。
「飛行機、取れたんですか」
思わず、おはようの挨拶よりも先に口に出す。彼は、ただ「うん」とだけ答えてゲーム機を大きないつもの黒いリュックへ押し込んだ後にファスナーを閉じた。
一見、いつも通り落ち着いた様子の彼。でも、僕にはわかる。彼はきっと、すごく帰省を楽しみにしている。だって、いつもならこの時間はゲームを作っていたし、そうでなければ眠っていた。まさか飛行機を早朝の時間にとったわけでもあるまい。
「飛行機いくらしたんですか」ベッドを降り、彼の荷物がぐちゃぐちゃに詰め込まれたキャリーケースの隣へ腰を降ろしながら尋ねる。
「おじいちゃんが払ってくれるって言ってた」と彼は濁して部屋を出た。
大方、あの大きなヘッドホンもしくは楽譜でも取りに行ったのだろう。僕は彼の詰め込まれた衣類を畳んで、ふぅと息をついた。
気にかかることがあった。小春のことだ。
もちろん、彼の実家まで飛行機へ乗せて連れていく気なんて毛頭ない。そうなると当然、誰かに預ける必要があった。そして、その相手にもまた心当たりがあった。だからこそ実家への帰省を僕から提案したのだ。でも。
「お父さんとお母さん、かぁ」
はぁ、とため息を一つ。小春のことは心配しなくてもいいだろうし、世話をしてほしいと頼んでもきっと二つ返事で受け入れてくれるだろう。とはいえ、だ。なにかお礼の品でも準備した方がよさそうだ。
再びため息が溢れそうになり小さく口が開いたとき、背後から再び扉が開く音がした。振り向くより先に、膝へ柔らかい肉球が触れる。
「あ、小春。おはよう」
にゃーと挨拶を返した彼女は心なしか寂しそうに見えて、少々心が痛む。こんなに小さな子を置いて行っていいのだろうか。現に、いつもは聖也くんにばかり引っ付いている小春が僕の方に来るなんて、何か察するものがあってのことかもしれない。
しかしそんな不安でいっぱいな僕とは打って変わって、背後から現れた聖也くんは僕の隣へしゃがみこみヘッドホンを持った反対の手で小春をわしゃわしゃと撫でてふっと笑顔を浮かべた。
「小春、お腹空いたって」
「あぁ……」
そういえば朝ご飯はまだだっけ、と。僕が立ち上がると小春はしっぽを優雅に揺らしながら僕の後をつけるのだった。
「飛行機、取れたんですか」
思わず、おはようの挨拶よりも先に口に出す。彼は、ただ「うん」とだけ答えてゲーム機を大きないつもの黒いリュックへ押し込んだ後にファスナーを閉じた。
一見、いつも通り落ち着いた様子の彼。でも、僕にはわかる。彼はきっと、すごく帰省を楽しみにしている。だって、いつもならこの時間はゲームを作っていたし、そうでなければ眠っていた。まさか飛行機を早朝の時間にとったわけでもあるまい。
「飛行機いくらしたんですか」ベッドを降り、彼の荷物がぐちゃぐちゃに詰め込まれたキャリーケースの隣へ腰を降ろしながら尋ねる。
「おじいちゃんが払ってくれるって言ってた」と彼は濁して部屋を出た。
大方、あの大きなヘッドホンもしくは楽譜でも取りに行ったのだろう。僕は彼の詰め込まれた衣類を畳んで、ふぅと息をついた。
気にかかることがあった。小春のことだ。
もちろん、彼の実家まで飛行機へ乗せて連れていく気なんて毛頭ない。そうなると当然、誰かに預ける必要があった。そして、その相手にもまた心当たりがあった。だからこそ実家への帰省を僕から提案したのだ。でも。
「お父さんとお母さん、かぁ」
はぁ、とため息を一つ。小春のことは心配しなくてもいいだろうし、世話をしてほしいと頼んでもきっと二つ返事で受け入れてくれるだろう。とはいえ、だ。なにかお礼の品でも準備した方がよさそうだ。
再びため息が溢れそうになり小さく口が開いたとき、背後から再び扉が開く音がした。振り向くより先に、膝へ柔らかい肉球が触れる。
「あ、小春。おはよう」
にゃーと挨拶を返した彼女は心なしか寂しそうに見えて、少々心が痛む。こんなに小さな子を置いて行っていいのだろうか。現に、いつもは聖也くんにばかり引っ付いている小春が僕の方に来るなんて、何か察するものがあってのことかもしれない。
しかしそんな不安でいっぱいな僕とは打って変わって、背後から現れた聖也くんは僕の隣へしゃがみこみヘッドホンを持った反対の手で小春をわしゃわしゃと撫でてふっと笑顔を浮かべた。
「小春、お腹空いたって」
「あぁ……」
そういえば朝ご飯はまだだっけ、と。僕が立ち上がると小春はしっぽを優雅に揺らしながら僕の後をつけるのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
毎日更新
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる