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それから村に行って始めた復讐は簡単だった。

「わる、悪かった!もうしねぇから!」

「…………なら、された分返してお互い様だね?」

「ひぃぃっ」

石を投げたものには投げられた回数分投げつけて、それがナイフならナイフ、虫なら虫……それぞれやり返した。抵抗した人もいたけど、案外自分が思っていたより人間は弱く、簡単に反撃できたし、復讐を望んだ彼女が使いなさいと渡されたロープで逃げられないようにするのも簡単だった。

僕は記憶力もいいのだろう。誰が、僕に何をしてきたか、細かいところまで僕は覚えている。だからこそ、やられたことを同じようにやり返すことができた。さすがに五百年も生きている人はいないから、今生きている人たちだけとなるけど。

「主人が死んでしまいます!どうか、どうか慈悲を!」

「え?まだ74回残ってるからだめ。あ、君たちの子供はそれよりは回数少ないから生きられるかもね?」

「そんな………っ!」

「ふふ、逃がさないわよ?この小さな村は私の連れてきた私兵が囲んでるから、しっかり罰を受けなさい?大丈夫、死ぬまでするんじゃない。やられた分やり返すだけだもの。生きれるといいわね?」

「いやあああああっ」

回数が回数だけにひとりではやり返しきれないことのため、ここでも彼女は、自らの私兵だと言って私兵の力で村人たちを逃がさないようにしてくれていた。ある程度は手助けをしてくれるつもりだったらしい。だからか、逃げようとする人たちは気絶させて、その人の順番が来れば無理矢理起こしてくれるため、後半ほどやり返しが楽だった。

ちなみに檻に入れられる少し前から約五百年ぶりに見ただろう村は、誰一人見たことがない人なんていやしなかった。つまり村全体が僕の復讐相手。

どこにぶつけられたか、刺されたか、全部全部覚えている。だから顔を集中的に石を投げてきた女性は生きてはいても、顔が傷やアザ、血だらけになって原型を留めていなかったり、足ばかりナイフを投げつけてきた男性なら、足が使えないほどに切り刻むように投げつけたり、された通りにしっかりやり返した。

時にその通りの半分をしただけで死ぬ人もいたし、虫は集めるのが大変だったけど、悲鳴を上げて失神した人もいる。失神で済んだならいいとは思うけど。

自分がされたことを人間にやり返すことで、自分がされてきた酷いことをなんとなく理解できた気がした。死ななくても痛い。死なないから僕は痛みから逃れられなかった。

なのに呆気なく死んで痛みから逃れた人間はなんとずるいのだろう。復讐なるものをして、初めて死が羨ましくなった。

まあ今は立場が逆だけど。虐げるのが楽しいとは思わないけど、痛みを感じ続けるより遥かに楽ではあった。復讐とはこんな呆気ないものかと少し覚悟を決めていただけにつまらなくも感じたけれど。

「すっきりした?」

「わからない。だけど、痛くはない」

「まあ物を投げるだけだもの。でも体力は意外にあるのね」

ずっと投げ続けていたからか、そう言われた。特に腕を使いすぎたからと痛みや疲れはない。檻があったから普段から物を投げられるばかりだったなと今更ながらに思う。投げるものはその時その時で違ったけれど。

よく飽きないものだなと思う反面。あれだけ楽しそうに僕に投げていた奴らは最後は僕に涙を見せ恐れていた。そして呆気なく死ぬのだから人間は身体も心も脆い。いや、僕がおかしいのだろうけど。

「次はどうする?」

「ふふ、この村の食糧も備蓄も、畑すらも燃やして去りましょうか。ガリガリだもの、貴方食事がなかったんでしょう?」

「食べなくても生きれた」

「でしょうね。でも痩せはするのね」

そこはよくわからないが、確かに食事もなく生きるのに問題はなかったが、身体はある一定まで成長した後、何年もの時を経てだんだん痩せて骸骨のように身体に骨が見え出していた。

「ああ、復讐はまだあったのか」

「そういうことよ」

そんな僕の身体を改めて見て、少し考えればわかった。食事を今までもらえなかったのだから、村からも食糧をなくしてやろうというのだ彼女は。

そうすればこんなぽつんとある村は生き残ったものもたちまち飢え死にすることだろう。

「檻に閉じ込めてもいいけれどあの場所が狭いし、少し面倒だなって」

「そこまではいい。十分だよ」

「あら、優しいわね。一人くらい生き残れたなら面白いのだけど……ふふ。炎よ、燃え上がりなさい!」

特に僕の言葉に反対することなく彼女は最後に命令するように言い放つとどこからもなくあらゆるところに火柱が立った。

魔法だろう。火が次々と燃え移り村人の住居さえ焼き付くしていく。住む家すらも消してしまうらしい。

僕でも洞窟だから屋根はあったけれど。あっという間に村は村でなくなり更地となった。あれだけあった火柱は消えて、人以外だけを丁寧に燃やし尽くした。

あるのは死体と怪我人と、虫だらけで狂いかけている人、そして村を囲んでいた兵士と僕と燃やした本人のみ。

「ふぅ………改めて、躊躇いのなさ気に入ったわ!私に仕えなさい!これからは私のやりたいことに付き合うの。その上で貴方もやりたいことが見つかればまあ、付き合ってあげてもいいわ」

「わかった」

随分な上から目線だが、こういう人達は多くいたから慣れている。それでも彼女の上から目線な態度は誰よりもしっくり来て堂々としていた。

「ああ、私はカレン・カトリーナ、公爵家の長女なの。まあ言ってもわからないでしょうけど」

「カレン……」

「様をつけなさい!様を!貴方どうせ名前ないんでしょ?私がつけてあげるわ。クロね!髪が黒いから!」

確かに名前はない。赤ん坊の時の数日間すら親に呼ばれたことはなかった。そんな僕が初めてもらった名前。随分理由が単純だけど、悪魔の子、化け物、悪魔とは違ったちゃんとした僕だけの名前がつけられた。

「クロ……僕はクロ」

「そうよ、私のペットみたいでいいでしょ?まあ、自己紹介も済んだしさっさと私の屋敷に帰りましょ。貴方五百年も髪切ってないんでしょ?鬱陶しい髪、帰ったら切るわよ。でも五百年ならもっと伸びるものかしら?」

「成長が止まった時から髪も伸びなくなった」

「切ったら生えないのかしら……?見た目は若く見えるけど貴方おじいちゃんなわけだものね」

「おじいちゃん…………」

そう言われると何か複雑な気持ちになった。

「まあ、いいわ!切ってみてしばらく様子見ればわかることよ!クロ、貴方臭いし、髪もうっとうしいし、ほぼ全裸でみっともなくて鬱陶しいから、御者の横に座りなさいね。毛布くらいはあげるから纏っときなさい」

「………うん」

仕方ないとはいえ、僕の主人になるだろうカレン様はとても正直だった。その通りではあっただろうけど。


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