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3章婚約者9歳、王子12歳
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「中々に便利だな、お前」
「ありがとうございます」
思わず褒めたのはこの婚約者が俺の婚約者と周囲にバレることなく、守護騎士になってさらに一年の時が過ぎた頃。さすがに国一番の強者騎士団長は倒せないようだが、副団長としての力と発言力、威厳は増しているようで女は怯えて近寄らない。
俺としてはこの一年かなり快適に過ごせていると言ってもいい。父が行く社交界には必ず俺も同席する。婚約者がいようといなかろうと俺と何かしら関係を持ちたいものは多く、側室、愛妾になれたらと図々しい令嬢が蔓延り、最初こそ父の尊厳を傷つけるわけにはいかないとにこやかに応対するが、しつこいもの、無礼なものには冷たく対応してきた。
最初から冷たくあしらいたいが何でもかんでもそうするわけにはいかない身分。それがどうだろう。婚約者を伴ってから確実に言い寄る令嬢が減った。ちなみに婚約者は婚約者でありながらも俺の守護騎士として一歩後ろに控えるのが常なので、未だ婚約者と知る者は少ない。
婚約者として公の発表も本来ならするべきだが、決まった婚約者を排除しようとする動きが見られたため危険が伴うからと結婚できる年齢の一年前にすることとなっている。この婚約者こそが危険に思えたし、早々排除できるとは思えないがあくまで表向きの理由だ。
探りを入れてくるものももちろんいたが、それもやはり婚約者が何かしらしたようで翌日からは怯えて近寄らない。たかが9歳。大人すら怯えるこの婚約者に危険が迫ることはあるのか。あるとすれば、騎士団長の裏切りがなければ無理だなと思ったのは一度や二度ではない。
とにもかくにもおかげで効率的に動けたり、婚約者の行動も婚約者との会話も気にならないくらい普通に接するぐらいには距離も縮まったと言える。母以外の女と嫌悪感なく過ごせる日が来るなど前なら考えもしなかった。
この婚約者を女と一緒にしてもいいものかはわからないが。
「殿下、学園のことなのですが」
ふと思い出したかのように呟かれた言葉。距離が縮まれば名前くらい呼んでもらっても構わないが、強要する気もないので言ってはいない。それに比較的静かに過ごせるようになった辺りから婚約者が考えた騎士としての偽名スアンと呼んでしまっているせいか、それに慣れ、気がつけば婚約者の名を忘れてしまったとは言えない。
王家に次ぐ公爵家だからこそアルノード公爵の娘の認識はある。しかし、名前が思い出せない。俺らしからぬ失態。とはいえ、スアン呼びに不便はないので構わないと言えば構わないが、女以前に守護騎士の仕事を真面目にしているスアンに悪い気はしていた。
もちろん調べればわかることだが、なんとなく自分で思い出したくて調べずにいる。
「学園か、お前もついて来るんだったな」
「守護騎士ですから」
話は戻して、学園とは貴族、平民と拘りなく行く教育の場。王族やその婚約者以外が通うところだ。そのせいで俺の婚約者はアルノード家の娘と知られるかと思ったが、アルノード家の娘とスアンは別人扱いで、アルノード家の娘は病で床に耽っているとされている。
何よりアルノード家の娘は誰も見たことがないそうだ。今や誰もが知る俺の守護騎士のことを言えば矛盾した内容だが。
逆にそこまで知られていないのは、俺に会うまで外の世界に出なかったという意味。
それはともかくとして何故王族やその婚約者が学園に行かないのかは、学園で学ぶことを城で学べるから故だ。スアンは例外だが、本来王族の婚約者は学園の代わりに城に赴いて王族のものと共に学ぶのが習わし。
スアンは城に住んでいて、尚且つ俺の守護騎士で常に側にいるので、最初こそ婚約者を知ろうと授業時間を調べて探るものもいたが誰ひとりわかるはずもない。探る頃には既に教師が来る前に婚約者は側にいるのだから。
ちなみに教師も知らない。不思議そうにしながらも、婚約者が学園に通いたいというのでと言えば納得したからだ。習わしとはいえ、城で学べるというだけで婚約者は強制ではない。だからこそ最初に探っていたものたちもそう考えて早くに諦めた。
とはいえ、何も勉強しないわけには行かないため、守護騎士だから俺から離れるわけにはいかないのと、幼くして騎士になり学園に通えないというのを理由に、俺の婚約者はスアンとして守護騎士のひとりでありながら本来勉学を学ぶべき子供であると言うことで特例として同じように俺と同じ教師から学園で習うことは学べている。
教師にだけ本当は婚約者であることを言ってもいいが、面倒が起きそうなので隠す方向だ。年齢差がある分習うものは違うが、教師は優秀でうまく同時進行で教えてくれている。
そんな俺たちが学園に行くのが王族の12歳の年。1年間の学園生活で何か成果を出すという課題がなされる。婚約者と共に。
学園で何も成せぬなら、国なんてもっての他ということだ。つまりは力量を試されるということ。婚約者と共にとは婚約者が王妃になるにふさわしいかの見定めでもある。
行く学園は学園の中でも問題が多い場所。なのでそれが改善できたならよし、できなくても力量を見られたのだからよしなわけだ。危険もあるかもしれないということでひとり護衛をつけられる。婚約者同伴が絶対なので俺の場合は必然とスアンになるのだが。まあ、誰も婚約者として来たとは思うまい。寧ろ既に入学していると考えているだろう。
俺の隣にいるとも知らずに必死に探すバカもいるだろうが、どうでもいいことだ。
ちなみにこの年齢で婚約者がいない場合は、王が選んだ者が強制的に婚約させられる。俺の場合は四年早くスアンとの婚約が強制されたが。女嫌いの俺ではその場凌ぎの急に宛がった婚約者とでは難しいと判断した結果かもしれない。
「で、何か問題があったのか?」
「学園では女子は女子の制服が義務づけられているようでして………」
「あー……」
思わず頭を抱えた。
「ありがとうございます」
思わず褒めたのはこの婚約者が俺の婚約者と周囲にバレることなく、守護騎士になってさらに一年の時が過ぎた頃。さすがに国一番の強者騎士団長は倒せないようだが、副団長としての力と発言力、威厳は増しているようで女は怯えて近寄らない。
俺としてはこの一年かなり快適に過ごせていると言ってもいい。父が行く社交界には必ず俺も同席する。婚約者がいようといなかろうと俺と何かしら関係を持ちたいものは多く、側室、愛妾になれたらと図々しい令嬢が蔓延り、最初こそ父の尊厳を傷つけるわけにはいかないとにこやかに応対するが、しつこいもの、無礼なものには冷たく対応してきた。
最初から冷たくあしらいたいが何でもかんでもそうするわけにはいかない身分。それがどうだろう。婚約者を伴ってから確実に言い寄る令嬢が減った。ちなみに婚約者は婚約者でありながらも俺の守護騎士として一歩後ろに控えるのが常なので、未だ婚約者と知る者は少ない。
婚約者として公の発表も本来ならするべきだが、決まった婚約者を排除しようとする動きが見られたため危険が伴うからと結婚できる年齢の一年前にすることとなっている。この婚約者こそが危険に思えたし、早々排除できるとは思えないがあくまで表向きの理由だ。
探りを入れてくるものももちろんいたが、それもやはり婚約者が何かしらしたようで翌日からは怯えて近寄らない。たかが9歳。大人すら怯えるこの婚約者に危険が迫ることはあるのか。あるとすれば、騎士団長の裏切りがなければ無理だなと思ったのは一度や二度ではない。
とにもかくにもおかげで効率的に動けたり、婚約者の行動も婚約者との会話も気にならないくらい普通に接するぐらいには距離も縮まったと言える。母以外の女と嫌悪感なく過ごせる日が来るなど前なら考えもしなかった。
この婚約者を女と一緒にしてもいいものかはわからないが。
「殿下、学園のことなのですが」
ふと思い出したかのように呟かれた言葉。距離が縮まれば名前くらい呼んでもらっても構わないが、強要する気もないので言ってはいない。それに比較的静かに過ごせるようになった辺りから婚約者が考えた騎士としての偽名スアンと呼んでしまっているせいか、それに慣れ、気がつけば婚約者の名を忘れてしまったとは言えない。
王家に次ぐ公爵家だからこそアルノード公爵の娘の認識はある。しかし、名前が思い出せない。俺らしからぬ失態。とはいえ、スアン呼びに不便はないので構わないと言えば構わないが、女以前に守護騎士の仕事を真面目にしているスアンに悪い気はしていた。
もちろん調べればわかることだが、なんとなく自分で思い出したくて調べずにいる。
「学園か、お前もついて来るんだったな」
「守護騎士ですから」
話は戻して、学園とは貴族、平民と拘りなく行く教育の場。王族やその婚約者以外が通うところだ。そのせいで俺の婚約者はアルノード家の娘と知られるかと思ったが、アルノード家の娘とスアンは別人扱いで、アルノード家の娘は病で床に耽っているとされている。
何よりアルノード家の娘は誰も見たことがないそうだ。今や誰もが知る俺の守護騎士のことを言えば矛盾した内容だが。
逆にそこまで知られていないのは、俺に会うまで外の世界に出なかったという意味。
それはともかくとして何故王族やその婚約者が学園に行かないのかは、学園で学ぶことを城で学べるから故だ。スアンは例外だが、本来王族の婚約者は学園の代わりに城に赴いて王族のものと共に学ぶのが習わし。
スアンは城に住んでいて、尚且つ俺の守護騎士で常に側にいるので、最初こそ婚約者を知ろうと授業時間を調べて探るものもいたが誰ひとりわかるはずもない。探る頃には既に教師が来る前に婚約者は側にいるのだから。
ちなみに教師も知らない。不思議そうにしながらも、婚約者が学園に通いたいというのでと言えば納得したからだ。習わしとはいえ、城で学べるというだけで婚約者は強制ではない。だからこそ最初に探っていたものたちもそう考えて早くに諦めた。
とはいえ、何も勉強しないわけには行かないため、守護騎士だから俺から離れるわけにはいかないのと、幼くして騎士になり学園に通えないというのを理由に、俺の婚約者はスアンとして守護騎士のひとりでありながら本来勉学を学ぶべき子供であると言うことで特例として同じように俺と同じ教師から学園で習うことは学べている。
教師にだけ本当は婚約者であることを言ってもいいが、面倒が起きそうなので隠す方向だ。年齢差がある分習うものは違うが、教師は優秀でうまく同時進行で教えてくれている。
そんな俺たちが学園に行くのが王族の12歳の年。1年間の学園生活で何か成果を出すという課題がなされる。婚約者と共に。
学園で何も成せぬなら、国なんてもっての他ということだ。つまりは力量を試されるということ。婚約者と共にとは婚約者が王妃になるにふさわしいかの見定めでもある。
行く学園は学園の中でも問題が多い場所。なのでそれが改善できたならよし、できなくても力量を見られたのだからよしなわけだ。危険もあるかもしれないということでひとり護衛をつけられる。婚約者同伴が絶対なので俺の場合は必然とスアンになるのだが。まあ、誰も婚約者として来たとは思うまい。寧ろ既に入学していると考えているだろう。
俺の隣にいるとも知らずに必死に探すバカもいるだろうが、どうでもいいことだ。
ちなみにこの年齢で婚約者がいない場合は、王が選んだ者が強制的に婚約させられる。俺の場合は四年早くスアンとの婚約が強制されたが。女嫌いの俺ではその場凌ぎの急に宛がった婚約者とでは難しいと判断した結果かもしれない。
「で、何か問題があったのか?」
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「あー……」
思わず頭を抱えた。
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