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今でもあの日のことを忘れた事はない。私を恐れ慄く周りの視線を。

それが原因でこの国の王太子との婚約が決定したことも。でもそのことに関してはどうでもよかった。色々面倒だっただけで。

「未来の夫に謝罪ばかり要求し、勝手に嫉妬して私の愛人候補をいじめるような貴様とは婚約破棄だ!」

なのについに私の婚約者はバカを通り越したことをしでかした。バカな女と共に。

そもそものことの発端は王太子が女好きすぎたことが原因だった。別に好意もないので好きにしたらといった感じだったものの、肝心の王命で婚約をさせた婚約者の父、この国の王様がそのことを知ったために面倒なことになった。

真っ青な顔で私に謝罪し、何故自分がと不満たらたらで謝罪する王太子こと私の婚約者。これが何度も続いた結果、ついには卒業パーティーの場で私に冤罪を被せることにしたようだ。

まあ本人が冤罪と思っているのかどうかはともかく。王太子に隠れて愛人候補と言われたにやつく令嬢は確信犯だろうけど。

さあ、ここで問題です。大勢の前でついに面倒ごとを晒したバカに私がとった行動は?








正解は

「いじめるって何をしたんですか?」

ただの質問。割と最近王太子のせいで面倒ごとが増えてイライラはしていたものの、まだ現時点では冷静でいられた。それもこれも普段から自分の感情の制御を訓練した成果である。

「しらっばくれるとはな!見ろ!アイカのこの頬を!」

「まさか嫉妬で叩かれるなんて思わなくて痛かったですわ……」

これが演技なら随分大袈裟に騒ぐなあと思う。頬もよく見れば赤くなっている程度なのに。それに叩かれたなんて、ねえ?

しかも嫉妬?誰が誰に?この間にもイライラゲージは溜まる。私はただそっと気ままに生きたいだけなのに何故こうなるのか。

「そんな暴力的な女とこの私が結婚などできるはずもない!さらには暴力前からいじめなど姑息なことを!貴様はまるで手のつけられない犯罪者……」

その言葉禁句で私は今まで耐えていたものがぷつん……と切れた。

ドオオオオオオオオオン

キレたと同時に激しい音が鳴り響く。その原因は私が壁をからだ。さっきまで調子づいていた二人は真っ青になり、見物していた周囲は困惑を隠せないものと恐れ慄くものがいた。ちなみに私が婚約に至った理由を知る者だろう人に関しては頭を抱えている。

「私がもし嫉妬に狂って叩いたとしたなら、手加減はしないでしょうし、そうなれば顔の造形が保たれるはずもないんですが、その証明として今殴ってもいいですか?本当に頬が赤くなるだけで済むのか」

「ひぃ……っそ、そんなわざわざ殴られるわけないでしょ!」

「そ、そうだ!証明のために殴らせるなど……!」

「ああ、大丈夫です。その代わり私を先に殴る権利をあげます。それでお互い様でしょう?」

「そそそそんなお互い様があってたまるものですか!力の差で不公平よ!」

ああ、喧嘩ふっかけながらあーだこーだとうるさいですわねえ……。

「そうそう……どうせ冤罪をかけられるなら一発も殴らないのは逆に勿体無いのでどっちにしても拒否権はありませんよ?」

「ちちち近寄るなあああ!」

ゆっくり一歩一歩と拳を携えて近づく度に二人は後退りして、真っ青な顔は白さを増す。このバカな婚約者はそもそも私が何故婚約者なのかすらも忘れていたのだろうか。いや、もしかしたら聞いていながら信じてなかったのかもしれない。

一応怯えつつも惚れた女性を守ろうとしている姿だけは褒めるべきか。

「ご、ごめんなさいごめんなさい!嘘つきました!認めます!謝りますから許してください!」

破壊した壁の瓦礫を背に追い詰められるとついに令嬢は自白した。随分耐えたものだなあとは思うけど、これで許しては私の気が済まない。

「認めるのですね?私を冤罪にかけようとしたこと」

「わ、私に嘘をついたのか!」

「なっ!殿下も知っていて私なら嘘も真になるって……!」

「ううう嘘をつくな……!」

「嘘でも嘘じゃなくてもろくに調べず冤罪かけようとしたってことで一緒ですし、婚約破棄は取り消せません。さて貴方達が認めたことで私は冤罪をでっちあげられたことに対して復讐という形でこの国貰い受けますのでご覚悟を」

「どういう……」

「私の力があれば王城など一人で攻め落とすくらい簡単ってことです。私を敵に回したらどうなるか身を持って知るといいですわ」

「ゆ、許して……私反省しますわ、だから」

「それだけは……!私が悪かった……!」

「私この力が発覚した理由が犯罪者だったのとそのせいで面倒なことばかり巻き込まれてきたのもあって、犯罪者呼ばわりだけは許せないのよ。大丈夫、今すぐではないわ。でも必ず殴ってあげるから楽しみにしていてちょうだい」

そうして顔色の悪い二人と遠巻きに私を見る周りを無視して私はその場を去った。ついに自由になったなあなんて呑気に考えながら。

ちなみに国を略奪する気は毛頭ない。だって面倒だから。あの二人はきっと私を誰より怖がっている国王が処罰をするだろうし、私の機嫌をよくしようとしばらくは金銭や贈り物が届くだろうから何の心配もなくだらだら生活ができることだろう。

しばらくはあの二人は私がいつ報復に来るかと怯える毎日だろうし、十分王太子に迷惑をかけられた分を考えたらすっきりしたのでどうでもいい。

「さーて気楽に生きましょうか」

その後私に関して怒らせたら世界が滅ぶなんて噂は出回ったみたいだが、一人のんびり過ごせるとその噂はそのままにしたのだった。

ちなみにあの二人は毎日私に怯えて髪が真っ白になったり食が通らない日々で自ら頑丈な檻のある牢屋に篭っているようだけど、やっぱりどうでもいいと思う。

END













あとがき
ふと思いついてちまちまと書いていたもののあまり長く続ける予定はなかったのでこれにて完結です。
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