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5章悪役令嬢の記憶の鍵
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「さっきぶりというべきですかね」
まさかすぐにハッケン先生を呼ぶことになるとは思わなかった。診察をしてもらうものの、ただぼーっと思考していたに過ぎないので問題があるはずもない。
「特に変わった様子はありませんね」
ハッケン先生からそうだろうと思った通りの返事が返ってくる。
「何ともないのですね?」
「はい」
「何か見落としでもありましたら………」
なんだろう、どこかで見たような光景だ。
「お母様、私は大丈夫ですから」
「べ、別に貴女の心配したわけではありませんからね?ただ、私騙されるのが嫌なのでハッケン先生がヤブ医者じゃないか見極めていただけでしてよ!そうだわ!他の医師にも診てもらって………」
「お母様、本当に大丈夫ですしハッケン先生に失礼ですわ」
それだけ私を心配してくれる気持ちは嬉しいのだけど、母はどうにも過剰的になることが多々ある。
「お嬢様、私も心配です。この者はどうにも信用できません」
「ダリィ!?」
まさかダリィがそんなことを言うとは思わなかった。ハッケン先生を見れば困ったような驚いたようなどうしていいかわからない表情だ。
「何故そんなに疑われるのかはわかりませんが、私はこれでも医師としての経歴はきちんとあります。それでは証明になりませんか?伯爵家に信用がないとなると私も今後医師を続けるのが難しくなるやもしれません」
「そんなつもりはなかったのだけれど、そうかもしれませんわね。だけど私もダーリンもハッピーニが心配なだけなのです。ひとりの医師だけを信用できないのですよ、私たちは」
母の言葉に驚きを覚える。何を思ったのか、無意識なのか母から素直に私を心配している言葉が口に出ていたのだから。それとまさかダリィの気持ちまで代弁するとも思わなかった。
それにしても最後の言葉に重みを感じたのは気のせいだろうか?私たちとはダリィと母のこと?でも母は、ダリィのことがわかるとばかりに言えるくらいの関わりがあっただろうか?
父が本当に拾ってきたかはともかく、ダリィがこのサセル伯爵家に来てからはほとんど私といたし、母と会話するところはそう見ていないだけになんだか不思議さを感じた。
「そうですか………。ですが確かに私の知らない病というものが絶対にないとは言えませんし、ハッピーニ嬢が負担にならない程度なら他の医師に見せるのもいいでしょう。ただ、私は何故貴方にそこまで嫌われているのか聞いても?」
最後の問いかけをする相手はダリィ。ハッケン先生の視線がダリィをじっと見る。ダリィの様子を見れば、笑みひとつ浮かべることなくハッケン先生に冷たい視線を投げ掛けていた。
こんなダリィ初めてで、ハッケン先生が何かダリィにしたのだろうか?そんなことを思う。だが、ダリィが話す気がないと思ったのだろうハッケン先生はどうしたものかと困った表情を浮かべながらその日は結局帰っていった。
その後また母が呼んだ別の医師に診てもらったのは言うまでもない。そこでようやく母とダリィは安心したかのように表情を緩ませたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
物語のキーポイント、ダリィがようやく始動。皆さん、先が読めますか?さすがに答えは言いませんが、皆さんの想像聞くの楽しいです。
by作者
まさかすぐにハッケン先生を呼ぶことになるとは思わなかった。診察をしてもらうものの、ただぼーっと思考していたに過ぎないので問題があるはずもない。
「特に変わった様子はありませんね」
ハッケン先生からそうだろうと思った通りの返事が返ってくる。
「何ともないのですね?」
「はい」
「何か見落としでもありましたら………」
なんだろう、どこかで見たような光景だ。
「お母様、私は大丈夫ですから」
「べ、別に貴女の心配したわけではありませんからね?ただ、私騙されるのが嫌なのでハッケン先生がヤブ医者じゃないか見極めていただけでしてよ!そうだわ!他の医師にも診てもらって………」
「お母様、本当に大丈夫ですしハッケン先生に失礼ですわ」
それだけ私を心配してくれる気持ちは嬉しいのだけど、母はどうにも過剰的になることが多々ある。
「お嬢様、私も心配です。この者はどうにも信用できません」
「ダリィ!?」
まさかダリィがそんなことを言うとは思わなかった。ハッケン先生を見れば困ったような驚いたようなどうしていいかわからない表情だ。
「何故そんなに疑われるのかはわかりませんが、私はこれでも医師としての経歴はきちんとあります。それでは証明になりませんか?伯爵家に信用がないとなると私も今後医師を続けるのが難しくなるやもしれません」
「そんなつもりはなかったのだけれど、そうかもしれませんわね。だけど私もダーリンもハッピーニが心配なだけなのです。ひとりの医師だけを信用できないのですよ、私たちは」
母の言葉に驚きを覚える。何を思ったのか、無意識なのか母から素直に私を心配している言葉が口に出ていたのだから。それとまさかダリィの気持ちまで代弁するとも思わなかった。
それにしても最後の言葉に重みを感じたのは気のせいだろうか?私たちとはダリィと母のこと?でも母は、ダリィのことがわかるとばかりに言えるくらいの関わりがあっただろうか?
父が本当に拾ってきたかはともかく、ダリィがこのサセル伯爵家に来てからはほとんど私といたし、母と会話するところはそう見ていないだけになんだか不思議さを感じた。
「そうですか………。ですが確かに私の知らない病というものが絶対にないとは言えませんし、ハッピーニ嬢が負担にならない程度なら他の医師に見せるのもいいでしょう。ただ、私は何故貴方にそこまで嫌われているのか聞いても?」
最後の問いかけをする相手はダリィ。ハッケン先生の視線がダリィをじっと見る。ダリィの様子を見れば、笑みひとつ浮かべることなくハッケン先生に冷たい視線を投げ掛けていた。
こんなダリィ初めてで、ハッケン先生が何かダリィにしたのだろうか?そんなことを思う。だが、ダリィが話す気がないと思ったのだろうハッケン先生はどうしたものかと困った表情を浮かべながらその日は結局帰っていった。
その後また母が呼んだ別の医師に診てもらったのは言うまでもない。そこでようやく母とダリィは安心したかのように表情を緩ませたのだった。
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物語のキーポイント、ダリィがようやく始動。皆さん、先が読めますか?さすがに答えは言いませんが、皆さんの想像聞くの楽しいです。
by作者
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