悪役令嬢は今日も泣いている

荷居人(にいと)

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1章泣く子には頭を撫でてあげましょう

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「ごめん、なさい」

「許す。だから、泣かないでくれ」

あれから2時間。魔王は疲れきっていた。さすがのミーアも泣き疲れている。

「まおうね、じゆうになったら、しんじゃうからね」

「・・・?」

涙で少し声を枯らせながら、頭がどうにも未来のために今からなんとかできないかと考えた結果。未来に起こる話をしようにもうまく言葉がまとまらない。

ミーアは覚えもよく賢いが、説明や説得といった言葉を考える才能はなかった。人との会話がなさすぎた故だろう。前世も同じくコミュ障なので役に立たず。

つまり魔王には何が言いたいか伝わらない。しかし、それを言えばまた泣くかもしれないと魔王はただただ聞くに徹する。

「(魔王の俺が涙に屈する日が来るとは、中々やるな、この子供)」

魔王は内心でそんな事を考えていた。おかげで会話が今だ進んでいないことに魔王は気づいていない。

「わかった?」

「・・・わかった(何言ってるかわからないことが)」

泣かせないことを第一にした魔王の適当な返事に気づいているのかいないのか、ミーアは安堵したように息を吐く。どちらにしろ魔王を信じるしかなく、バレた時はバレた時。禁術を使った時点でアウトなのだから考えても無駄と判断した結果とも言えよう。

とりあえず、学園に行くまではバレないことは知っているのでどうしようかと首を傾げれば、魔王も同じように首を傾げた。そしてふと気づく。

「でんき!」

「ど、どうした」

次はなんだと魔王は構える。ミーアの何が泣くきっかけになるかわからないせいかもしれない。しかし、ミーアはただ部屋が暗いことを思い出しただけ。ミーア自身暗い部屋に慣れているせいか夜目が利いていただけに気づかなかったのだ。魔王は住むところが魔界なため、暗いのには同じく慣れているため、何も感じてはいない。

立ち上がり電気をつけようとして首を傾げた。この世界には電気がない。部屋を明るくするにはどうすればいいのか、探ったが元々のミーアの記憶にもない。

「でん、き、ない」

「で、でんき?な、泣くな、どうしたんだ」

ただ電気がない。それだけに住む世界の違いに不安を覚えた。幼い故に、余計に不安が渦巻きやすいのだろう。再び涙声になりつつあるミーア。当然魔王はなんとかしようと理由を聞く。

「へや、くらいの、あかるくする、できない」

「部屋を明るくしたいんだな」

パチンと魔王が指を鳴らせば、とたんに部屋が明るくなる。青い光を発した丸い何かが、部屋中に浮いて部屋を眩しくない程度に明るくしていた。

「まほ、う?」

「そうだ。お前も練習すればできる。魔力があるからな」

「そうなんだ・・・」

乙女ゲームでも魔法はあった。しかし、悪役令嬢が魔法を使うのは、魔王に力がほしいと願った後、怪力と共に得たもの。願わなくても使えるのかと少しばかりわくわくした気持ちになるミーア。

「必要なら教えてやってもいいが」

「いいの!?」

「ああ・・・あっ」

と言って願いを言わすつもりが、こちらから言わせもせず叶えてしまおうとしていることに今更ながらに気づいた魔王。部屋は既に明るくした手前、魔力を消費しつつあるが微々たるもの、消す気にはなれない。

消してしまえば絶対泣く。そう思えば泣くことを危惧している魔王には無理な話だ。

「まおう?」

泣き止ませようと必死になり、綺麗なものを見せてくれた魔王をミーアが怖がる様子はない。なんとか泣かせないよう願うよう誘導できないかと魔王は考える。

「やっぱり、教えてほしいなら・・・」

「おしえて、くれるって・・・いった」

「あ、いや、だから」

「うそ、ついた」

「うぐっ」

悪魔とは嘘や誤魔化しを天使と違い平気でする。よって卑怯、嘘つき呼ばわりされたとしても気にならない。寧ろ褒め言葉だ。それは魔王としても同じ。だが、何故か目の前のミーアに言われると反省したい気持ちになった。ミーアは泣く直前だ。

やばいと魔王が思った時には2時間かけた慰めが無駄になった瞬間が訪れた。しかも自分の失態で。

「うぞづぎぃっ!ふえぇぇんっ」

「ぐぅっ」

何故か精神ダメージがすごい。魔王は思った。こいつこそ悪魔じゃないかと。2時間で試行錯誤したあれこれは無駄で、ミーアはミーアで喉は痛いし、嘘をついたからこそ、未来で魔王はやはり自分を死へ追いやるのだと不安が甦り、涙が止まりそうにない。

これには魔王もまいった。まさかちょっとした出来心の代償が止まらない涙になるなんて。声も無理に出しているようで痛々しい。教えると言っても嘘つきと言われ信じてもらえない。

信じてもらうために必死な魔王は、実に魔王らしくなかった。そんな魔王がふとしたことでミーアは涙を止めた。

「んん・・・っ」

ただ泣くなと頭を撫でただけ。

「頭、撫でてほしかったのか」

「きもちぃ・・・」

単純にミーアとして人に優しく触れられる経験がなく、泣くよりもそちらにびっくりし、撫でられる感覚に気持ちよさを感じたまでのこと。それを魔王は知らず、その手に嬉しそうに呟くミーアに、ミーアの頭から手を離せない。

不覚にもそんなミーアにきゅんとした魔王。その感覚が何かわからず、ただただミーアが満足するまで撫で続ける魔王だった。

これはこんな二人を見守るお話である。
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