私の夫はストーカー~私は恋も愛も知りません~

荷居人(にいと)

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1章

プロローグ

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「ううっ美世ちゃぁん!」

「いつまで泣くの?卒業してもまた会えばいいでしょ?」

「美世ちゃん、最後まで冷たすぎるよ!」

今日は高校の卒業式。長い長い卒業式は、私、榎本美世(えのもとみよ)にとって暇で苦痛な時間でしかなかった。中学校の卒業式でも泣いていた友人、鈴木瑠璃(すずきるり)は、高校の卒業式でも泣いている、現在進行中で。

「みーちゃんも瑠璃ちゃんの一割でもいいから泣くなり、笑うなりできればいいのだけれど」

そう言ったのは私の母親佳子(よしこ)。母の言う通り、私はどうも感情というものが理解できない。だから泣かないだけならともかく、大して笑いもしない私は、周囲に冷たい印象を与えてしまい友人は私と正反対で、よく笑い、よく泣いて、よく怒る、喜怒哀楽の激しい瑠璃一人。

「俺に似たんだろう。佳子に恋して人生が変わった俺のように恋愛のひとつでもすれば感情も動くに違いない」

母に続いて言うのは、父親の敦(あつし)。こうは言うが父だって表情は乏しい。確かに私より表情は豊かだろう。でも、笑っても、喜んでも、怒っても、悲しんでも、落ち込んでも、ひそか過ぎて家族の私たちにしか気づけない。

まあまずそれを感じない私が言うべきことではないけれど。でもまさか、そんな私を変えるきっかけとなる男性が、今日この日に現れるなんて、この時までの私は思いもしなかった。

「榎本美世さん、結婚してください。」

それは突然で普通なら誰もが戸惑う出来事。

「誰ですか?」

知らない人に急にプロポーズされれば誰もが驚くだろう。実際、私以外の周囲はみんなこちらを戸惑うように見ているし、瑠璃は涙を止めて唖然とし、両親は固まってしまっていた。

しかし、ただ驚くのはその点だけではないとわかる。私に突然告白したのはそこらの俳優やモデルでは敵わないだろう美形で、その男性は明らかにお高そうな車から出てきて、服すらブランド物かなと流行に疎い私でも感じられた。

そんな人が私にこれまたお高そうな指輪を掲げてプロポーズ。でも私はそれで今更感情が動くわけでもなく、取り合えず疑問をぶつけた。

「ああ、すみません。毎日君を観察していたので知った気になっていました。初めまして、星影時雨(ほしかげしぐれ)と申します。」

「次に私と結婚したい理由をどうぞ」

「君に一目惚れしてから毎日見ていました。真面目なところ、堂々とした姿を見せたと思えば、家ではだらしなくソファで寝ながらテレビを見るなど、気を抜く姿、他にも・・・」

つらつらと初対面の人に私の私生活を言葉だけで公開された。普段冷たく思われている私から想像していなかったのか、マジかと男性とは別の驚きで私を見る視線にも気づいたが無視。止まりそうにない言葉は、私に考える時間を与える。

別に私生活を公開されたとして羞恥で動くような私ではない。まあこんな私を好きになる人なんてこの先現れないだろうし、父も恋愛すれば変わるようなことも言っていたから、恋を知るいい機会かもしれない。

「わかったわ。結婚しましょう」

「それに・・・え?本当ですか!?」

「ええ」

まだ続いていた言葉を無視して言えば目を輝かせる男性星影さん。あ、旦那になるなら時雨さんと呼ぶべきだろうか。

ちらっと瑠璃を見れば、まだ唖然としているし、両親を見れば本気か?と目が訴えている。

「恋愛のひとつでもと言ったのはパパでしょ?」

「これは・・・違うだろう」

「美世さんは幸せにします!結婚式はこちらで準備しますね。籍は明日入れましょう。明日の朝、美世さんの家に私の方から行きますので待っていてください。この指輪は結婚式をあげるまでの代わりの指輪です。」

こんな高そうな指輪が代わり。美世さん呼びだし、やはり私も時雨さんでいいのだろう。左手の薬指でなく、右手の薬指にはめられた指輪を見て一体いくらなんだろうと思ったが、聞くものでもないから思うだけに留まる。

指輪をはめてはにっこりと笑って去っていくその人は去る背すらも品よく映る。さて、結婚するなら内定が受かっている職場はどうするべきだろうか?

私が考えるのはそんなことだけ。周囲が戸惑う中、私だけは特に動揺もせず、翌日時雨さんと籍を入れ、結婚式の準備も早かった。就職先からは連絡を入れてもないのに、ご結婚おめでとうございますと言われ内定取り消しに。

両親は結婚式が終わっても、時雨さんの笑顔に流されるまま訳がわからないと頭を抱えていた。父すらも私が生まれてから見せたことがないくらいわかりやすい顔で表情が出ていたので、中々に面白味のある結婚式は悪くない。

ちなみに時雨さんの両親は先ほど初めて挨拶した。これまた、戸惑いを隠せてはいなかった。誰もが急に、なんで、どうなっていると混乱の渦の結婚式。中々見れるものではないのがわかる。

「楽しそうですね」

「悪くはないです」

「それはよかった」

恋愛や結婚に興味など抱いたことはなかったけど、ただよくあるただ流れのままの結婚式や感動のつまるような泣けとばかりの結婚式に比べれば、だらだらで誰もが混乱する結婚式の方が私にはいいみたいだ。

思い出ひとつない彼、名前しか知らない時雨さんとの結婚式にはサプライズなんて時間の無駄すらなく、ただ混乱したままに終わりを告げる。

高校卒業をしてたった一週間、結婚式も終わり、彼との同棲生活及び夫婦生活の始まりは私と彼以外の混乱と共に始まった。
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