私の夫はストーカー~私は恋も愛も知りません~

荷居人(にいと)

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1章

夫婦生活初日の初デート4

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「カードごとき私には簡単だ!」

出来事なんて、きっかけなんてものは簡単なことから生まれる。

「カード・・・ごときと言いましたか?」

「な、なんだ、お前は・・・」

「美世?」

自分でも感じる冷たく、低い言葉。じっと時雨に向けようとしていた視線を丸々太ったそれに向ければ、その私に何を感じたのか、何か恐ろしいものでも見たかのようにどもる声が返ってきた。

時雨が私に向けた言葉に返事が返せないくらい私は込み上げる何かを感じている。

これは苛立ち?そう、私は何気ないそんな言葉に苛立った。

カードごとき、簡単?私の珍しくも楽しいと思える時間を、楽しかった瑠璃との思い出を、否定されたような感覚。

楽しみどころか心を動かしてくれる唯一のそれを、そんな私から見れば下手なイカサマで調子に乗ってカードごときとカードをバカにする権利がこんなものにあるはずがない。

「私と勝負なさい、豚」

「ぶ・・・っ!?」

「汚い口は閉じて、耳が汚れてしまうわ」

「このっ小娘が・・・!」

「誰に手を出そうとしている?」

「ほ、星影様ー!?」

怒り任せに振るおうとした腕は、時雨によって止められる。豚と私が呼んだその人は、怒りで赤くなった顔から時雨を目の前にしたとたん、青ざめていた。まるで、王子様みたいね。私の夫は。ストーカーとは思えないわ。

「聞こえなかったかな?私の妻に貴方は何をしようとしましたか?」

「ひぃっすみません!すみません!すみません!」

私からは時雨の背しか見えないけど、きっと時雨は笑っている。時雨が怒りを露にするなんて想像できないもの。それに、声のトーンはいつもと変わらない。なのに、こうも人を怖がらせるなんて随分頼りになること。

でもね、それじゃあ私の気は収まらない。貴方も私のストーカーとしてまだまだね?

「時雨、助けてくれてありがとう。でも、これは私が売った喧嘩だわ」

「美世・・・そうか、わかった。なら君の喧嘩が終わった後、僕が喧嘩を買うことにしよう。それなら構わない?」

「ええ」

周囲の視線が集まり始めているのを感じながら了承すれば、時雨が豚から離れる。時雨が許したわけではないから青ざめたままの顔はそのままだ。

「もう一度言います。勝負なさい、豚」

「ぐ・・・っはい」

怒りと恐怖で私と時雨に視線が行ったり来たり、赤くなったり、青くなったりと目の前の豚顔は忙しいそうね。

「ディーラーさん、席を譲ってくれる?」

「は、はい。あの、未成年の賭博は・・・」

「大丈夫。私が勝てば賭けた分のチップに相当したプレゼントをしてもらうつもりよ?そんなゴミは捨てるけれど。時雨、お金を捨てるような真似になるけどごめんなさいね?先に謝っておくわ」

「構わないよ。僕以外の男のプレゼントなんて僕が耐えられないしね」

「ヤキモチというものかしら?」

「そうだね」

「悪くはないわ」

怒りは表に出さないまま、時雨との会話で多少は落ち着けた。譲ってもらった席につけば、時雨はその少し後ろに移動して、それを見て、周囲がざわざわと私たちを囲む。

「こ、ここはカジノ、未成年の君にプレゼントはよかろう。わ、私は勝てば何がもらえるのかね?」

自分のプレゼントはゴミと表現され、負けるわけもないかのような会話にどうやら豚は怒りが勝ったようだ。未成年相手に勝てば何がもらえるかなんて大人げない発言をよくできるものね。

でも確かにここはカジノ。もしも、万が一イカサマでもなんでもして勝てたなら褒美くらい用意しなきゃ、私が勝てたと感じられそうにない。勝負は本気でしてもらわなければこの怒りは収まらないのだから。

「時雨が貴方にしようとしている喧嘩を止めてあげる。私にしかできないことよ?」

「美世」

「だめ?」

「君はずるいな・・・。でも、まあ構わないよ。君なら勝てるだろうから」

「ええ、信じて」

「ふ・・・っははっな、ならば容赦はしますまい!星影様、その言葉お忘れなく!」

「貴方も負ければ人生終わりなのをお忘れなく」

どうやら時雨は私が思う以上の権力者のようだ。勝てば許される安堵か、豚は調子を取り戻したようだし、周囲も盛り上がってきた様子。

時間稼ぎももう十分ね。イカサマの準備に気づかない時点でもう私の勝ちなのに。

チップがなくなるまでの時間、バカにしたカードで絶望なさい?

そういうわけで、この後の勝負の行方は言うまでもないわよね?
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