私の夫はストーカー~私は恋も愛も知りません~

荷居人(にいと)

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2章

夫婦生活の報告5

「「「「お帰りなさいませ、時雨様、奥方様」」」」

待ち構えていたかのようにずらっと並んでいるのは、現実にいたのかと思う執事とメイド。外も豪邸と言える場所なら、中もそれに相応しく、敷居が高く感じられる。それでも落ち着きある雰囲気だから、変に見目を飾るような家でなくて悪くは感じない。

時に家と言うものは、人を知るひとつとも言える。その点を考えれば、この家の人、つまりは時雨の両親が見栄を張るような人でもなく、人のなりをしっかり見極めようとする人ではないかと思うし、そうでなくても、ここへ着くまでに見た庭の風景は、優しさすら感じて、人を思いやれる人たちなのではないかと思う。

別に時雨の親が庭を手入れしているとは思わない。ただ、時雨の親が雇った庭師がそういった優しい人柄で、そんな人を選べた時点で、そんなよき縁を持てる人たちだと私は思う。さらに言うならその縁を大事にする人であることも。

のびのびと仕事ができる環境を作っているからこそ、庭も玄関すらも悪くはないと私が思えるのだと思う。この想いを何と伝えていいかはわからないけど、悪くはないのだ。

「父さん、母さんは?」

そんな思いに耽っていると、時雨が執事の長のような老人に訪ねる言葉。時雨なら父上、母上なんて呼んでそうだったけど、意外にそうでもない。こんな家にいるせいもあってか、なんだか違和感すら感じるけど、呼び名に文句を言うほど私も無粋ではない。

「客間にいらっしゃいます。そちらの方が話もしやすいとのことで」

「わかった。美世、この人は執事長を勤める田中さん。この実家に来る度に、一番お世話になると思うから覚えていて損はないよ」

まあ、今日一度きりのお話にはならないだろうし、見たまんま執事長で、田中さんとは、何とも覚えやすい老人様だわ。まずは挨拶くらいはするべきよね?私を知らぬたちばかりなのだから。

「田中さん、お初お目にかかります。時雨の妻、星影美世です。」

「これはこれはご丁寧に。私は、星影家の執事長を勤める田中芳明(たなかよしあき)と申します。皆には親しみも込めて、田中さんと呼ばれておりますので、そのようにお呼びいただければと思います。客間にメイド長もいますので、ぜひ時雨様にご紹介いただいてくださいませ。」

「そうさせていただきます」

「挨拶も済んだようだし、案内するよ。美世」

「ええ」

「では、ごゆっくり。私たちはすることがございますので」

「出迎えごくろう。僕たちのことは気にせず普段の仕事を全うするように」

「「「「はい」」」」

息ぴったり。特にメイドや執事たちから嫌な視線は感じない。メイドとして、執事として、どう思っても顔に出さないよう訓練されているのか。はたまた、時雨を主人のご子息としか見ていないものばかりなのか。

こんなのが妻に!と、時雨に惚れた女の嫉妬や時雨を尊敬すればこそ許せない男などいてもおかしくなさそうだ、と思っていたけど、そんなことはない。まあ早々ドラマみたいなことはないようだ。

そういうのがあれば、刺激になって時雨に恋のひとつやふたつできると思ったのだけど。まあそんな人たちがいれば、時雨がここに連れてくるどころか、まず両親に呼ばれたからと言ってそのこと自体、話さない可能性もあったわよね。

まあ今回は諦めましょう。いつか修羅場を経験したいものだわ。時雨の取り合い・・・するまでもなく私勝てそうね?難しいものだわ。

なんてことを考えていれば客間に着いたようだ。時雨が扉をノックする。

「時雨と美世です」

「入りなさい」

低い男性の声。恐らくも何も時雨の父だろう。結婚式の時とは随分違った威厳ある声。まあそれほどにあの時は戸惑いが上回ったということだ。

その言葉と共に、時雨に続いて私も客間に入る。座るようにも言われて、時雨の両親の向かい側の席に着く。私は母に、時雨は父に向き合う形になった。

なるほど、冷静なこの方たちからはやはり結婚式の時と随分雰囲気が違う。でも時雨は相変わらずの笑みだし、気にかける必要もないと悟った。

「改めて紹介するよ。僕の母ルーシアと父優作(ゆうさく)」

「結婚式では挨拶しかできなかったので、お話の機会が得れて光栄です」

愛想笑いを浮かべては、じっと私を見る義母と義父。名前からしても、見た目にしても、外国人を思わせる義母は綺麗だ。どう見ても、時雨の見目の遺伝子は、絶対に義母だと断言できる。

そう思っていれば、雰囲気ぶち壊しの義母の元気のいい声が部屋に響く。

「ねぇ、プロポーズを受けたのはなんでかしら?やっぱり顔!?」

机を乗り上げるような勢いで興奮気味な義母。この落ち着きのない人、本当に時雨の母親?瑠璃の母親と言われた方が納得できそうだわ。中身は義父似ね?今は威厳を保つためか黙って真顔だけど。

「顔とお金がありそうだったからです。後、気づきはしませんでしたが、会う以前からストーカーされていたので、どんな私をも受け入れる様子でしたし、恋を知るにはいいかなと」

「「ストーカー!?」」

もうそこしか聞こえてなかったかのように大声で言われた。素直に答えた結果がこれだ。こちらこそ驚く、両親は知らなかったのかと。時雨を見ればやはりにこりと笑われた。

確かに言うべきことでもないけど、時雨のせいで威厳保とうとしてた義父が青ざめてるわよ?
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