泣かないで!~王子様は悪役令嬢に笑ってほしい~

荷居人(にいと)

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1章ー幼少期ー

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「ひっひっひっキリアス殿下殺戮の許可をいただけますか?」

エリーナとの会話中、突然どこからともなく現れた先生が物騒な許可をいつもと変わらぬ態度で求めてきた。急に現れたことに驚けばいいのか、許可を求めてきた内容に驚くべきなのか訳がわからない。

「せんせい、なにかあったんですか?」

「いえ、キリアス殿下に帰るよう伝えるようにレーヴェ公爵に頼まれたものですから、キリアス殿下に命じようとするなど死に値するかと思いまして。その原因になった曲者と、その曲者をくだらぬ理由で寄越した阿呆と、私がいれば大丈夫だというのに自らが受け持つ警備兵が頼りにならないからと勝手な理由でキリアス殿下に命じるレーヴェ公爵と、みすみす曲者を招き入れた自分の仕事ひとつまともにできない警備のものたちを纏めて殺そうと思いまして」

いつもと同じ態度に思えたが、珍しく怒りを覚えているのか聞きなれた笑い声ひとつあげずに言い切った先生。やはり僕が見えないところで警護していてくれたようだけど、警護をするにあたって何かしら怒りに触れてとんでもない許可を僕に求めてきたのだろう。もし面白半分に許可しようものなら先生は本当にやってしまいそうだ。いや、先生ならやるね。

もちろんおふざけでもそんな許可はしないけど。先生もわかっているだろうによっぽど腹が立ったらしい。多分、聞いている限りジルバス公爵に対してだろうなと思う。

先生は何故か僕に対して何かを命じる人をひどく嫌うから。それは父上に対しても例外ではない。理由はよくわからないけど、僕を汚染されたくないとかよくわからないことを言っていた。先生ほどすごい人になると理解に及ばないこともあると僕なりに理解している。

「せんせいがおいかりなのはわかりましたが、すぐひとをころそうとするのはいけません。それにジルバスこうしゃくは僕のぎふ義父になる方ですよ?よくわからないですが、くせものということはわるいひとがでたってことですよね?ジルバスこうしゃくは僕のあんぜんをかんがえてくれたってことですからせめるひつようはありませんよ」

「ひひっさすがはキリアス殿下慈悲深い……。頼んでいただければいつだってキリアス殿下の気に入らない人物は殺しますので」

「えっと……きもちだけもらっておきますね?」

なんとも答えにくい返し。わざとなのか本音なのか、先生の場合わかりづらい。でもそんなことよっぽどじゃなきゃ頼むことはないだろう。できれば頼む日なんて来なければいいけど。

「ひっひっひっ是非に。さて、それはそれとしてそちらのご令嬢がキリアス殿下の婚約者ですな?」

「え、あ、はい」

急に意識がエリーナに行き、まさか先生がエリーナを気にするとは思わずそれはそれで驚く。すぐにいなくなったから話す気などないとばかり思っていたけど気が変わりでもしたんだろうか?

見た目はワカメ頭のぐるぐる眼鏡に、怪しい笑い声のため、エリーナが怖がらなければいいけどとは思いつつ、元々紹介はしたいと思っていたのでいい機会だと思い直す。

先生がエリーナに意識を向けたと同時にエリーナに意識を向けた僕はエリーナの様子を目で伺ってはみるものの、既に泣いているエリーナからは突然現れた先生をどのように感じているかはわからなかった。
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