悪役令嬢が望んだ処刑の日【本編完結+エンド後ストーリー複数完結】

荷居人(にいと)

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本編【完結】

悪役令嬢が望んだ処刑の日

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「君とは婚約破棄だ」

ようやくここまで来た。

「あら、私がおらずしてどなたが私の代わりになれるのでしょう?」

毎日が気を張って生きていく日々で、私は私の望む死のために悪を演じてきた。どうあがこうと私の未来に限りがあると知ったその日から。

「君には見えないのか?隣にいる令嬢が。いや、そんなはずはないな。君が殺そうとした人物なのだから」

先程から私が相手にしている人は私の婚約者。正義感も強ければ、心根も優しく、勉強熱心で国民に愛されるこの国の王子様。そんな人だから、私がいくら悪を演じても何かあったのではなんて最後まで私を信じようとしてくれた私の愛する人。

だからとても苦労したの。彼のこれからの相手を見繕うのは。互いの相性がよく、自然と惹かれ合うだけでなく、国のために考えられて、健康な人なんてそこまで多くはない。

「あら、何のことかわかりませんわ」

「証拠も証言もある。言い逃れはできない」

そう、それでいい。証拠も証言も用意したようなもの。わざとそうなるように私は未遂で済む暗殺依頼をしたのだから。最初から誰一人殺すつもりもない。死ぬのは私一人でいいの。

「殿下ったら女の秘密を嗅ぎ回る男はモテませんわよ?」

「これ以上ふざけるなら……反省する気なしと処刑台にあがることになるぞ」

それこそが私の望むものだというのに。何故、決定的な言葉を語ってくださらないのか。………本当にどこまでも優しい人。私に優しさなどいらないのに。

「処刑台にはもうあがることで決まっているのでしょう?私が殺そうとした人物はそのご令嬢だけじゃないもの。何故か悉く失敗してしまったのだけど。私を嗅ぎ回る誰かさんのせいでね」

貴方が言わないなら私が言おう。劇の悪役をしっかりと演じた笑みを見せながら。

「…………もう、いい。マリア・エンブレム公爵令嬢、君は今をもってして貴族でも平民でもない。処刑を待つ罪人だ。衛兵、連れていけ」

「ふふ、乱暴なこと」

何故最後までこの方は私に改心するよう希望を抱くのか。母が死んだ日から変わった私を家族以外で誰よりも見ているのに。父と兄ですら私を見放したというのに。

それが嬉しくもあり、苦しくもある。

私は私が死ぬとき誰も悲しんでほしくない。母の死を………初めて人の死を実感したときそう思った。

『私はマリアがいてとても幸せだったわ……』

消え入りそうな声で母が私に言ってくれた言葉。私は泣きながら消えないでと何度も言ったけど、母は病気に命を盗られた。

悲しくて悲しくて……そして、私と同じように泣く家族や使用人たちに、私は死ぬとき誰も悲しませないとそう自分に誓った。でもそんな願い虚しく母が亡くなって数ヶ月後、母と同じ病気が発覚して、私は誰に対しても悪役になることを決意したのだ。

早期発見のおかげで延命治療はできる。だからこそ病気となって数年もせず亡くなった母より長くは生きれる。それでも成人まで生きれるかどうかまではわからない。

主治医には誰にも言わないでと言った。幼い私が土下座までしたものだから相当困らせただろう。

唯一主治医だけが私の病気を知っていた。治らない病気なら誰にも言わないでほしいという約束を先生が守ってくれたからこそ私はここまでこれたし、悪役を貫き通せた。

本で見てきた物語の悪役は誰にも悲しまれることなく消えていったから。私はその生き様が誰も悲しまない死ぬ方法に見えたのだ。

殿下が、家族がいなければ病死でもよかったかもしれない。あんなことをした罰が当たったのだと思われて誰も悲しまなかっただろうから。

けれど、母と同じ病気だから……殿下も私を見放した家族もそれが発覚すれば私が急に人道を外れた行いをするようになった理由を察してしまうかもしれない。

それではだめなのだ。私は死んだ後も誰一人悲しんでほしくはない。死んで清々した……そう思われるくらいが私にはいい。

だからこそ死刑囚になるのが一番なのだ。悪役は処刑され、ヒロインと王子様は幸せになりました。それが誰もが幸せになれる道。

これは私が思うだけだけれど、悪役がいたから二人は結ばれた幸せになれた。母の遺言のようではないか。

「死刑囚、マリア」

晴れ渡る空。天気も悲しんでいないなんて、私が望んだ通りの幸せな処刑日和。

処刑日までまともな食事もなく、随分痩せて体力もなくなってしまったけど、この日まで病気を悟られなかった自分を私は誇りたい。

彼が処刑前に来て少し話したけれど、その時もじくじくと身体中に痛みが走っても耐えて見せた。

『君は最後まで反省をしないのだな』

本当に最後まで諦めが悪い人。反省などしてしまえば私は望んだ死に方などできなかっただろう。

『ええ、だって悪いことだと思ってないもの』

悪いことだとわかっていてやっていた。その上で悪びれもせずいるかのように振る舞ってきたのだ。演劇の悪役のように。何度も良心が痛んだし、これが正しかったんだろうかと自問自答だってした。トラウマだけは植え付けないようしっかり考えもした。

「人を殺そうとしてよくもそんなことを……!」

人を殺すつもりはそもそもなかったことなど悟らせはしない。ただ失敗してしまって残念だとばかりに最後まで私は悪を貫く。ここで、体調の悪さのひとつでも見せてしまえばきっと鋭い彼は気づいてしまうから。

『だって……邪魔だったんだもの』

本当に邪魔なのは私の体を蝕む病気。

『………っそんな態度なら処刑を取り止める必要などなさそうだな!』

それでいいと思った。取り止められては私の死は病死か自殺に限られてしまう。今の私は公開処刑が一番いいのだ。

みんなの顔が最後に見れるから。悲しんでないかって。悲しむ以外なら怒りや憎しみでもなんでもいい。

怒りや憎しみはいつか消えるけれど、大事な人が亡くなる悲しみだけは消えることを知らないから。そんな悲しみだけは誰にも味わってほしくない。

「死刑囚マリア最後に何か言うことがあるなら聞こう」

みんな私が死んでも悲しまないで。なんて言ったところで誰も悲しまないだろう。嬉しいことなのに、望んだことなのに胸が痛いのは何故?

ああ、考えてはダメ。最後まで私は涙ひとつ流さない。

「死にたくない!あんたたちが代わりに死ねばいいのよ!」

本音と嘘。どう足掻いても私の死は覆らないのはわかっていても病気がなければ、健康な身体だったなら私はみんなを笑顔にしたかった。

色んな経験をみんなとして家族と、殿下と、友人と一緒に笑って最後の最後まで笑顔で……。だけど、決められた死があまりにも早かったから。

私は私が死んだ後の大切な人たちの長い人生で悲しませることなく死ぬことくらいしかしてやれない。

酷いことをしてしまった人たち。恐がらせてしまった人たち、本当にごめんなさい。口には出せないけれど、これから幸せになれるよう祈ります。

代わりに死んでほしいなんて死んでも思わない。年老いて死ぬまで、しっかりと今を……未来を生きてほしい。

「みんな大嫌いよ!」

みんな大好き。殿下や家族だけじゃない。この国も、国民たちも。健康だったなら王妃となった未来でみんなを幸せにするために奔走したかった。

「何故私が死ななくてはならないの!?」

治らない命を蝕むだけの病気が私だけでよかった。父と兄は健康そのものだから。

「こんなことになるなら、殿下と婚約なんてしなければよかったわ!」

殿下と婚約できた日、幼いながらにとても嬉しかったことを今でも覚えている。一目惚れ……初恋だったから。婚約者として殿下の隣に恥じない存在になろうと母が生きている間はいろんなことを学ぼうと必死だった。

でも、それさえも幸せだった。

「もういい……やれ」

優しい殿下。どうかどうか私を忘れて幸せになってください。

これから貴方の隣に立つご令嬢はきっと貴方を幸せにしてくれます。ご令嬢も色々迷惑はかけてしまったけれど、殿下は優しい人だから厳しいときもあれど、きっと貴女を幸せにしてくれるでしょう。

貴方たちの幸せは国民への幸せに繋がります。

「どうか、お幸せに」

死ぬ直前小さく呟いた言葉は誰にも聞こえなかっただろう。

でも最後の最後……ようやく私は被っていた仮面を脱げた。

END














あとがき
……すっごい救いのない話になってしまいました。いや、もうなんといいますか………。

最近病弱キャラにはまっておりまして。

とあるゲーム(ア○ナナ)で元気キャラなのに病弱キャラというギャップにやられ、体調が悪いのを隠そうとする姿とかがもうなんか……!

というわけでふと思い付いたのが、処刑されるほどの悪役令嬢がもし自らの病気を隠すために悪役を演じていたなら……となってこの話です。

隠しきれたかどうかは皆さんのご想像におまかせします。
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