88 / 548
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
4
しおりを挟む
ふいに部屋の入口の方で、あわただしげなざわめきが起こる。一同がそちらに目をやると、開かれた扉から王妃が入ってくるのが目に入った。
「顔をお上げなさい」
礼を取っている一同にそう声をかけると、イジドーラ王妃はぐるりと部屋を見渡した。そこにリーゼロッテの姿を認めると、王妃はお茶会の時以上にぶしつけな視線を向けた。
(王妃様にめっちゃ見られてる!)
内心冷や汗をかきながら、リーゼロッテはずっと瞳を伏せていた。一同が王妃の言葉を待っていると、ピッパ王女が場の雰囲気などお構いなしに王妃に話しかけた。
「お母様、アンネマリーが家に帰るというのは本当ですの?」
王妃の視線を外れ、リーゼロッテは安堵のため息を小さく落とした。
「アンネマリー様は、社交界デビューの準備のためにご実家にお帰りになられるのですよ」
たしなめるようにピッパに言ったのは、先ほどの女官だっだ。
「ここで準備すればいいじゃない。わたくし、アンネマリーにまだまだ聞きたいことがいっぱいあるわ」
「そのようなわけには参りません。アンネマリー様のご滞在は初めからそう決められております」
王女のわがままには慣れている様子で、女官はぴしゃりと言った。
「ピッパ様、わたくしがお暇するまでまだ時間はありますわ。それまでにいっぱいお話しいたしましょう?」
アンネマリーがやさしく言うと、ピッパ王女は大輪の花がほころぶような笑顔をみせた。
「ええ! テレーズ姉様や異国の話をいっぱいしてちょうだい! アンネマリーの話はどんな物語よりも面白いもの!」
そのまま王女は女官に連れられて部屋を後にする。
名残惜しそうに王女は振り返ると、「アンネマリーはまた城にきてくれるわよね?」と懇願するように言った。
「お許しをいただけるのであれば、よろこんで参上いたしますわ」
アンネマリーはぶしつけにならない程度に王妃に目線を向けた。ピッパも期待に満ちた目を王妃に向ける。
「ピッパはアンネマリーがお気に入りね。王におねだりするといいわ」
王妃のその言葉に、ピッパ王女は顔をほころばせ、意気揚々と去っていった。
(太陽みたいな方ね、王女殿下は)
リーゼロッテがそんなことを思っていると、王妃の視線がまた自分に向けられていることに身をこわばらせた。
「リーゼロッテと言ったわね」
王妃の問いにリーゼロッテは瞳を伏せたまま、「はい、王妃殿下」と硬い声で答えた。
「顔を上げてこちらを見なさい」
命令とあらばそうするしかない。リーゼロッテは伏せていた目を上げ、イジドーラ王妃の顔を真っ直ぐに見上げた。
イジドーラ王妃は、切れ長の瞳に蠱惑的な唇をした美女だった。薄い水色の瞳に大人の色香がただよい、アッシュブロンドの髪が彼女の謎めいた雰囲気をよりいっそう強くしていた。口もとにあるほくろがなんとも艶めかしい。
そんな美女に真正面から見つめられ、同性であるリーゼロッテも思わず顔を赤らめてしまった。
「……あまり似てないのね」
そう言うと、王妃は興味をなくしたようにリーゼロッテから視線を外した。
「戻るわ」
お付きの女官にそう言うと、イジドーラ王妃は来た時と同じようにあっという間に去っていった。
ピッパ王女が太陽ならば、イジドーラ王妃は月のようだ。冷たく冴えわたる刺さりそうな三日月は、そんな彼女のイメージにぴったりだと、リーゼロッテはそんなことを考えていた。
「王妃様のお考えになることはよくわからないわ」
アンネマリーが肩をすくませながら言った。
「……アンネマリーはすごいわね。あの王妃様のお側で過ごしていたなんて」
「あら、わたくしに言わせれば、フーゲンベルク公爵様と平然と一緒にいるリーゼの方がすごいと思うわ」
リーゼロッテの言葉にアンネマリーは笑ってみせた。
ジークヴァルトの一睨みは落雷に匹敵するのではないかなどと、一部の令嬢の間で囁かれているのだ。
「顔をお上げなさい」
礼を取っている一同にそう声をかけると、イジドーラ王妃はぐるりと部屋を見渡した。そこにリーゼロッテの姿を認めると、王妃はお茶会の時以上にぶしつけな視線を向けた。
(王妃様にめっちゃ見られてる!)
内心冷や汗をかきながら、リーゼロッテはずっと瞳を伏せていた。一同が王妃の言葉を待っていると、ピッパ王女が場の雰囲気などお構いなしに王妃に話しかけた。
「お母様、アンネマリーが家に帰るというのは本当ですの?」
王妃の視線を外れ、リーゼロッテは安堵のため息を小さく落とした。
「アンネマリー様は、社交界デビューの準備のためにご実家にお帰りになられるのですよ」
たしなめるようにピッパに言ったのは、先ほどの女官だっだ。
「ここで準備すればいいじゃない。わたくし、アンネマリーにまだまだ聞きたいことがいっぱいあるわ」
「そのようなわけには参りません。アンネマリー様のご滞在は初めからそう決められております」
王女のわがままには慣れている様子で、女官はぴしゃりと言った。
「ピッパ様、わたくしがお暇するまでまだ時間はありますわ。それまでにいっぱいお話しいたしましょう?」
アンネマリーがやさしく言うと、ピッパ王女は大輪の花がほころぶような笑顔をみせた。
「ええ! テレーズ姉様や異国の話をいっぱいしてちょうだい! アンネマリーの話はどんな物語よりも面白いもの!」
そのまま王女は女官に連れられて部屋を後にする。
名残惜しそうに王女は振り返ると、「アンネマリーはまた城にきてくれるわよね?」と懇願するように言った。
「お許しをいただけるのであれば、よろこんで参上いたしますわ」
アンネマリーはぶしつけにならない程度に王妃に目線を向けた。ピッパも期待に満ちた目を王妃に向ける。
「ピッパはアンネマリーがお気に入りね。王におねだりするといいわ」
王妃のその言葉に、ピッパ王女は顔をほころばせ、意気揚々と去っていった。
(太陽みたいな方ね、王女殿下は)
リーゼロッテがそんなことを思っていると、王妃の視線がまた自分に向けられていることに身をこわばらせた。
「リーゼロッテと言ったわね」
王妃の問いにリーゼロッテは瞳を伏せたまま、「はい、王妃殿下」と硬い声で答えた。
「顔を上げてこちらを見なさい」
命令とあらばそうするしかない。リーゼロッテは伏せていた目を上げ、イジドーラ王妃の顔を真っ直ぐに見上げた。
イジドーラ王妃は、切れ長の瞳に蠱惑的な唇をした美女だった。薄い水色の瞳に大人の色香がただよい、アッシュブロンドの髪が彼女の謎めいた雰囲気をよりいっそう強くしていた。口もとにあるほくろがなんとも艶めかしい。
そんな美女に真正面から見つめられ、同性であるリーゼロッテも思わず顔を赤らめてしまった。
「……あまり似てないのね」
そう言うと、王妃は興味をなくしたようにリーゼロッテから視線を外した。
「戻るわ」
お付きの女官にそう言うと、イジドーラ王妃は来た時と同じようにあっという間に去っていった。
ピッパ王女が太陽ならば、イジドーラ王妃は月のようだ。冷たく冴えわたる刺さりそうな三日月は、そんな彼女のイメージにぴったりだと、リーゼロッテはそんなことを考えていた。
「王妃様のお考えになることはよくわからないわ」
アンネマリーが肩をすくませながら言った。
「……アンネマリーはすごいわね。あの王妃様のお側で過ごしていたなんて」
「あら、わたくしに言わせれば、フーゲンベルク公爵様と平然と一緒にいるリーゼの方がすごいと思うわ」
リーゼロッテの言葉にアンネマリーは笑ってみせた。
ジークヴァルトの一睨みは落雷に匹敵するのではないかなどと、一部の令嬢の間で囁かれているのだ。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
私の感情が行方不明になったのは、母を亡くした悲しみと別け隔てない婚約者の優しさからだと思っていましたが、ある人の殺意が強かったようです
珠宮さくら
恋愛
ヴィルジ国に生まれたアデライードは、行き交う街の人たちの笑顔を見て元気になるような王女だったが、そんな彼女が笑わなくなったのは、大切な人を亡くしてからだった。
そんな彼女と婚約したのは、この国で将来を有望視されている子息で誰にでも優しくて別け隔てのない人だったのだが、彼の想い人は別にいたのをアデライードは知っていた。
でも、どうにも何もする気が起きずにいた。その原因が、他にちゃんとあったこアデライードが知るまでが大変だった。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる