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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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アンネマリーはこの離宮に滞在中、王妃とは会話らしい会話はほとんどしていない。アンネマリーがピッパ王女に話をしているのを、王妃は黙って聞いているだけだった。
王妃は何も聞いてこなかったが、隣国に嫁いだ王女のことは知りたいだろうと思い、アンネマリーはそれとなくテレーズのことを幾度も話題に乗せた。
もちろんピッパ王女の刺激にならない範囲のことであったが。
テレーズ王女を取り巻く環境は、子供にありのままに話せるような内容ではなかった。それだけ、隣国の王室は悪意と邪念が渦巻く世界だった。
王には父から報告がいっているはずだが、アンネマリーはテレーズのそばにいたからこそ、王妃に伝えなければいけないとそう思った。
アンネマリーは王妃の反応をみながら言葉を紡いでいたが、どうも王妃は、話の内容よりもアンネマリー自身を観察しているように感じられた。
試されている。
その言葉がしっくりいくような空気をアンネマリーは否応なしに感じとっていた。王妃が何を試しているのかは、アンネマリーにはさっぱりわからなかったのだが。
(合格ならば、また王城に呼ばれることもあるかしら?)
不合格なら、ハインリヒとふたりきりで会うことも二度とはないだろう。
アンネマリーがふいに苦しそうな表情になる。リーゼロッテは気遣うようにアンネマリーの肩に手を添えた。
「何かあったの? アンネマリー」
「わたくし、ハインリヒ様が……」
そこまで言ったアンネマリーは、小さく首を振ってから言い直した。
「いいえ。わたくし、ハインリヒ様にお預かり物をしているの。最近なかなかお会いできなくて、どうやってお返ししようかと思っていて」
そう言って、アンネマリーは懐中時計を大事そうに取り出した。
「まあ、そうなのね。わたくしも最近は王子殿下にはお目見えできていないわ」
その時計はリーゼロッテにも見覚えがあった。王子の実母であるセレスティーヌの形見の懐中時計だったはずだ。
「アンネマリーは王子殿下とよくお会いしていたの?」
リーゼロッテの問いにアンネマリーは、「幾度かお話をさせていただいたわ」と顔を赤らめた。
「王子殿下はそれを、アンネマリーに持っていてほしいのではないかしら?」
最近の王子の反応をみて、リーゼロッテは思ったことをそのまま口にした。
王太子の応接室で、話の流れでアンネマリーが話題になると、王子殿下の顔がわかりやすいくらいほころんでいた。
それに、アンネマリーが手にしているのは、王子が肌身離さず持っていた形見の懐中時計だ。そんな大事なものを、どうでもいい人間に預けるとは到底思えない。
「でも……」
アンネマリーは不安そうに言った。
手渡されたのは王子自身ではなく、カイの手からだった。
ハインリヒの本意が分からないまま期待するのはおろかなことだと、アンネマリーは自分に何度も言い聞かせた。
「わたくしがジークヴァルト様にお願いすることもできるけれど……。お返しするにしても、やっぱりアンネマリーが直接お渡ししたほうがよいのではないかしら?」
リーゼロッテの言葉に、アンネマリーは力なく小さく頷いた。
アンネマリーの客間から帰る途中、リーゼロッテはずっと考えていた。
ハインリヒ王子は、自身の託宣のことで重大な悩みを抱えているようだった。どういった事情かはわからないが、龍の託宣がある以上、個人的な感情で王太子妃を選ぶことなどできないだろう。
――アンネマリーの恋は、哀しい結果になるのかもしれない。
ふたりが惹かれ合ってるのをこんなにも真近で感じてるのに。
リーゼロッテにはどうすることもできない自分に歯がゆさを感じていた。
王妃は何も聞いてこなかったが、隣国に嫁いだ王女のことは知りたいだろうと思い、アンネマリーはそれとなくテレーズのことを幾度も話題に乗せた。
もちろんピッパ王女の刺激にならない範囲のことであったが。
テレーズ王女を取り巻く環境は、子供にありのままに話せるような内容ではなかった。それだけ、隣国の王室は悪意と邪念が渦巻く世界だった。
王には父から報告がいっているはずだが、アンネマリーはテレーズのそばにいたからこそ、王妃に伝えなければいけないとそう思った。
アンネマリーは王妃の反応をみながら言葉を紡いでいたが、どうも王妃は、話の内容よりもアンネマリー自身を観察しているように感じられた。
試されている。
その言葉がしっくりいくような空気をアンネマリーは否応なしに感じとっていた。王妃が何を試しているのかは、アンネマリーにはさっぱりわからなかったのだが。
(合格ならば、また王城に呼ばれることもあるかしら?)
不合格なら、ハインリヒとふたりきりで会うことも二度とはないだろう。
アンネマリーがふいに苦しそうな表情になる。リーゼロッテは気遣うようにアンネマリーの肩に手を添えた。
「何かあったの? アンネマリー」
「わたくし、ハインリヒ様が……」
そこまで言ったアンネマリーは、小さく首を振ってから言い直した。
「いいえ。わたくし、ハインリヒ様にお預かり物をしているの。最近なかなかお会いできなくて、どうやってお返ししようかと思っていて」
そう言って、アンネマリーは懐中時計を大事そうに取り出した。
「まあ、そうなのね。わたくしも最近は王子殿下にはお目見えできていないわ」
その時計はリーゼロッテにも見覚えがあった。王子の実母であるセレスティーヌの形見の懐中時計だったはずだ。
「アンネマリーは王子殿下とよくお会いしていたの?」
リーゼロッテの問いにアンネマリーは、「幾度かお話をさせていただいたわ」と顔を赤らめた。
「王子殿下はそれを、アンネマリーに持っていてほしいのではないかしら?」
最近の王子の反応をみて、リーゼロッテは思ったことをそのまま口にした。
王太子の応接室で、話の流れでアンネマリーが話題になると、王子殿下の顔がわかりやすいくらいほころんでいた。
それに、アンネマリーが手にしているのは、王子が肌身離さず持っていた形見の懐中時計だ。そんな大事なものを、どうでもいい人間に預けるとは到底思えない。
「でも……」
アンネマリーは不安そうに言った。
手渡されたのは王子自身ではなく、カイの手からだった。
ハインリヒの本意が分からないまま期待するのはおろかなことだと、アンネマリーは自分に何度も言い聞かせた。
「わたくしがジークヴァルト様にお願いすることもできるけれど……。お返しするにしても、やっぱりアンネマリーが直接お渡ししたほうがよいのではないかしら?」
リーゼロッテの言葉に、アンネマリーは力なく小さく頷いた。
アンネマリーの客間から帰る途中、リーゼロッテはずっと考えていた。
ハインリヒ王子は、自身の託宣のことで重大な悩みを抱えているようだった。どういった事情かはわからないが、龍の託宣がある以上、個人的な感情で王太子妃を選ぶことなどできないだろう。
――アンネマリーの恋は、哀しい結果になるのかもしれない。
ふたりが惹かれ合ってるのをこんなにも真近で感じてるのに。
リーゼロッテにはどうすることもできない自分に歯がゆさを感じていた。
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