異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第一章

魔勇者を自室へご案内

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「さて、さっそくだが魔勇者よ…」
 玉座に戻った魔王はゆっくりと腰をかけながら私に声をかけた。
「な…何よ…」
 え?まさかいきなり冒険に出ろとか言うんじゃないでしょうね?

「まずは自室でゆっくり休んでもらう」

 ……はい?

「え、何?休んでいいの?」
 素っ頓狂な声をあげながら私は質問した。鏡がないからよくわからないが、おそらく鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたと思う。
「当然であろう。余の力がまだ馴染んでいない者に無理をさせることはできぬ」
 さっきまで脅迫同然のやり方で私を魔勇者に仕立て上げた人物とは思えない気遣いであった。考えてみればそうだ。不利な状況を打開すべく私は魔勇者として呼ばれた。いわば大事な戦力だ。それをいきなり戦場に送り込むなど無謀もいいとこだ。そう考えると棒切れとはした金だけ渡して冒険させる某RPGの王様って頭おかしいわね。

「それに、この城の内部や余の配下達のこともよく知ってもらわなければならぬからな」
「城?配下?」
「そうだ。これからおぬしはここで暮らすのだ。いわばおぬしの家だ」
 これまた驚いた。勇者といえば各地の宿屋を転々としたり、外やセーブポイントにテントを張ったりというイメージがあったからだ。まさか住まいを提供してくれるとはね。

「自室へは余の配下が案内する。廊下に向かいたまえ」
 扉の近くにいた衛兵が扉を開けてくれた。あ、これはご丁寧に。

 廊下に出ると一人のメイドらしき女性が出待ちしていた。彼女の服装はメイド服のようだが、そのデザインはアキバとかにいるような愛らしいものとは程遠く、どちらかというと軍服のような厳かさを感じる。それを着る本人の目つきは猛禽類のように鋭く、わずかなスキも見られない。両腕は鳥の翼のような羽の形を成しており、足先は鳥の爪、ついでにバストは豊満である。いわゆる鳥人というやつか。
「はじめまして、魔勇者シズハ様。本日よりあなた様のお世話の担当をさせていただくアウルと申します」
 アウルと名乗った女性は深々と頭を下げた。その表情はりりしく、やや吊り目な目つきも相まって生真面目そうな第一印象であった。

「これより魔勇者様のお部屋へご案内いたします。どうぞこちらへ」

 廊下を少し歩くと『魔勇者の部屋』と書かれた扉の前に着いた。魔物の文字は見たことないものであったが、魔王の力の影響か自然に読めるようになっていた。なんというご都合主義展開。
「こちらが魔勇者様にご利用していただく居室となっております」
 そう言いながらアウルはゆっくりと扉を開いた。
「どれどれ…?」
 扉を開き、室内を見回した私はその造りに驚いた。六畳間ほどの広さに大きめのベッドがひとつ。壁側にはクローゼットと冷蔵庫。テーブルにはテレビとポットまでまで置かれており、スリッパやバスタオルなどのアメニティもバッチリ。少し高めのホテルの部屋並みであった。ちなみに、トイレとお風呂はユニットバスであった。

「てか、テレビと冷蔵庫があるのかよ!」
 ファンタジーに似つかわしくないだろうが!冷蔵庫は氷の魔法とかなんかあるから百歩譲っていいとしてテレビは無理あるだろ!
「そちらは魔王様からの連絡や魔大陸内のニュース、天気予報などを放映する魔法テレビです。時々、漫才やクイズなどの娯楽映像も流れます」
 アウルがテレビについて淡々と説明した。はっきりテレビって言ったよこのメイド!
「ちなみに、操作は主にそちらのリモコンで行います。失くしやすいのでご注意ください」
「テレビやん!ますますファンタジーに似つかわしくないやないかい!」
 はっ、いかんいかん。関西出身じゃないのに思わず口調がおかしくなってしまった。アウルはそんな私を気に留めることもなく、説明を続けた。
「なお、ベッドの下には収納スペースがあります。もしいかがわしい本がございましたらそちらの奥の方に隠すことをお勧めします」
「いやいや!男子じゃあるまいし!持ってないわよ!」
「持っていないのですか?女性向けのいかがわしい本が存在しているそうですがその鞄に入ってません?」
 アウルは私の鞄を凝視した。
「入っていないっての!読んだことはあるけど!」
「あ、読んだことはあるんですね」
「やかましいわ!」
 …まったく、部屋を紹介されるだけでこんなに声を出すとは思わなんだ。

「…まぁでも悪くない居室だわ」
 とりあえず、くつろげるスペースがあるのはありがたいと思いましょ。
「もし自室の改装を希望されるときはご一報ください。建築班が直ちに作業に取り掛かります」
 
 至れり尽くせりすぎでしょ…

「ご希望とあらばいかがわしい本を隠すスペースも増設いたします」
「いかがわしい本はもういいっての!」
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