異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第一章

美味しい夕食

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「こちらが食堂でございます」

 そうこうしているうちに食堂に到着した。中に入ってみると、その内装は私の学校にもある学食によく似ており、何人かの魔物と魔族がすでに食事をしていた。

「魔勇者様の席はあらかじめ用意させていただきました。こちらです」
 アウルに案内され、私はそのテーブルに向かった。途中、魔物たちの食事を覗いてみると、骨付き肉をガツガツと食らう屈強な狼男もいれば、どんぶり一杯のゆで卵を次々と丸呑みする大蛇もいた。十人十色な食事風景はちょっと面白いと思った。
「こちらが魔勇者様の席でございます」
 そのテーブルには『魔勇者様ご予約席』と書かれた札が立てられており、ナイフとフォーク、箸、スプーンがきれいに並べられていた。椅子は他の席のものと比べるとやけにゴージャスであり、ちょっとしたVIP席が出来上がっていた。
「いやいや…さすがにそこまでせんでも…」
「何をおっしゃいますか。これでもまだ控えめなほうでございます。さあさあ」
 不承不承ふしょうぶしょうながら私はゴージャスな椅子に腰をかけた。クッションがまた絶妙に座り心地が良いなオイ。

「こちらがメニューとなっております。本日は魔王様のおごりとなっていますので値段はお気になさらずにご注文なさってください」
「おごりってあんた…てか、自分で選ばせてくれるの?」
「当然です。魔勇者様にも好みというものがあるでしょうし、万が一アレルギーがありましたら大惨事です」
「た…確かに…それは大事だわ…」
 まぁいいか。正直腹も減っているし、ここはご相伴しょうばんに預かりましょ。
「んー…どれにしようかな…?」
 メニューの品揃えはラーメンやカレー、パスタなど元の世界でも馴染み深いものが多く、日替わり定食まである始末であった。さっきの魔物たちが食べていた単品メニューも充実している。
「うちの食堂はどれもおススメだぜ」
 うおっ!背後から威勢のいい声が聞こえた。振り向くとガタイのいい赤毛のコックが腕を組んで仁王立ちしていた。
「俺の名はカルボ。この食堂の料理長だ。よろしくな魔勇者様!」
 カルボと名乗った料理長は爽やかな笑顔で挨拶した。てか、声でかいな。頭には牛のような角を生やしている。
「あ、よろしく…」
「ちなみに、あんたの食事も担当させてもらってる。リクエストはいつでも受け付けるぜ!あと、アレルギーがあったら必ず言ってくれよ!」
 こいつもアレルギー気にするねオイ。冗談抜きで重要だけど。
「アレルギーはないから大丈夫よ。…それじゃ、このカレーライスをもらおうかしら」
 悩んだ時はとりあえずカレー。これが無難だからね。
「あいよ!カレーね!辛さとライスの量はどうする?」
「んー…どっちも普通でいいわ」
「よしきた!カレー一丁中辛中盛!喜んでー!」
 カルボは目にも止まらぬ速さで厨房に移動した。手元をよく見るとお冷とナプキンが用意されていた。いつの間に。
「ずいぶんテンションの高い料理長ね…」
「彼は昔から誰かにご飯を作るのが好きなんですよ」
 隣の席に座ったアウルがお冷を飲みながら語る。
「しかも人間に料理をふるまうのは初めてですからね。お口に合うと良いのですが」
 あ、そう言えばそうだ。つい自然に注文してしまったが、魔物が美味しいと思うものが人間もそうだとは限らない。お冷は美味しいんだけどね。
「へい!カレーお待ち!」
「はやっ!」
 考え事をしているうちにカレーライスが運ばれてきた。しかもサラダもついている。
「あたぼうよ!『早い・美味い・安い』がこの食堂のモットーだからな!」
 大手チェーン店かよ!
「昨日から寝かしてあるのがあったからね。いいタイミングで注文してもらって嬉しいぜ」
 カルボは得意げに話した。確かに一晩寝かしたカレーは美味いってよく聞くけどね。カレー独特の食欲を刺激する香りが周囲にたちこめた。さて、その味はいかに?

「こ…これは…」
 美味しい…!程よい固さのライスにルーが絶妙にからみ、辛さも具の煮込み具合も丁度良い。そしてどこか懐かしい味付け。私はこの味をよく知っている。言うなればそう……給食のカレー!そりゃ美味いわけだ!
「お気に召したかい?ちなみにカレーはここのトップ3に入る人気メニューだ!」
「そうね、この味ならばここが賑やかになるのもうなづけるわね」
 正直な感想をもらしながら私はうなずいた。
「魔勇者様にそこまでほめてもらうとは…料理長冥利に尽きるぜ」
 照れくさそうに語るカルボをよそに、私はサラダを食べた。種類はわからないが、この食感はレタスに似ている。なかなか新鮮なヤツを使っているねこりゃ。ドレッシングとの相性も申し分ない。

「よかったらごひいきにしてくれよな!ここではテイクアウトも受け付けているぜ。魔勇者様がお望みとあらば部屋まで出前も承るからな!」

 …至れり尽くせり過ぎるぅ…。
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