異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第一章

装備担当はゴーレム

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「さて、ここが訓練場でございます」

 学校のグラウンドを思わせるそこは広大な訓練場であった。周囲にはランニングコースや鉄棒などが用意されており、何人かの魔物がそれらを利用して訓練を行っていた。
 中央には私のために用意されたと思われる装備類が次々と運ばれていた。地面に敷かれた大きなシートにファンタジーでよく見かける剣や盾などの武器防具が並べられ、ちょっとしたフリーマーケットのような光景であった。
「はぁ~、これまたたくさん用意したわね…」
「魔勇者様にはどのような装備が適しているか見極めたいですからね。できるだけ多くの装備を用意いたしました」
 こうして見ると、棒切れと小銭だけ渡して冒険に放り出す某ゲームの王様ってどうかしているわね。
「ところで、担当はどこにいるの?」
 魔王は担当から説明を受けろと言っていたが、それらしい人物は見当たらない。
「すでに来ているはずですが…」

 
 ズシン! ズシン!

 
 地響きを伴い、何かが近づいてきた。

 後ろを振り向くと、大人のヒグマほどの大きさのゴーレムが巨大な箱を抱えていた。ゴーレムは箱を下ろし、自分の肩を揉みながら首をゴキゴキと鳴らした。鳴らす骨あるのかよ!
「肩…凝った…」
 凝る肩あるのかよ!
「遅かったわね。魔勇者様はすでに来ているのよ」
 アウルはゴーレムに声をかけた。
「すまない…荷物…多かった…」
 ゴーレムは片言な口調で謝罪した。
「ところで…魔勇者様…どこ…?」
 ゴーレムは私の頭上で周りを見渡している。
「ここにいるわよー!」
 私は見上げて灯台下暗し状態のゴーレムに声を掛けた。
「あ…いた…」
 ゴーレムが視線を下げると私とぴったり目が合った。ゴーレムは三歩下がり、私の姿を捉えた。

「装備担当…クロム…よろしく…」
 クロムと名乗ったゴーレムは両方の拳を眼前で合わせて奥ゆかしくお辞儀した。
「よ、よろしく…」
 近くで見るとすごい迫力だ。顔と思われる部分には鼻や口は見当たらず、眼にあたる部分にある穴から一つの黄色い光が怪しく輝いている。身体を構成する黒い大粒の石は岩石というより何かの鉱石のようだ。
「彼は魔王城の装備開発部の新人です」
「新人?そんな奴に私の装備を任せるというの?」
 こういう時って大抵ベテランをよこすもんじゃないの?ちょっと心配だわ。
「ご心配無用です。彼の実力は魔王様のお墨付きです。いわば期待のルーキーです」
 へぇ、あの魔王が認める実力の持ち主か…。
「魔王様に…任された…緊張…」
 クロムは両方の人差し指をチョンチョンしながらモジモジしていた。可愛いなオイ。
「ここに並べられた装備品はすべて彼が製作したものです」
「えぇ!?これ全部!?」
 改めて見渡すと結構な数の装備品が並べられている。私がこの世界に召喚されたのはつい昨日のことだ。つまり、彼はたった一晩でこの数の装備品を作ったということだ。並みの人間には到底真似できない。
「魔勇者様の…ために…気合…入れた…」
 気合入れてこんなに作ったんかい。仕事熱心だなオイ。
「でも大丈夫?少し休んだほうがいいんじゃないの?」
「大丈夫…おれ…ゴーレム…睡眠…不要…」
 アピールするようにクロムは右の拳で自分の胸を叩いた。しかし、拳の勢いが強かったのかクロムはバランスを崩し、ズシンと仰向けに倒れ、たまたま彼の背後を通りかかったスライムがその下敷きになった。
「もー!危ないじゃないですかクロムさーん!」
 隙間から這い出てきたスライムが文句を言ってきた。
「す…すまない…」
 身体を起こしながらクロムは謝罪した。スライムは何事もなかったかのように作業に戻った。

「…やっぱり心配だわ…」
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