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第一章
想定外
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足元を見ると、ドッジボールほどの大きさの綿が一つ転がっていた。よく見ると綿からユニコーンのような角がはみ出ているし、ハムスターのような顔が見える。これは綿ではない。もこもこした生き物だ。
「おろっ、珍しいっスねー!ツノワタがこんなところにいるとは」
ツノワタって…まんまの名前ね。
「ツノワタは森林に生息する哺乳類型の魔物です。おとなしいので害はないですよ」
「むきゅーむきゅー」
ツノワタは愛らしい鳴き声をあげながら跳ねている。その姿はクレーンゲームの景品にいてもおかしくない容姿だ。
「しかしまぁ、変わった角つけてるわねこいつ」
「ツノワタの角は素材にもなるので冒険者の標的にもなっているようです」
「そのせいで乱獲されて今や希少種になってしまったんスよねー」
乱獲か…。こっちの世界でもそういうのはあるのね。ふと洞窟の方に目を向けるとそのツノワタが四匹ほど洞窟の入り口の前にたむろしていた。
「ねぇ、まさかあいつら地雷を踏んだりとかしないでしょうね?」
「あ~、それはちょっとマズいっスねー」
「どうにか彼らをどかす必要がありますね」
あの様子だと地雷があるなんて知る由もないだろう。万が一彼らが地雷を踏んだら作戦が頓挫してしまう。かといって私達が出て行って冒険者に見つかればまた面倒なことになる。さて、どうしたものか。
ドスッ!
「な、何?」
どこからか飛んできた矢がツノワタの一匹を貫いた。飛び散った血液がツノワタの体毛と周りの茂みを赤く染めた。
「まさか今のもトラップなの?」
「い、いや、あたしはあんなの仕掛けてないっスよ!」
ヌコは狼狽しながら否定した。
「これは…」
アウルは矢が飛んで来た方角に目を向けた。その先には弓矢をかまえた男がほくそ笑んでいた。その後ろにはその仲間と思われる連中が三人ほど控えていた。
「まさかこんなにツノワタがいるとはな、へへへ」
「こんだけ獲ればかなりの金になるぜ」
彼らは各々の武器を取り出した。剣使いの男は事切れたツノワタの身体から乱暴に角をへし折った。
「どうやらツノワタを狩りに来た冒険者のようです」
「こいつは想定外っスねー」
思わぬ増援に私達は声を潜めながら様子を窺った。
「むきゅ!むきゅー!」
事態を理解したのかツノワタ達は悲鳴をあげながら散り散りに逃げ出した。
「おっとぉ!逃げんじゃねぇよこの金づるが!」
「そっちに追い込め!角さえ無傷ならあとはどうでもいい!げへへ!」
下劣な笑いを浮かべながら冒険者達はツノワタを追い回す。弓使いの放つ矢がもう一匹のツノワタを貫いた。
「好き放題やってるっスねー」
「あれらも始末できればいいのですが…って魔勇者様?」
様子を窺う二人を尻目に私はすでに飛び出していた。助けを求めるかのように鳴き声をあげるツノワタを見た時には足が勝手に動いていたのだ。さっきまでの緊張や躊躇はいつの間にか失せていた。私の中に生まれた一つの思考によってそれらはすべて塗りつぶされていたのだ。
(殺す)
「おろっ、珍しいっスねー!ツノワタがこんなところにいるとは」
ツノワタって…まんまの名前ね。
「ツノワタは森林に生息する哺乳類型の魔物です。おとなしいので害はないですよ」
「むきゅーむきゅー」
ツノワタは愛らしい鳴き声をあげながら跳ねている。その姿はクレーンゲームの景品にいてもおかしくない容姿だ。
「しかしまぁ、変わった角つけてるわねこいつ」
「ツノワタの角は素材にもなるので冒険者の標的にもなっているようです」
「そのせいで乱獲されて今や希少種になってしまったんスよねー」
乱獲か…。こっちの世界でもそういうのはあるのね。ふと洞窟の方に目を向けるとそのツノワタが四匹ほど洞窟の入り口の前にたむろしていた。
「ねぇ、まさかあいつら地雷を踏んだりとかしないでしょうね?」
「あ~、それはちょっとマズいっスねー」
「どうにか彼らをどかす必要がありますね」
あの様子だと地雷があるなんて知る由もないだろう。万が一彼らが地雷を踏んだら作戦が頓挫してしまう。かといって私達が出て行って冒険者に見つかればまた面倒なことになる。さて、どうしたものか。
ドスッ!
「な、何?」
どこからか飛んできた矢がツノワタの一匹を貫いた。飛び散った血液がツノワタの体毛と周りの茂みを赤く染めた。
「まさか今のもトラップなの?」
「い、いや、あたしはあんなの仕掛けてないっスよ!」
ヌコは狼狽しながら否定した。
「これは…」
アウルは矢が飛んで来た方角に目を向けた。その先には弓矢をかまえた男がほくそ笑んでいた。その後ろにはその仲間と思われる連中が三人ほど控えていた。
「まさかこんなにツノワタがいるとはな、へへへ」
「こんだけ獲ればかなりの金になるぜ」
彼らは各々の武器を取り出した。剣使いの男は事切れたツノワタの身体から乱暴に角をへし折った。
「どうやらツノワタを狩りに来た冒険者のようです」
「こいつは想定外っスねー」
思わぬ増援に私達は声を潜めながら様子を窺った。
「むきゅ!むきゅー!」
事態を理解したのかツノワタ達は悲鳴をあげながら散り散りに逃げ出した。
「おっとぉ!逃げんじゃねぇよこの金づるが!」
「そっちに追い込め!角さえ無傷ならあとはどうでもいい!げへへ!」
下劣な笑いを浮かべながら冒険者達はツノワタを追い回す。弓使いの放つ矢がもう一匹のツノワタを貫いた。
「好き放題やってるっスねー」
「あれらも始末できればいいのですが…って魔勇者様?」
様子を窺う二人を尻目に私はすでに飛び出していた。助けを求めるかのように鳴き声をあげるツノワタを見た時には足が勝手に動いていたのだ。さっきまでの緊張や躊躇はいつの間にか失せていた。私の中に生まれた一つの思考によってそれらはすべて塗りつぶされていたのだ。
(殺す)
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