異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第一章

初めての任務

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「あれがルロウの洞窟?」  

 森の中にその洞窟はあった。絶壁にくりぬかれたかのように大きな穴が開けられ、入り口の周りには化粧のように植物や苔が生えており、まるで巨大な生き物の口のように見える。私とアウルは近くの茂みの影からその洞窟を眺めていた。
「あの洞窟には素材として有用なキノコや鉱石があるため、冒険者がよく出入りしているのです」
 素材集めか…。ゲームならば確かにそういう場所には通いたくなる。

「お待ちしておりましたっスー!魔勇者様ー!」
「うおっ!」
 私の目前に猫又がさかさまに現れた。二本の尻尾を用いて木にぶら下がっていた猫又は空中で一回転して着地した。モスグリーンの衣装に身を包み、同じ色のベレー帽から猫耳がはみ出ている。
「偵察担当のヌコっスー!よろしくっスー魔勇者様ー!」
 ヌコと名乗った猫又は元気よく敬礼した。テンション高いなこいつ。
「あぁ、よろしく…てか、偵察担当って何?」
「読んで字のごとくっスー!魔勇者様の任務に先駆けて現地を調査し、状況を報告するっスー!」
「彼女の報告をもとにして人員や装備を整え、我々は任務を遂行しているのです」
 うーむ、どんだけ用意周到なのよ最近の魔物は…。ただダンジョンをうろつく時代は終わったのね…。
「…で、今回の任務は何?」
「今回は採取を終え、洞窟から出てきた冒険者をフルボ(袋叩き)して、金品をかっぱらってもらうっスー!」
「…なんか山賊みたいね…」 
「まぁ、今回は小手調べのような任務ですからね。それに、疲弊したところを狙うのは兵法の基本です。素材を集め終えて相手は気が緩んでいるでしょうしね」
 荷物をチェックしながらアウルがコメントした。まぁ、それは言えてる。正々堂々敵に向き合う義理なんざ必要ないからね。そのドライな思考は正直嫌いじゃない。

「でも大丈夫かしら?いきなり強い奴に遭遇したりしない?」
「そこは心配無用っスー!この辺には強い冒険者は確認されていないんスよー!」

 ヌコの話によるとこの洞窟と森があるルロウ方面はあまり狂暴な魔物がいないということもあり、それに比例してか周辺で暮らす人間達も強い奴はいないらしい。実力者は皆さらなる獲物と報酬を求めて別の地方へ渡ったとのことだ。つまりここはRPGでいうところの序盤のフィールドってヤツか。

「てなわけでここならば魔勇者様の初陣にぴったりだと思うんスよー!」
 右手をあげながらヌコはコメントした。
「先ほどあの洞窟に三人の冒険者が侵入したのを確認したっスー!見た感じ、敵の獲物は剣とかこん棒みたいっスー!そんなに重装備の奴はいないみたいっスー!」
 ほう、偵察というだけあってしっかり見てるのね。
「おそらくまだ採取に夢中のようっスー!そのすきをついて入り口にトラップを仕掛けておいたっスー!」
「と、トラップ?」
「その通りっスー!出てきた瞬間、地雷を踏んで片足が吹っ飛ぶ予定っスー!」
 けっこうえげつないもの仕掛けたなオイ!
「そんで、動けなくなったところを我々がグサッとヤっていくっスよー!」
 可愛い顔して恐ろしいこと言うわねこいつ…。ほんの少し敵に同情しそうになったわ。
「魔勇者様。今回は実戦の空気を感じることが第一の目的です。くれぐれも無理はなさいませんように」
「え、えぇ…」
 実戦か…。ついにこの時がやってきた。初陣だ。ラノベならば主人公は無双するか袋叩きにされるかのどちらかだ。私は思わず固唾を飲んだ。
 一応、人間を手にかける覚悟はしてきたつもりだ。しかし、いざとなると緊張と躊躇が膨れ上がり、手が震える。これはゲームではない。一歩間違えれば命を落とす殺し合いだ。手負いを狙うとはいえ相手も抵抗してくるだろう。はたして、上手く戦うことができるだろうか…?


「むきゅー」

 うおっ!だ、誰だ?
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