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第二章
黒竜は見た
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「おぉ…あの力は…!」
黒竜ズワースは刮目した。そして、修行中とはまるで別人のような少女の動きと太刀筋に心を奪われた。
―――
魔王が『魔勇者』という名の新しい手駒を得たという話を聞き、その顔を見るためにズワースは魔王にその手駒をこの洞窟によこすように声をかけた。いざ会ってみればその手駒はあどけなさを残す人間の少女であった。『魔勇者』などという大層な肩書を持ってこそいたが、やはりというべきかその実力は期待したほどではなかった。
先代のよしみとはいえ、魔王に武術の手ほどきをした身にとってこのような未熟者は放っておくことはできない。ズワースはこの少女に武術を教えてやることにした。ついでに自分のお古の大剣を貸してやった。
あれからだいぶ日にちが経過し、少しずつだがこの少女も上達してきた。時折冒険者が黒竜の命を奪わんと乗り込んで来たが、彼は修行の一環として少女に相手させた。その中でズワースはある現象を目撃した。少女が殺した相手の命を吸い取ったのである。
彼女の説明によると、この力は魔王から魔勇者に任命された時に与えられたものらしい。しかも彼女はこの世界の人間ではないらしく、『元の世界に帰る』という目的のため仕方なく魔勇者になったとのことである。
ズワースはますます興味がわいた。大事な目的があるならばなおのこと鍛えてやらねばならない。この世界には魔族にも人間にも油断ならぬ存在が多数いる。生きて目的を果たすためにも強くなる必要がある。
修行を再開しようとしたその時、再び乱入者が現れた。今度の冒険者は普段より一回り弱そうな少年であった。これでは修行の成果を見計らうことなど叶わないだろう。ズワースはそう思いながら少女の戦闘を見守っていた。
その時だった。うかつにも黒竜を狙って高く飛び上がった少年諸共、ズワースが撃たれたのだ。おそらく、味方ごと撃てばかわすことはできないと思って生まれた戦法なのだろう。
この程度の矢のダメージなどズワースにとって大したものではない。しかし、少女は目の色を変えて後から現れた冒険者達に向かって走り出した。目の錯覚なのかズワースには少女の全身から黒い炎があふれ出したように見えた。
だが、それは錯覚ではなかった。黒い炎はやがて大剣を包み込み、姑息な弓使い達を焼き尽くしたのだ。これもおそらく魔王の力の一つなのだろう。
そしてズワースが最も驚いたのは少女の立ち回りの変化である。最初に会った時とは打って変わり、重く、速い一撃であった。
―――
ここまで彼女が豹変したきっかけは間違いなくあの少年だろう。彼を巻き添えにする卑劣な戦法。それに対する憤怒や憎悪が彼女に力を与えたとズワースは推測した。
このまま少女は嵐のごとく荒れ狂い、全ての冒険者を皆殺しにするまで止まらないと思われた。しかし、彼女は最後の一人を追うことを突如やめ、虫の息である少年の元へ駆け寄ったのだ。
「…なんという精神力じゃ…」
あれほどの殺意を抑え込み、何の所縁もない少年を助けようとしたのだ。相当の精神力がなければまずできない話だ。強い殺意と強い理性。二つを持ち合わせているこの少女にズワースは興味を覚えた。そして、ちょっとした気まぐれで彼は瀕死の少年に自らの血を分け与えた。
「…これは面白いことになりそうじゃの…」
風魔法によって魔王城に戻る魔勇者達を見送ったズワースは彼女の成長と運命に期待しながら静かに眠りについた。
黒竜ズワースは刮目した。そして、修行中とはまるで別人のような少女の動きと太刀筋に心を奪われた。
―――
魔王が『魔勇者』という名の新しい手駒を得たという話を聞き、その顔を見るためにズワースは魔王にその手駒をこの洞窟によこすように声をかけた。いざ会ってみればその手駒はあどけなさを残す人間の少女であった。『魔勇者』などという大層な肩書を持ってこそいたが、やはりというべきかその実力は期待したほどではなかった。
先代のよしみとはいえ、魔王に武術の手ほどきをした身にとってこのような未熟者は放っておくことはできない。ズワースはこの少女に武術を教えてやることにした。ついでに自分のお古の大剣を貸してやった。
あれからだいぶ日にちが経過し、少しずつだがこの少女も上達してきた。時折冒険者が黒竜の命を奪わんと乗り込んで来たが、彼は修行の一環として少女に相手させた。その中でズワースはある現象を目撃した。少女が殺した相手の命を吸い取ったのである。
彼女の説明によると、この力は魔王から魔勇者に任命された時に与えられたものらしい。しかも彼女はこの世界の人間ではないらしく、『元の世界に帰る』という目的のため仕方なく魔勇者になったとのことである。
ズワースはますます興味がわいた。大事な目的があるならばなおのこと鍛えてやらねばならない。この世界には魔族にも人間にも油断ならぬ存在が多数いる。生きて目的を果たすためにも強くなる必要がある。
修行を再開しようとしたその時、再び乱入者が現れた。今度の冒険者は普段より一回り弱そうな少年であった。これでは修行の成果を見計らうことなど叶わないだろう。ズワースはそう思いながら少女の戦闘を見守っていた。
その時だった。うかつにも黒竜を狙って高く飛び上がった少年諸共、ズワースが撃たれたのだ。おそらく、味方ごと撃てばかわすことはできないと思って生まれた戦法なのだろう。
この程度の矢のダメージなどズワースにとって大したものではない。しかし、少女は目の色を変えて後から現れた冒険者達に向かって走り出した。目の錯覚なのかズワースには少女の全身から黒い炎があふれ出したように見えた。
だが、それは錯覚ではなかった。黒い炎はやがて大剣を包み込み、姑息な弓使い達を焼き尽くしたのだ。これもおそらく魔王の力の一つなのだろう。
そしてズワースが最も驚いたのは少女の立ち回りの変化である。最初に会った時とは打って変わり、重く、速い一撃であった。
―――
ここまで彼女が豹変したきっかけは間違いなくあの少年だろう。彼を巻き添えにする卑劣な戦法。それに対する憤怒や憎悪が彼女に力を与えたとズワースは推測した。
このまま少女は嵐のごとく荒れ狂い、全ての冒険者を皆殺しにするまで止まらないと思われた。しかし、彼女は最後の一人を追うことを突如やめ、虫の息である少年の元へ駆け寄ったのだ。
「…なんという精神力じゃ…」
あれほどの殺意を抑え込み、何の所縁もない少年を助けようとしたのだ。相当の精神力がなければまずできない話だ。強い殺意と強い理性。二つを持ち合わせているこの少女にズワースは興味を覚えた。そして、ちょっとした気まぐれで彼は瀕死の少年に自らの血を分け与えた。
「…これは面白いことになりそうじゃの…」
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