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第三章
激闘
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「…ま…ゆうしゃ…?」
聞きなれないその言葉の意味がリエルにはいまいち理解できなかった。理解できたのは、シズハと名乗った目の前の人間の少女が魔王の手先であること。そして、彼女は自分達を殺そうとしていることである。
彼女に聞きたいことは山ほどある。しかし、相手はこれ以上話をするつもりはないようだ。そう考えながらリエルは剣を構えてシズハの目を見た。その目は肉食獣のごとく敵の首を取る隙を窺っている。一瞬でも目を離せばどうなるか容易に想像できた。相手がどう動くか…いくつか予測しながらリエルは砂をふみしめた。こちらから動いてはいけない。冒険者としての経験が浅い自分にもわかる。シズハの全身から発せられる威圧的な何かをリエルは本能で感じ取っていた。剣を握りしめた両手から大粒の汗が床に落ちた瞬間、事態は動きだした。シズハは一直線に駆け抜け、必殺の一撃を入れるべくリエルとの距離を詰めようとした。
「…!」
しかし、それは欺瞞であった。リエルの剣の間合いに入る直前シズハは直角に進路を変え、リエルの左側に回り込んだ。
「ビオラ!」
自分の左後ろにいるビオラを狙っている。そう考えたリエルは振り向こうとするが思わぬ邪魔が入った。自分の正面に目をやるといつの間にか虎の耳を生やした女性が右腕のかぎ爪を振りかざしていたのだ。
「――新手!?」
どこから現れたのか。そんなことを考えている暇などなかった。かぎ爪による袈裟斬りをくらう直前にリエルは前転し、新手の背後に回った。リエルは振り向くと同時に剣を横一閃に薙ぎ払い、敵の胴を捉えた。
「あぶなっ!」
虎耳の女は剣が当たる直前に飛び上がり、空中で一回転した。床に手を着き、着地の隙を消すために軽やかに踊るような動きを繰り出した。そしてバック転を決めて距離を取りつつ、両腕のかぎ爪を構えながらリエルに向き直した。
「なかなかやりよるなアンタ――」
「――『スロウ』!」
「ふぐっ!?」
虎耳の女の身体に見えない何かがまとわりつき、その軽快な動きを封じた。相手の素早さを一時的に低下させる補助魔法――唱えたのはメイリスである。
「今だ!」
仲間が作った好機を活かすためにリエルは剣を水平に構え、一直線に突撃した。
「く…デバフの魔法か…!」
シズハが走りながら振り向き、虎耳の女――ティータの危機を知るやいなや彼女は左手の短刀をリエル目掛けて投げつけた。その短刀の軌道はリエルの突撃を妨害した。ティータはその隙を利用して懐から取り出した煙玉を床に叩きつけ、リエルから距離を取った。リエルは煙に呑まれる前に後ろに下がった。
「『フレイム』!」
その声を聞き、シズハが前を向くと標的としていた魔法使いの杖から火球が自分に向けて放たれていた。シズハは紙一重でそれをかわし、右手の短刀を心臓目掛けて突き立てようとした。
「『シールド』!」
ビオラの周囲を緑色の壁が包み込み、シズハの攻撃を阻害した。シズハは攻撃を弾かれた勢いを利用し、後ろに飛びのいた。
「サンキュー!メイリス!」
「よそ見しないで!」
「わかってるって!」
「くっ…また…!」
シズハは苦虫をかみ潰したように顔を歪め、左手に短刀を持ち替えた。そのまま壁に背を向けつつ、三人の敵を視界に入れるように陣取った。そう簡単に倒すことはできない。リエル達も同じように考えている。この場にいる全員が不用意に動かずに相手の出方を窺っていた。
大広間の天井に浮かぶ羽を生やした目玉――フロートアイは彼女達の戦いを静かに観察していた。
聞きなれないその言葉の意味がリエルにはいまいち理解できなかった。理解できたのは、シズハと名乗った目の前の人間の少女が魔王の手先であること。そして、彼女は自分達を殺そうとしていることである。
彼女に聞きたいことは山ほどある。しかし、相手はこれ以上話をするつもりはないようだ。そう考えながらリエルは剣を構えてシズハの目を見た。その目は肉食獣のごとく敵の首を取る隙を窺っている。一瞬でも目を離せばどうなるか容易に想像できた。相手がどう動くか…いくつか予測しながらリエルは砂をふみしめた。こちらから動いてはいけない。冒険者としての経験が浅い自分にもわかる。シズハの全身から発せられる威圧的な何かをリエルは本能で感じ取っていた。剣を握りしめた両手から大粒の汗が床に落ちた瞬間、事態は動きだした。シズハは一直線に駆け抜け、必殺の一撃を入れるべくリエルとの距離を詰めようとした。
「…!」
しかし、それは欺瞞であった。リエルの剣の間合いに入る直前シズハは直角に進路を変え、リエルの左側に回り込んだ。
「ビオラ!」
自分の左後ろにいるビオラを狙っている。そう考えたリエルは振り向こうとするが思わぬ邪魔が入った。自分の正面に目をやるといつの間にか虎の耳を生やした女性が右腕のかぎ爪を振りかざしていたのだ。
「――新手!?」
どこから現れたのか。そんなことを考えている暇などなかった。かぎ爪による袈裟斬りをくらう直前にリエルは前転し、新手の背後に回った。リエルは振り向くと同時に剣を横一閃に薙ぎ払い、敵の胴を捉えた。
「あぶなっ!」
虎耳の女は剣が当たる直前に飛び上がり、空中で一回転した。床に手を着き、着地の隙を消すために軽やかに踊るような動きを繰り出した。そしてバック転を決めて距離を取りつつ、両腕のかぎ爪を構えながらリエルに向き直した。
「なかなかやりよるなアンタ――」
「――『スロウ』!」
「ふぐっ!?」
虎耳の女の身体に見えない何かがまとわりつき、その軽快な動きを封じた。相手の素早さを一時的に低下させる補助魔法――唱えたのはメイリスである。
「今だ!」
仲間が作った好機を活かすためにリエルは剣を水平に構え、一直線に突撃した。
「く…デバフの魔法か…!」
シズハが走りながら振り向き、虎耳の女――ティータの危機を知るやいなや彼女は左手の短刀をリエル目掛けて投げつけた。その短刀の軌道はリエルの突撃を妨害した。ティータはその隙を利用して懐から取り出した煙玉を床に叩きつけ、リエルから距離を取った。リエルは煙に呑まれる前に後ろに下がった。
「『フレイム』!」
その声を聞き、シズハが前を向くと標的としていた魔法使いの杖から火球が自分に向けて放たれていた。シズハは紙一重でそれをかわし、右手の短刀を心臓目掛けて突き立てようとした。
「『シールド』!」
ビオラの周囲を緑色の壁が包み込み、シズハの攻撃を阻害した。シズハは攻撃を弾かれた勢いを利用し、後ろに飛びのいた。
「サンキュー!メイリス!」
「よそ見しないで!」
「わかってるって!」
「くっ…また…!」
シズハは苦虫をかみ潰したように顔を歪め、左手に短刀を持ち替えた。そのまま壁に背を向けつつ、三人の敵を視界に入れるように陣取った。そう簡単に倒すことはできない。リエル達も同じように考えている。この場にいる全員が不用意に動かずに相手の出方を窺っていた。
大広間の天井に浮かぶ羽を生やした目玉――フロートアイは彼女達の戦いを静かに観察していた。
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