異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第三章

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「くそっ…思ったよりも厄介ね…」

 聖剣があると思われる大広間。先客から妙な話を聞けたので冒険者のふりをして近づいてみたが、どうやら鼻のいい奴がいたようだ。
 穏便な話し合いなど最初からするつもりはなかったが、ここまで来るだけあって今度の連中は簡単に殺られてくれない。
 剣を持つ栗色の髪の少女。黒髪のツインテールが目立つちんちくりんな魔法使いの少女。銀髪で色白の豊満な女僧侶。女三人組の冒険者パーティーか。RPGなら主人公パーティーになっても何の遜色もないわね。まぁ、そんなしょうもないこと考えている暇などないけどね。彼女達の話によると例の勇者一行とは無関係だそうだ。
 あの僧侶とコノハの話が本当ならばこの部屋の中央に刺さっている黄金の剣は偽物の聖剣。あれは気にする必要はない。しかし、この三人を殺すか無力化しない限り本物を探すことはままならないだろう。向こうもそのつもりのはず。
 一方、ティータは私と同様に壁を背にして彼女達の様子を窺っていた。敵の僧侶にかけられた補助魔法によって動きが鈍重になり、うかつに動けない。残念ながらしばらく彼女はあてにできないようだ。
 改めて三人を見てみると彼女達の視線は私に向けられている。私一人で三人を相手にしなければならない現状だ。まとめて相手しようとすれば痛い目に合うことは重々承知している。大剣でも持ってくればよかったかしら。

「…こういう時は……!」

 私は狙いを定めた。迎撃を警戒した私はジグザグに移動し、目標に接近した。目標は後方に位置する女僧侶。RPGではああいう回復・補助役は先に潰すのが定石。現に先ほどから防御魔法とかで二度も妨害されている。見たところ武器らしい物は持っていない。懐に入ればなんとかなるはず。

「メイリス!」

 私の目的を察知した魔法使いは女僧侶に声をかけた。邪魔をされることを予測した私は左腕に装備したバックラーの裏から鞭を取り出し、すれ違い際に叩き付けた。

「あうっ!」

 直撃こそ免れたものの、腕をはたかれて魔法使いは杖を落とした。悪いけど邪魔をされるつもりはない。このまま一気に決める。

「…あら、いい判断ね」

 自分が標的にされていると気づいた僧侶は私と目を合わせた。彼女は私が近づいているにも関わらず武器を取り出すようなそぶりもなければ逃げるそぶりもない。魔法を唱えるそぶりすらない。ただならぬ気配を感じるが、攻め手を止めるわけにはいかない。私は左手に持った短刀を前に突き出した。

「…でもね…」

 僧侶は不敵に笑った。その笑顔を見た時私は背筋が凍り付くような感覚を覚えた。相手は腰を静かに落とし、両腕を前に出した。


 ドゴッ!


「…私には通用しないのよね…」
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