異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第五章

見つめる者

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 昼下がりのエキョウ平原。広大な平原のあちこちに生えている大小様々な樹木。その一本の上に黒装束の男がいた。黒い頭巾を被り、大きな一つ目を象った仮面で顔面を覆っており、その表情は見えない。
 彼は樹木の葉に己の身を隠し、遠くで大蛇と交戦する三人の少女を見ていた。

「…こちら『ゲイザー』。対象が魔物を撃退しました」

 ゲイザーと名乗った男は右手の平に収まる四角い石板を口元に寄せて話し出した。魔王軍が使用している通信石とよく似ている石板だ。

『…対象は聖剣を使用したか?』
「…はい。対象の聖剣の使用を確認しました」
『…そうか』

 石板から別の男の声が聞こえた。ゲイザーは少女達の姿を確認しながら石板に向かって報告した。

「…以前の報告の通り、聖剣はあのような状態でも力を発揮するようです」
『驚いたな…まさか光の刃を纏うことができるなど…ありえぬ…』
 応答者は正直な感想を漏らした。
「そうですね。あの大蛇を一太刀で屠るとは…」
 ゲイザーは頷いた。
「情報によるとあの少女の冒険者ランクはBに上がったばかり。大した実力はないはずなのですが…」
『聖剣が彼女に力を付与している…ということか…』
「…おそらく。過去の所有者もその恩恵を受けていたのでしょう」
 ゲイザーは自分の推測を述べた。

『…しかし、あの国王陛下は何を考えている…』
「…ええ、同感です。あのような冒険者風情に聖剣を託すなど…」
 ゲイザーは仮面の下の顔をしかめながら答えた。おそらく応答者も同じ表情をしているのだろう。

「…いっそ、殺して奪い取りますか?今ならば…」
 ゲイザーはクナイを取り出した。彼の視線には黒い豚のような生物と無防備に会話している少女の様子が映っていた。
『やめておけ。返り討ちに遭う可能性は否定できない』
 応答者は制止した。
『それに、あの聖剣は完全な姿ではない。その時が来るまで奴らを泳がせる方が賢明だ』
「ふむ…それもそうですね」
 ゲイザーはクナイを懐にしまった。
『いいか。あの聖剣は由緒正しき王族が振るうにふさわしい剣なのだ。来るべき魔族との戦のためにもあの聖剣を蘇らせ、本来の持ち手に返るべきなのだよ』
「由緒正しき王族…ですか…」
 ゲイザーはその言葉を反芻した。応答者の言葉に妙な執念を感じたが今はそれを聞く時ではない。彼はそう思った。

「…では、これまで通りに…」
『そうだ。そのまま監視を続けよ』
 応答者は淡泊に指示を送った。
「…了解しました。引き続き監視を続行します…」
『よろしく頼むぞ…全ては我らが神のために…!』

 ゲイザーは石板を懐にしまい、つむじ風に包まれてその姿を消した。

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