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第五章
謎の教会
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「ここは…教会?」
隠された通路の先にあった扉を開くとその中は教会であった。窓やステンドグラスを通して外の光が差し込み、座る者がいなくなって久しい長椅子がきれいに並んでいる。奥には祈りを捧げるべき神と思われる女性の朽ちた石像が厳かに佇んでいた。
「こんな所に教会があるなんて…」
「でも、この石像…パルティア様じゃない…?」
「本当ですね…デザインが少し違います」
リエル達は石像の姿をじっと観察した。各地の教会などで見られる彼女達、否、人間のほとんどが崇拝する聖の女神パルティアを象った像はみな天使のような翼を背負っている。しかし、この石像の背中には禍々しい悪魔の翼がついていた。
「…ファナトス…」
リエル達の後ろでトニーがボソッと呟いた。
「へ?なんか言った?」
その言葉を耳にしたビオラが振り向いた。
「え?俺?」
トニーは首を傾げている。
「いやいや。確かにアンタ言ったでしょ?ファナトスだかなんかって!」
ビオラは屈みこみ、トニーの顔を両手でつかんだ。
「プギャア。お、俺は知らんぞ」
トニーは戸惑いながら答えた。その戸惑いの表情は嘘をついている様子ではなかった。
「ファナトスって…確か魔族が崇めているといわれている邪神ですよね?」
「じゃあ、この石像はそのファナトスなの?」
リエルは石像を指さしながら言った。
「ということは…ここはファナトスを崇める教会ってことですか?」
「アンタなんか知ってんじゃないの?答えなさいよ!」
ビオラはトニーの顔をこねくり回しながら問い詰めた。
「プギャー!だから知らんって!だいたい、記憶がねぇんだブー!」
「ちょ…落ち着いてビオラ!そのぐらいに――」
ピイィィィー!
「…!この音は…!」
どこからともなく笛の音が響いた。壁側に置かれた古いオルガンの隣の扉が乱暴に開かれ、狼の群れがなだれ込んできた。
「こいつら…!こんな所にまで…!」
三人が武器を構える頃にはすでに狼達は彼女達の周囲を取り囲んでいた。様子を窺うかのように何匹かが唸り声をあげながらグルグルと回っている。
「まさかここに人間が入ってくっとはな!大したもんだべ!」
何者かの声が響いた。
「だ…誰?」
「ちょ…どこにいるのよ!」
三人が周囲を見渡していると、狼達が入ってきたオルガンの隣の扉から狼の耳を生やした青年がのっそりと入室してきた。
「おれの名はコリンズ。このグレイウルフ共のリーダーをしている者だべ!」
コリンズと名乗った狼の青年は自分を親指で指さしながら不敵に笑った。
「獣人…?あなたは魔族なの?」
コリンズの耳に注目しながらリエルは尋ねた。
「その通りだべ!」
コリンズは元気よく肯定した。
「なるほど…この邪神の教会はアンタ達のアジトってわけね?」
ビオラは威勢よく自分の杖をコリンズに向けた。
「おっと…そりゃちょっとちげぇな」
コリンズは指を振って否定した。
「おれら魔王軍デワフ支部の縄張りはこの山まるごと。そこに足を踏み入れた奴は誰だろうが容赦はしねぇ」
そう語るコリンズの様子を三人は警戒しながら窺っていた。相手は武器らしいものこそ持っていないが、いまだに周囲は狼達が包囲している。どんな手段を用いてくるかわからない。
「そして…ファナトス様を邪神呼ばわりすっこんだらば、生かして帰すわけにゃいかねぇべな…」
そう静かに言い放ったコリンズの殺気が一気に膨れ上がった。氷のように冷たい視線を三人に向けながら彼は指笛を口に当てた。
「かかれ!」
合図と同時にコリンズは指笛を鳴らした。その音に反応したグレイウルフ達は獲物目掛けてまっすぐ突撃した。
「来るわよ!」
「わかってる!」
リエルは折れた聖剣から光の刃を顕現させた。彼女は正面から飛びかかってきたグレイウルフを前転で回避し、振り向きながら剣を横に振りかぶった。やや長めの光の刃を纏った聖剣は三匹の狼を切り裂いた。
「うわっと!」
一方ビオラは縦横無尽に駆け回るグレイウルフに翻弄されていた。横や後ろから飛びかかってくることもあり、魔法の狙いをうまく定めることができない。かわすことが精一杯の状態であった。おまけに教会の内部に置かれた長椅子が移動の邪魔になる。アズキもほぼ同様の状態であった。
「プギャアァァ。何とかしてくれ~」
トニーはグレイウルフに尻を噛まれていた。
「あぁもう!何やってんのよこのスペアリブ!」
「料理名プギャアァ!」
ビオラは正面から来た狼を杖で払いのけながら毒づいた。
「ビオラさん!」
アズキは攻撃をかわしながらコートの裏に手を入れた。そこから取り出したのは黄土色の薬品が入った瓶であった。そのまま遠くの床に投げつけると瓶は割れ、中の薬品は床に飛び散り、妙な臭いを放った。
「ちょっと…どこに投げて…ってあれ?」
一瞬怪訝したビオラだが、目の前の狼達は突如彼女を狙うのをやめ、薬品が撒かれた床に向かって駆け出した。アズキを狙っていた狼もトニーの尻を噛んでいた狼も皆何かに引き寄せられるように薬品に向かっていった。
「な…なんだべありゃ?」
コリンズは自分の命令に反する行動をとるグレイウルフ達に困惑していた。彼らは我を忘れて薬品に鼻をこすりつけている。
「ビオラさん!炎を!」
「わ、わかったわ!『フレイム』!」
ビオラは薬品に気をとられている狼の群れ目掛けて炎を放った。炎に反応した薬品は大爆発を起こし、多くの狼を焼き尽くした。
「おぉ!」
「魔物の気をひく成分を含んだ香水です!発火性ですのでこういう使い方もあるんですよ」
「なるほど…あとは――」
ピイィィー!
コリンズは生き残ったグレイウルフ達に指笛を鳴らし、自分の元に集結させた。
隠された通路の先にあった扉を開くとその中は教会であった。窓やステンドグラスを通して外の光が差し込み、座る者がいなくなって久しい長椅子がきれいに並んでいる。奥には祈りを捧げるべき神と思われる女性の朽ちた石像が厳かに佇んでいた。
「こんな所に教会があるなんて…」
「でも、この石像…パルティア様じゃない…?」
「本当ですね…デザインが少し違います」
リエル達は石像の姿をじっと観察した。各地の教会などで見られる彼女達、否、人間のほとんどが崇拝する聖の女神パルティアを象った像はみな天使のような翼を背負っている。しかし、この石像の背中には禍々しい悪魔の翼がついていた。
「…ファナトス…」
リエル達の後ろでトニーがボソッと呟いた。
「へ?なんか言った?」
その言葉を耳にしたビオラが振り向いた。
「え?俺?」
トニーは首を傾げている。
「いやいや。確かにアンタ言ったでしょ?ファナトスだかなんかって!」
ビオラは屈みこみ、トニーの顔を両手でつかんだ。
「プギャア。お、俺は知らんぞ」
トニーは戸惑いながら答えた。その戸惑いの表情は嘘をついている様子ではなかった。
「ファナトスって…確か魔族が崇めているといわれている邪神ですよね?」
「じゃあ、この石像はそのファナトスなの?」
リエルは石像を指さしながら言った。
「ということは…ここはファナトスを崇める教会ってことですか?」
「アンタなんか知ってんじゃないの?答えなさいよ!」
ビオラはトニーの顔をこねくり回しながら問い詰めた。
「プギャー!だから知らんって!だいたい、記憶がねぇんだブー!」
「ちょ…落ち着いてビオラ!そのぐらいに――」
ピイィィィー!
「…!この音は…!」
どこからともなく笛の音が響いた。壁側に置かれた古いオルガンの隣の扉が乱暴に開かれ、狼の群れがなだれ込んできた。
「こいつら…!こんな所にまで…!」
三人が武器を構える頃にはすでに狼達は彼女達の周囲を取り囲んでいた。様子を窺うかのように何匹かが唸り声をあげながらグルグルと回っている。
「まさかここに人間が入ってくっとはな!大したもんだべ!」
何者かの声が響いた。
「だ…誰?」
「ちょ…どこにいるのよ!」
三人が周囲を見渡していると、狼達が入ってきたオルガンの隣の扉から狼の耳を生やした青年がのっそりと入室してきた。
「おれの名はコリンズ。このグレイウルフ共のリーダーをしている者だべ!」
コリンズと名乗った狼の青年は自分を親指で指さしながら不敵に笑った。
「獣人…?あなたは魔族なの?」
コリンズの耳に注目しながらリエルは尋ねた。
「その通りだべ!」
コリンズは元気よく肯定した。
「なるほど…この邪神の教会はアンタ達のアジトってわけね?」
ビオラは威勢よく自分の杖をコリンズに向けた。
「おっと…そりゃちょっとちげぇな」
コリンズは指を振って否定した。
「おれら魔王軍デワフ支部の縄張りはこの山まるごと。そこに足を踏み入れた奴は誰だろうが容赦はしねぇ」
そう語るコリンズの様子を三人は警戒しながら窺っていた。相手は武器らしいものこそ持っていないが、いまだに周囲は狼達が包囲している。どんな手段を用いてくるかわからない。
「そして…ファナトス様を邪神呼ばわりすっこんだらば、生かして帰すわけにゃいかねぇべな…」
そう静かに言い放ったコリンズの殺気が一気に膨れ上がった。氷のように冷たい視線を三人に向けながら彼は指笛を口に当てた。
「かかれ!」
合図と同時にコリンズは指笛を鳴らした。その音に反応したグレイウルフ達は獲物目掛けてまっすぐ突撃した。
「来るわよ!」
「わかってる!」
リエルは折れた聖剣から光の刃を顕現させた。彼女は正面から飛びかかってきたグレイウルフを前転で回避し、振り向きながら剣を横に振りかぶった。やや長めの光の刃を纏った聖剣は三匹の狼を切り裂いた。
「うわっと!」
一方ビオラは縦横無尽に駆け回るグレイウルフに翻弄されていた。横や後ろから飛びかかってくることもあり、魔法の狙いをうまく定めることができない。かわすことが精一杯の状態であった。おまけに教会の内部に置かれた長椅子が移動の邪魔になる。アズキもほぼ同様の状態であった。
「プギャアァァ。何とかしてくれ~」
トニーはグレイウルフに尻を噛まれていた。
「あぁもう!何やってんのよこのスペアリブ!」
「料理名プギャアァ!」
ビオラは正面から来た狼を杖で払いのけながら毒づいた。
「ビオラさん!」
アズキは攻撃をかわしながらコートの裏に手を入れた。そこから取り出したのは黄土色の薬品が入った瓶であった。そのまま遠くの床に投げつけると瓶は割れ、中の薬品は床に飛び散り、妙な臭いを放った。
「ちょっと…どこに投げて…ってあれ?」
一瞬怪訝したビオラだが、目の前の狼達は突如彼女を狙うのをやめ、薬品が撒かれた床に向かって駆け出した。アズキを狙っていた狼もトニーの尻を噛んでいた狼も皆何かに引き寄せられるように薬品に向かっていった。
「な…なんだべありゃ?」
コリンズは自分の命令に反する行動をとるグレイウルフ達に困惑していた。彼らは我を忘れて薬品に鼻をこすりつけている。
「ビオラさん!炎を!」
「わ、わかったわ!『フレイム』!」
ビオラは薬品に気をとられている狼の群れ目掛けて炎を放った。炎に反応した薬品は大爆発を起こし、多くの狼を焼き尽くした。
「おぉ!」
「魔物の気をひく成分を含んだ香水です!発火性ですのでこういう使い方もあるんですよ」
「なるほど…あとは――」
ピイィィー!
コリンズは生き残ったグレイウルフ達に指笛を鳴らし、自分の元に集結させた。
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