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第六章
いわゆる負けヒロイン
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「ご…ごめんなさい…」
ようやく落ち着いた少女は鼻をかみながら謝罪した。そして彼女は近くにあった倒木に腰をかけた。
「いや、まぁ、いいのよ…色々とびっくりしたけど…」
ついでに私も隣に腰かけた。
「私はマイカ・フランベル。見ての通りの魔法使いよ」
少女は気持ちを切り替えて自己紹介した。見たところこの魔法使い、冒険者というヤツだろう。歳は…私と同じくらいかな。緑がかったポニーテールがきれいだ。以前、タタリア遺跡でメイリスと一緒にいた魔法使いの少女を見たことあるが、そいつとはまた違う雰囲気だ。あの魔法使いに比べて背も高く、どこか大人びている。先ほどの号泣っぷりからは想像つかないが。
「マイカっていうのね。私は静葉。通りすがりの大剣使いよ」
とりあえず私も自己紹介した。私が魔勇者だと気づいていないみたいだから一応、通りすがりってことにしとこう。夕暮れ時だから私の顔はそんなによく見えないはず。私は魔王の力の影響で夜目が効くけど。
「それで…あんなところで何をしていたの?」
私は当然の疑問をぶつけた。魔法使いが一人で行動するなどありえない。ゲームならばメイリスのように剣士や僧侶とかとパーティーを組んでいるはず。周りを見渡しても彼女の仲間らしき存在は探知できなかった。それを聞かれたマイカは表情を暗くしてうつむいた。
「簡単に言うと…私……失恋したの…」
「失恋した?」
マイカは静かに頷いた。
「それって…男に?」
「うん…そいつは…ニールっていう私の幼馴染でね。一緒に冒険者パーティーを組んで旅をしていたの…」
幼馴染か…。漫画やラノベでよくある設定ね。
「そいつがまたドジで間抜けで…そのくせゴタゴタに進んで首を突っ込むようなお人よしな剣士で…私がいないと危なっかしい奴でさ…」
マイカは遠い目でニールとやらについて説明した。これまたラノベの主人公みたいな男のようだ。ほっとけない系の幼馴染か。そんな奴に惚れていたのか彼女は。
「最初は二人で旅をしていたんだけど、道中魔物に襲われていた僧侶の女の子を助けたの」
おや?こういう展開もラノベで見たぞ?
「歳は私と同じくらいでね…名前はフィズ。他のパーティーに所属していたらしいけど、そこのリーダーに嫌われて追い出されたらしいのよ」
マイカはあらすじのような説明を続けた。そういうシチュもラノベで見たわね。
「さすがにほっとけなくて仲間にしたんだけどその娘がまたいい子でね。私に比べて控えめで献身的で…あっという間に私やニールと仲良くなってたわね」
まぁ、そうなるわね。
「で、なんだかんだでこの地方に来て、この辺にいた魔族の親玉を苦労して倒したのよ」
「親玉を?」
ということは、こいつらがアカフクの支部長を倒したってことか。
「なかなか手ごわいハーピーでね。そいつ以外にも多くの魔物もいたし、ボスは二人に任せて私は露払いに意気込んだわけよ」
んん?なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
「それで、どうにか魔物を殲滅して、二人の元に合流しようと向かったんだけど…」
おい…まさか…。
「ボスを倒してボロボロになったニールをフィズが残った魔力を振り絞って懸命に治療していたの…そして…」
マイカの目元に涙が浮かんだ。
「フィズが…『あなたを死なせたくない!だって、あなたを愛しているのだもの!』って涙ながらに叫んで…ニールは…『俺も…君を愛している』ってはっきりと答えたのよ…!」
ああ…そっちのルートを選んだのね。彼は…。
「がっちり見つめ合っていたし、なんならキスもしていたからね…!」
あ、そりゃもう決定的だわ。確定ね。っていうか、こういう展開って大抵はラスボス前にやるんじゃないの?
「薄々そんな気はしてたのよ!道中も二人でしゃべっている時なんかいい雰囲気だったし!うっかりお互いの手が触れた時、二人とも顔を赤らめていたし!」
マイカは突然声を荒げた。ていうか、その辺りからルートは定まっていたのか。
「そりゃ私だってそんな二人の様子をからかいもしたし、彼女の相談にも乗ったりしたし、なんなら彼女の背中を押してあげたりしたわよ!」
うわぁ。幼馴染系の悪い癖出た。
「フィズの方から指摘された時は『そんなんじゃない』と顔を熱くして否定したりもしたし、あいつの悪口もさんざん言ったりもしたわよ!」
やっぱりツンデレ系だったか。こういう幼馴染って確か『負けヒロイン』っていうんだっけ?
「それで…治療しきれなかったニールをフィズが町まで送るための殿として私はここに残って魔物と戦っていたんだけど…」
声のトーンが一気に下がった。それで一人でここにいたわけね。
「告白シーンを見せられちゃ…いくら魔物をぶっ飛ばしても、気が晴れるわけないわよ…」
マイカは拳をギュッと握りしめ、その目から涙が零れ落ちた。
「私は…どうして私は…素直にさっさと告白しなかったのよおぉぉぉぉぉ!」
そう叫びながらマイカは立ち上がり、近くの木に自分の頭を何度も叩きつけた。こりゃ相手よりも自分が許せないのだろう。
「お…落ち着いて!」
そう私に言われてマイカは息を切らしながら手もとい頭を止めた。おでこからは血が流れ、木にも血がこびりついている。正直、ドン引きする光景だ。
(…これは、どうしたらいいのかしら…)
ついつい話を聞いてしまったが、魔族の敵である冒険者である以上、別に助ける義理などない。しかし、ここまで傷心状態の人間を背後から斬りかかるような気分にはなれない。
そう考えているとマイカは何かに気づいたかのように私の顔を見た。
「…あなた…もしかして噂の魔勇者…?」
しまった!すっかり油断していた!今更ながら私は武器を構えようとした。
ガシッ!
「…へ?」
マイカは私の両手をがっしりと掴んだ。しかし、その掴み方は攻撃を封じるというよりも何かをお願いするかのようだ。
「…連れてって」
「え?」
「私を魔王軍に入れて!」
「はい?!?!?!」
いきなり何を言ってるの?顔をグイグイ近づけてなんかお願いしてきたんだけど?
「もう私…冒険者ギルドに戻りたくない!いっそのこと魔族の仲間になってやる!」
ホント何を言ってるの?何をどうしたらそんな結論に至るの?おでこから流れている血がなんか怖い。
「い…いや…急にそんなことを言われても…」
「お願い!入れてくれなきゃあなた諸共死んでやるんだからぁ!」
そう叫ぶマイカの魔力が一気に膨れ上がり、周りの空気が震えあがった。まずい!爆裂的な魔法だか何かで自爆するつもりだ!
「わ、わかったわかった!わーかったって!入れてあげるから落ち着いて!」
「ホント?」
私から了承の言葉を聞いたマイカは手を放し、魔力を収めた。危なかった…。
「でも、魔王が承諾してくれるかどうかはわかんないわよ?それでもいい?」
「いいわよ!なんとかなると思うから!」
私の忠告に対し、マイカはサムズアップしながら答えた。全然根拠がねぇ。
この時、まさか魔王から二つ返事でOKをもらえるとは微塵とも思っていなかった。
「…これも闇落ちっていうのかしら…?」
ようやく落ち着いた少女は鼻をかみながら謝罪した。そして彼女は近くにあった倒木に腰をかけた。
「いや、まぁ、いいのよ…色々とびっくりしたけど…」
ついでに私も隣に腰かけた。
「私はマイカ・フランベル。見ての通りの魔法使いよ」
少女は気持ちを切り替えて自己紹介した。見たところこの魔法使い、冒険者というヤツだろう。歳は…私と同じくらいかな。緑がかったポニーテールがきれいだ。以前、タタリア遺跡でメイリスと一緒にいた魔法使いの少女を見たことあるが、そいつとはまた違う雰囲気だ。あの魔法使いに比べて背も高く、どこか大人びている。先ほどの号泣っぷりからは想像つかないが。
「マイカっていうのね。私は静葉。通りすがりの大剣使いよ」
とりあえず私も自己紹介した。私が魔勇者だと気づいていないみたいだから一応、通りすがりってことにしとこう。夕暮れ時だから私の顔はそんなによく見えないはず。私は魔王の力の影響で夜目が効くけど。
「それで…あんなところで何をしていたの?」
私は当然の疑問をぶつけた。魔法使いが一人で行動するなどありえない。ゲームならばメイリスのように剣士や僧侶とかとパーティーを組んでいるはず。周りを見渡しても彼女の仲間らしき存在は探知できなかった。それを聞かれたマイカは表情を暗くしてうつむいた。
「簡単に言うと…私……失恋したの…」
「失恋した?」
マイカは静かに頷いた。
「それって…男に?」
「うん…そいつは…ニールっていう私の幼馴染でね。一緒に冒険者パーティーを組んで旅をしていたの…」
幼馴染か…。漫画やラノベでよくある設定ね。
「そいつがまたドジで間抜けで…そのくせゴタゴタに進んで首を突っ込むようなお人よしな剣士で…私がいないと危なっかしい奴でさ…」
マイカは遠い目でニールとやらについて説明した。これまたラノベの主人公みたいな男のようだ。ほっとけない系の幼馴染か。そんな奴に惚れていたのか彼女は。
「最初は二人で旅をしていたんだけど、道中魔物に襲われていた僧侶の女の子を助けたの」
おや?こういう展開もラノベで見たぞ?
「歳は私と同じくらいでね…名前はフィズ。他のパーティーに所属していたらしいけど、そこのリーダーに嫌われて追い出されたらしいのよ」
マイカはあらすじのような説明を続けた。そういうシチュもラノベで見たわね。
「さすがにほっとけなくて仲間にしたんだけどその娘がまたいい子でね。私に比べて控えめで献身的で…あっという間に私やニールと仲良くなってたわね」
まぁ、そうなるわね。
「で、なんだかんだでこの地方に来て、この辺にいた魔族の親玉を苦労して倒したのよ」
「親玉を?」
ということは、こいつらがアカフクの支部長を倒したってことか。
「なかなか手ごわいハーピーでね。そいつ以外にも多くの魔物もいたし、ボスは二人に任せて私は露払いに意気込んだわけよ」
んん?なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
「それで、どうにか魔物を殲滅して、二人の元に合流しようと向かったんだけど…」
おい…まさか…。
「ボスを倒してボロボロになったニールをフィズが残った魔力を振り絞って懸命に治療していたの…そして…」
マイカの目元に涙が浮かんだ。
「フィズが…『あなたを死なせたくない!だって、あなたを愛しているのだもの!』って涙ながらに叫んで…ニールは…『俺も…君を愛している』ってはっきりと答えたのよ…!」
ああ…そっちのルートを選んだのね。彼は…。
「がっちり見つめ合っていたし、なんならキスもしていたからね…!」
あ、そりゃもう決定的だわ。確定ね。っていうか、こういう展開って大抵はラスボス前にやるんじゃないの?
「薄々そんな気はしてたのよ!道中も二人でしゃべっている時なんかいい雰囲気だったし!うっかりお互いの手が触れた時、二人とも顔を赤らめていたし!」
マイカは突然声を荒げた。ていうか、その辺りからルートは定まっていたのか。
「そりゃ私だってそんな二人の様子をからかいもしたし、彼女の相談にも乗ったりしたし、なんなら彼女の背中を押してあげたりしたわよ!」
うわぁ。幼馴染系の悪い癖出た。
「フィズの方から指摘された時は『そんなんじゃない』と顔を熱くして否定したりもしたし、あいつの悪口もさんざん言ったりもしたわよ!」
やっぱりツンデレ系だったか。こういう幼馴染って確か『負けヒロイン』っていうんだっけ?
「それで…治療しきれなかったニールをフィズが町まで送るための殿として私はここに残って魔物と戦っていたんだけど…」
声のトーンが一気に下がった。それで一人でここにいたわけね。
「告白シーンを見せられちゃ…いくら魔物をぶっ飛ばしても、気が晴れるわけないわよ…」
マイカは拳をギュッと握りしめ、その目から涙が零れ落ちた。
「私は…どうして私は…素直にさっさと告白しなかったのよおぉぉぉぉぉ!」
そう叫びながらマイカは立ち上がり、近くの木に自分の頭を何度も叩きつけた。こりゃ相手よりも自分が許せないのだろう。
「お…落ち着いて!」
そう私に言われてマイカは息を切らしながら手もとい頭を止めた。おでこからは血が流れ、木にも血がこびりついている。正直、ドン引きする光景だ。
(…これは、どうしたらいいのかしら…)
ついつい話を聞いてしまったが、魔族の敵である冒険者である以上、別に助ける義理などない。しかし、ここまで傷心状態の人間を背後から斬りかかるような気分にはなれない。
そう考えているとマイカは何かに気づいたかのように私の顔を見た。
「…あなた…もしかして噂の魔勇者…?」
しまった!すっかり油断していた!今更ながら私は武器を構えようとした。
ガシッ!
「…へ?」
マイカは私の両手をがっしりと掴んだ。しかし、その掴み方は攻撃を封じるというよりも何かをお願いするかのようだ。
「…連れてって」
「え?」
「私を魔王軍に入れて!」
「はい?!?!?!」
いきなり何を言ってるの?顔をグイグイ近づけてなんかお願いしてきたんだけど?
「もう私…冒険者ギルドに戻りたくない!いっそのこと魔族の仲間になってやる!」
ホント何を言ってるの?何をどうしたらそんな結論に至るの?おでこから流れている血がなんか怖い。
「い…いや…急にそんなことを言われても…」
「お願い!入れてくれなきゃあなた諸共死んでやるんだからぁ!」
そう叫ぶマイカの魔力が一気に膨れ上がり、周りの空気が震えあがった。まずい!爆裂的な魔法だか何かで自爆するつもりだ!
「わ、わかったわかった!わーかったって!入れてあげるから落ち着いて!」
「ホント?」
私から了承の言葉を聞いたマイカは手を放し、魔力を収めた。危なかった…。
「でも、魔王が承諾してくれるかどうかはわかんないわよ?それでもいい?」
「いいわよ!なんとかなると思うから!」
私の忠告に対し、マイカはサムズアップしながら答えた。全然根拠がねぇ。
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