異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
132 / 261
第八章

マーク3RX

しおりを挟む
「あなた…いつの間にそこにいたのよ?」
「書類整理がひと段落したのでな…気分転換を兼ねて訓練場の視察に来たのだ」
「気分転換って…魔王の間もちばにいなくていいの?」
 静葉は呆れ顔で魔王を見つめた。彼はのんきな様子で手に持ったジュースを一口飲んだ。
「玉座に座りっぱなしでは身体がなまるであろう。それに、少し歩くだけでも頭の中が整理できるものだ」
「まったく…変なところで魔王らしくないわね…」
「ふふ、いいじゃない。親しみがもてる魔王様で」
 静葉が溜息をついたところでメイリスが口をはさんだ。
「それはそうと魔勇者よ。おぬし達に次の任務を下す」
「え?このタイミングで?」
 呆気にとられる静葉をよそに魔王は懐から一枚の紙を取り出し、彼女に渡した。
「先月、ファイン大陸北部にあるドワーフの村ゴロンダにて古代の遺跡が存在しているという情報が入り、その調査をデワフ支部長のコリンズに命じていた。しかし、ここ最近、彼らが何者かの襲撃にあい、行方がわからなくなってしまったのだ」
「襲撃?」
 魔王から受け取った紙はヌコからの報告書であった。
「そうだ。そこで彼の代わりにそのゴロンダ遺跡の調査をおぬしとメイリス、マイカとエイルの四人に命ずる」
「また遺跡かぁ…」
 頭をかきながら静葉は愚痴るように呟いた。
「ヌコには引き続きコリンズの捜索と襲撃者の追跡を命じている。さらに、おぬし達には『彼』を同行させる」
 そう言った魔王が指を鳴らすと天井から小さな紫水晶の玉が下りてきた。その玉には大きな一つ目が描かれており、悪魔のような翼とタヌキのような尻尾を生やしていた。
「あれ?この尻尾って…」
 その尻尾の形に静葉は見覚えがあった。
『そう!僕だよ魔勇者様!』
 水晶玉から聞き覚えのある若い男の声が響いた。
「その声は…コノハ?」
「あら、ペスタのタヌキ君じゃない。久しぶりね」
「こんにちはメイリスさん。隣の子は初めて会うけど…新入りかい?」
「あ、初めまして。マイカです」
 見たこともない物体から声をかけられ、マイカは困惑しながら挨拶した。
「な、何?この水晶玉…?なんかしゃべるんだけど?」
「ああ。こいつはペスタ支部長のコノハ。この玉っころを通じてペスタから通信してるのよ」
「通信…?そんなことできるアイテムなの?」
 ギルドでは見ることのなかったアイテムにマイカは驚きを隠せなかった。彼女は目の前で羽と尻尾をパタパタと動かしながら浮遊する水晶玉をまじまじと見つめた。
『あはは…!人間の仲間がまた増えたなんて、魔勇者様はもてるねぇ!』
「うっさいわよ。あなたこそ相変わらず出不精みたいね」
 コノハのいじりに対し、静葉は毒づいて返した。
『いやぁ、この前確保したタタリア遺跡の改修やら新アイテムの研究やらでこっちも忙しくてね。その上、ヌコからある物を調べてほしいって依頼もされているから研究室から出る暇がないのさ』
「ん?ある物?」
『うん。それは』
『ギャアアアァァァ!』
 話の途中で水晶玉からコノハとは別の人物の悲鳴が響き、その直後、血肉の潰れるような音が聞こえた。
「な、なんか聞こえたんだけど…」
『ああ、ごめんごめん。ちょっと実験をしていたものでね』
「そう…で、ある物って?」
 絶対ろくなものではない。そう確信した静葉はそれ以上の追求をやめ、話を戻した。
『ああ。じつはコリンズがデワフ支部の拠点としていたファナトスの教会が何者かに爆破されてね。そこの調査をしていたヌコが妙なアイテムを拾ったのさ。もしかしたらそこに一番近いゴロンダ遺跡にも似たような何かがあるかもしれない』
「ふーん」
 静葉はお茶を飲みながら話を聞いていた。
『そこで君達にはその遺跡に潜入してもらい、発見したアイテムをかたっぱしから回収してほしいんだ』
「つまりは盗掘してこいってことね…で、邪魔者がいたら?」
『もちろん。全て排除してもいいよ。ただし、遺跡はなるべく傷つけないようにしてね』
 静葉からの質問にコノハは明るく回答した。
「そういうことだ。任務は本日の午後三時のおやつを終えしだい正門前に集合。現場付近にはネリーが案内する。ではたのんだぞ。魔勇者よ」
 そう言いながら魔王はお湯から足を出し、持参したタオルで足を丁寧に拭いて靴を履いた。
『それじゃ。僕は魔王様と他の打ち合わせがあるから。今夜はこのフロートアイマーク3RXで僕も同行するからよろしくね』
 何事もなかったかのように休憩所を後にする魔王を追うようにフロートアイはゆっくりと飛んでいった。

「…魔王あいつのキャラがいまだにつかめないわ…」

 魔王の背中を見送りながら静葉は呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...