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第八章
雪山から遺跡へ
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ファイン大陸の北東部に位置するマリーカ地方。その西部にそびえたつフォルダ山。静葉達はその山の中腹に来ていた。
「…北の方なだけあってなかなか寒いわね」
顔に当たる冷たい風と口から洩れる白い息を見て静葉は寒さを実感した。その格好は長袖のブレザー風の衣装に白いズボン。首元に巻かれた赤いマフラーといった普段と変わらない衣装だが、雪山の中という極寒の環境にも関わらず彼女は身震い一つしていない。
「タイツ履いてきて正解だったわ。さすがに生足じゃ無理ねこりゃ」
ミニスカートの下に履いた黒いタイツをさすりながらマイカは仮面の下で白い息を吐いた。
「…こんな雪山でも寒さを全く感じないなんて…この防具すごいですね」
見た目からは想像つかないほどに軽い鎧を身に着けたエイルは自分の防具に感心した。
静葉達が身に着けている装備は外部のいかなる冷気も高熱も通さない素材を使用しており、加えて防御魔法を付与している。そのため、肌を露出している部分を除けばどんな環境でも適温で過ごすことができるのだ。
「騎士だった頃は重い鎧でこういう山を往復したものよ。懐かしいわ」
アンデッドの体質によって今や寒さを感じることができないメイリスは楽しそうに遠い昔を振り返った。
『お。ネリーが戻って来たみたいだよ』
悪魔の翼とタヌキの尻尾を生やした宙に浮かぶドッジボールほどの大きさの紫水晶の玉――フロートアイマーク3RXが四人に声をかけた。水晶から発せられたコノハの声に反応した四人が上を見上げると、上空から一人のハーピーが降下してきた。移動魔法『ワール』で静葉達をこのフォルダ山まで案内したアウルの部下のネリーである。
「コノハ様の情報通り、この先にある山の中に目的地のゴロンダ遺跡があるようです」
低空で浮遊しながらネリーはフォルダ山の中腹からはみ出た丘の先を指さした。
「へぇ…というか、今回もアウルは来ないの?」
「はい。アウル様は何やら重要な任務があるそうです。魔勇者様と同行できないことを泣きながら惜しまれてましたよ」
ネリーは最近の上司の近況をわかる範囲で教えた。
「ですって。帰ったら慰めてあげたら?」
「イヤよ」
メイリスの提案を静葉はバッサリと断った。
『あはは。冷たいねぇ魔勇者様は。ところで、他に何かあった?』
「はい。遺跡の入り口付近に先客と思しき集団が確認できました」
『どれどれ…』
ネリーからの報告を聞いたコノハはフロートアイを彼女と同じ位置の高さまで上昇させた。
『…確かにいくつかの魔力を感知できるね。ネリーはそのまま上空から監視を続けて』
「了解」
ネリーは敬礼し、再び上空へ戻った。
『よし。僕達はこのままふもとまで下りよう。このポイントをまっすぐ下れば最短で行けるよ』
コノハはフロートアイの尻尾で木々の隙間から見える傾斜を示した。
「え?スキーをしろと?板もストックもないわよ?」
両手を広げて静葉は紫水晶の球の向こうにいるコノハに尋ねた。
『大丈夫。こんなこともあろうかと君達にはあらかじめホバーブーツの改良型を支給しておいたのさ。深雪や荒れ地でもスムーズに滑ることができるはずだよ』
静葉は視線を下げ、自分が履いている靴を見た。よく見ると他の三人も同じ靴を履いている。
「ってか…ほとんど垂直な崖じゃないのよ。ふもとまで結構距離あるし」
静葉は滑る予定のルートを見下ろした。人が通るには適切とは言えないルートであった。
『君達の装備と技術ならばこのくらい余裕でしょ?』
「気楽に言ってくれるわね…できなくはないけど…」
静葉は溜息をついた。
『それじゃ、魔勇者様はりきってどうぞ!』
「おい!私からかよ!」
『魔勇者ファーストってヤツだよ』
「レディーファーストみたいに言うな!ていうか危険なトコにファーストさせんじゃないわよ!」
赤いマフラーでフロートアイにツッコミを入れながら静葉は三人に顔を向けると、どうやら満場一致の雰囲気であった。マイカ達三人は各々の表情を作り、無言で静葉をじっと見つめていた。
「…くそっ!行きゃあいいんでしょ行きゃあ!」
毒づきながら静葉は背中から赤い刀身の剣――獄炎剣を取り出し、マフラーの先端部に剣の柄をくるませた。この獄炎剣は日々の戦果を認められて魔王から献上された騎士剣。常に高熱をまとう特殊な素材で作られた刀身で敵を焼き斬る魔法の剣である。静葉が普段用いる黒い炎と相まってその熱の威力は計り知れない。
「…あとでココアとかおごんなさいよ」
「オッケー!気を付けてね」
満面の笑顔でメイリスは手を振った。
静葉は腰から取り出した双剣を両手に持ち、思いきり傾斜に身を投じた。赤いマフラーに持たせた獄炎剣を地面に突き刺し、ガリガリと音を立てながら猛スピードで山を下っていった。
『いやー。本当にやってくれるとはねぇ。ますますデータの採りがいがあるねこりゃ』
「ホントね。そこが可愛いのよね」
あっという間に見えなくなった魔勇者を見送りながらコノハとメイリスはのんきに笑っていた。
「それじゃ、私達も続きましょ」
メイリスは後ろに控えている二人に声をかけた。
「…北の方なだけあってなかなか寒いわね」
顔に当たる冷たい風と口から洩れる白い息を見て静葉は寒さを実感した。その格好は長袖のブレザー風の衣装に白いズボン。首元に巻かれた赤いマフラーといった普段と変わらない衣装だが、雪山の中という極寒の環境にも関わらず彼女は身震い一つしていない。
「タイツ履いてきて正解だったわ。さすがに生足じゃ無理ねこりゃ」
ミニスカートの下に履いた黒いタイツをさすりながらマイカは仮面の下で白い息を吐いた。
「…こんな雪山でも寒さを全く感じないなんて…この防具すごいですね」
見た目からは想像つかないほどに軽い鎧を身に着けたエイルは自分の防具に感心した。
静葉達が身に着けている装備は外部のいかなる冷気も高熱も通さない素材を使用しており、加えて防御魔法を付与している。そのため、肌を露出している部分を除けばどんな環境でも適温で過ごすことができるのだ。
「騎士だった頃は重い鎧でこういう山を往復したものよ。懐かしいわ」
アンデッドの体質によって今や寒さを感じることができないメイリスは楽しそうに遠い昔を振り返った。
『お。ネリーが戻って来たみたいだよ』
悪魔の翼とタヌキの尻尾を生やした宙に浮かぶドッジボールほどの大きさの紫水晶の玉――フロートアイマーク3RXが四人に声をかけた。水晶から発せられたコノハの声に反応した四人が上を見上げると、上空から一人のハーピーが降下してきた。移動魔法『ワール』で静葉達をこのフォルダ山まで案内したアウルの部下のネリーである。
「コノハ様の情報通り、この先にある山の中に目的地のゴロンダ遺跡があるようです」
低空で浮遊しながらネリーはフォルダ山の中腹からはみ出た丘の先を指さした。
「へぇ…というか、今回もアウルは来ないの?」
「はい。アウル様は何やら重要な任務があるそうです。魔勇者様と同行できないことを泣きながら惜しまれてましたよ」
ネリーは最近の上司の近況をわかる範囲で教えた。
「ですって。帰ったら慰めてあげたら?」
「イヤよ」
メイリスの提案を静葉はバッサリと断った。
『あはは。冷たいねぇ魔勇者様は。ところで、他に何かあった?』
「はい。遺跡の入り口付近に先客と思しき集団が確認できました」
『どれどれ…』
ネリーからの報告を聞いたコノハはフロートアイを彼女と同じ位置の高さまで上昇させた。
『…確かにいくつかの魔力を感知できるね。ネリーはそのまま上空から監視を続けて』
「了解」
ネリーは敬礼し、再び上空へ戻った。
『よし。僕達はこのままふもとまで下りよう。このポイントをまっすぐ下れば最短で行けるよ』
コノハはフロートアイの尻尾で木々の隙間から見える傾斜を示した。
「え?スキーをしろと?板もストックもないわよ?」
両手を広げて静葉は紫水晶の球の向こうにいるコノハに尋ねた。
『大丈夫。こんなこともあろうかと君達にはあらかじめホバーブーツの改良型を支給しておいたのさ。深雪や荒れ地でもスムーズに滑ることができるはずだよ』
静葉は視線を下げ、自分が履いている靴を見た。よく見ると他の三人も同じ靴を履いている。
「ってか…ほとんど垂直な崖じゃないのよ。ふもとまで結構距離あるし」
静葉は滑る予定のルートを見下ろした。人が通るには適切とは言えないルートであった。
『君達の装備と技術ならばこのくらい余裕でしょ?』
「気楽に言ってくれるわね…できなくはないけど…」
静葉は溜息をついた。
『それじゃ、魔勇者様はりきってどうぞ!』
「おい!私からかよ!」
『魔勇者ファーストってヤツだよ』
「レディーファーストみたいに言うな!ていうか危険なトコにファーストさせんじゃないわよ!」
赤いマフラーでフロートアイにツッコミを入れながら静葉は三人に顔を向けると、どうやら満場一致の雰囲気であった。マイカ達三人は各々の表情を作り、無言で静葉をじっと見つめていた。
「…くそっ!行きゃあいいんでしょ行きゃあ!」
毒づきながら静葉は背中から赤い刀身の剣――獄炎剣を取り出し、マフラーの先端部に剣の柄をくるませた。この獄炎剣は日々の戦果を認められて魔王から献上された騎士剣。常に高熱をまとう特殊な素材で作られた刀身で敵を焼き斬る魔法の剣である。静葉が普段用いる黒い炎と相まってその熱の威力は計り知れない。
「…あとでココアとかおごんなさいよ」
「オッケー!気を付けてね」
満面の笑顔でメイリスは手を振った。
静葉は腰から取り出した双剣を両手に持ち、思いきり傾斜に身を投じた。赤いマフラーに持たせた獄炎剣を地面に突き刺し、ガリガリと音を立てながら猛スピードで山を下っていった。
『いやー。本当にやってくれるとはねぇ。ますますデータの採りがいがあるねこりゃ』
「ホントね。そこが可愛いのよね」
あっという間に見えなくなった魔勇者を見送りながらコノハとメイリスはのんきに笑っていた。
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