異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

第七章

追い詰めた？

「い、一体何が…ぐはっ！」

　壺の爆発によって発生した煙に視界を奪われたジェレミィは上から降って来た何かに押しつぶされた。その正体は先ほどまで自分達の手によってフキホラの壺に封じ込められた大柄なドワーフ、オーカワであった。壺が内部から破壊されたことによって彼はリエル、トニーと共に解放されたのだ。オーカワは閉じ込められたお返しと言わんばかりにジェレミィの身体を思いきり抑えつけた。

「てめぇ…おぶっ！」

　ジェレミィの手下の一人はリーダーに危害を加えるドワーフに剣を振るおうとしたが、その行動は背後からのリエルのエルボーによって阻まれた。

「ビオラ！」

　リエルは脇に抱えていたトニーをビオラに向かって放り投げた。

「えっ？っておわっ！」
「ブヒッ」

　いきなり飛んできた黒豚の身体を両腕で受け止めたビオラだが、その体格の大きさによってバランスを崩し、よろめきながら尻もちをついた。その隙をつこうとしたジェレミィの手下はハガーの拳とアズキの香辛料による目つぶしによって撃退された。

「くそっ！どうなってんのよ？」

　先ほどまでの優位性が覆され、動揺するパーネだったが、その隙をリエルが見逃すはずがなかった。彼女の攻撃を察知したパーネはショーテルを振りかざして迎撃を試みたが、折れた聖剣から発せられた光の刃を受け止めることはできなかった。

「んなっ!?」

　ショーテルの刀身は紙切れのようにあっけなく切り裂かれた。リエルはすかさず光の刃をひっこめて聖剣の柄の部分をパーネの鳩尾に思いきり突き込んだ。

「ごはっ！」

　予想以上の威力と勢いにパーネはアイテムの山の横の壁に叩き付けられ尻もちをついた。その様子を目撃した手下数人は思わずたじろいだ。身体を起こそうとパーネが両手を床につけた瞬間、彼女の鼻先に光の刃が突き付けられた。

「チェックメイトよ。降参しなさい」

　光の刃と共に鋭い視線をパーネに突き付けながらリエルはそう告げた。

「そして、盗んだアイテムをこのドワーフ達に全て返しなさい！」

　要求さえ呑めば命は助ける。そういう口ぶりであった。

「…ずいぶん優しいわね。でも…」

　パーネは小さく笑いながらアイテムの山から一つのロッドを手に取った。

「…そうはいかないのよね！」
　そう言いながらパーネは手にしたロッドをリエルの横に向け、魔力をこめた。

「…！あれは『空くうのロッド』！」
「姉ちゃん達！逃げろ！」
「ふえ？」
　オーカワとハガーは事態をいち早く察知し、ビオラとアズキの身体を急いで通路へ押しのけた。

「な、何？」
　ロッドの先端についている紫の宝石が輝き、光球がリエルの背後に放たれた。リエルは思わず飛び出した光球を目で追った。その一瞬の隙をついてパーネが反対側の通路へ駆け込んだ瞬間、光球を中心とした半径数メートルに強力な重力がかかった。ロッドに込められた魔法が発動したのだ。

「うぐ…！」

　まるで全身が金属になったかのような凄まじい重圧がリエルにのしかかった。四肢はおろか、首もまともに動かすことができず、後方にいるはずのビオラ達の安否を確かめることさえままならない。魔法の範囲内の床には広く亀裂が走り、少しずつ地面が沈んでいる。そして、魔法の影響は天井にも及んでいた。

「ギャアアアア！」
「つ、潰されるうぅぅぅぅ！」

　ジェレミィを含む魔法から逃げ遅れた者達は床や天井の崩落に巻き込まれ、腐った果実のように次々と潰れていった。次は自分の番。リエルがそう予測した時、天井から大きな破片が降り注いだ。