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第九章

ゴミ片付け

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「あーあー。こんなところに大きなゴミ引っかけちゃって…」

 リエル達がズアーの森を出て数刻後、コウモリの羽を生やした魔族が空から木に引っかかった落下傘を発見した。

「ホント、最近の冒険者ってのはマナーがなっちゃいないわねー。トバさん」

 少し遅れて蝶型の魔族が彼の後ろから現れた。

「んー…引っかかって取りづらいな。少し枝を切るからそっち持ってくれ。バレッタ」
「はいよ」
 バレッタと呼ばれた蝶の魔族が落下傘の一部を持ったところを確認したトバは腰の剣を使って数本の枝を切り落とした。

「しかしまぁ、こんなもん使って人間が空を飛んでくるとはねぇ~」
 そう言いながらバレッタはトバが落とした落下傘を回収した。
「この辺りを飛んでいたハーピー達の目撃情報によると、三人の人間と一匹の豚がファイン大陸の方角から飛んできたらしいぜ」
 二つ目の落下傘を回収しながらトバは話した。
 この二人は魔王軍アカフク支部に所属する魔族である。支部長のジーナを失った後、散り散りになった彼らだが、体勢を立て直し、新たな拠点と支部長の下、冒険者達の目をかいくぐりながら活動を再開したのであった。

「ファイン大陸から?かなりの距離じゃない!」
 その言葉を聞いたバレッタは目を丸くした。
「そして、この落下傘を使って落下のダメージを抑えたけど、着地の際に木に引っかかって身動きがとれなくなっちまった…ってとこかな?」
 トバはこの地点に落下傘が放置されている理由を推測した。
「なるなる。…で、この森に生息しているセアカウィドウに襲われて慌ててこの場から離れたってわけね」
 トバの推測にバレッタは捕捉を入れた。
「けど、とんでもない話ねぇ。遠くなら人間を空高く飛ばす方法があるなんてね…」
「そうだな。そのうち、魔大陸に人間が飛んでくるなんて話があるかもな」
 落下傘を丁寧に畳みながらトバは自分の予想を口にした。
「まっさかぁ。仮に飛んできたとしても、雷に打たれて落ちるのがオチよ。だけに」
「お、うまい」
 トバの予想をバレッタは洒落を交えながら否定した。魔大陸ダーグヴェの上空は常に全体が雷雲で覆われており、発せられる強烈な雷は上空からの侵入者を誰であろうと許さない天然の迎撃装置である。したがって、魔王城が存在する魔大陸の中央へ行くには移動魔法『ワール』を使うか、過酷な環境である陸路を踏破するしか方法はない。

「よし…こんなものか」
 全ての落下傘を回収したトバとバレッタは一息ついた。
「縦に真っ二つにされたセアカウィドウもいたわね。すごい切れ味の剣を使ったようね」
「ああ。どんな冒険者が飛んできたんだか」
 そう話しながら二人は持参してきたはちみつジュースを飲んだ。

「…そういえば、ここに来る途中で変なシスターを見つけたわ」
「変なシスター?」
 トバは首を傾げた。
「ええ。右腕がないシスターなんだけど、歩きながら一人でなんかぶつくさ言ってたわ。『彼女は私が殺してしまったはず』とかなんとか…」
「なんだそりゃ?」
「まあ、害はないからほっといてもいいわよね」
「だな」
 回収した落下傘をまとめた二人は早急にアカフク支部へ引き上げた。
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