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第九章
異世界でラノベ
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「シズハー。入っていい?」
「ん?いいわよ」
「お邪魔しまーす」
静葉の了承を得て居室に入って来たのはマイカとメイリスであった。
「あら?何を読んでいるの?」
椅子に腰かけ、静かに読書をしている静葉の手にある書物にマイカは興味を示した。
「これ?この世界に来る時に持ってきていたラノベよ。もう何回も読み終えちゃったけどね」
「らのべ?」
右手に持った肉まんをかじりながらメイリスは首を傾げた。静葉がたびたびその単語を口にしていたのは覚えているが、実際にその意味はいまだに把握していなかった。
「んー…そうね…おとぎ話みたいなもの…かしら?」
その本は静葉がこの世界に召喚されるきっかけとなった中古のライトノベルであった。
「変わった表紙ね。シズハの世界ではこういう絵柄が流行りなの?」
「そういうわけじゃないんだけどね…」
マイカは静葉から受け取った本をパラパラとめくった。
「でも読める?こっちの世界とは違う文字を使っているはずだけど…」
そう言われてマイカはあるページを開き、そこに書かれている文字を凝視した。
「これは…『もう!入浴中に入ってこないでよ!』…かな?」
「え?読めるの?」
音読した文章が合ってることに対し、静葉は目を丸くした。
「この書体と文法、オウカ語によく似てるのよ」
「オウカ語?」
「クラウディ大陸の西側を治めているオウカ公国で主に使われている言語よ」
「あらホント。こっちは『いくら幼馴染だからって一緒の部屋だなんて…!』かしら?」
横から覗いたメイリスは別の文章を音読した。
「とんだご都合展開ね…こっちは魔王の力の影響でこの世界の言語がわかるけどさ…」
静葉は肩を竦めた。
「文章を縦書きで書くのもオウカ形式だからね。あとは…隣のページの挿絵がヒントになったからかな?」
隣のページには裸体をバスタオルで隠し、赤面する少女が描かれていた。
「あらあら。シズハちゃんってばこういう絵が好きなのかしら?」
ニヤニヤしながらメイリスは尋ねた。
「違うわよ!ラノベってのは大抵こういうお色気展開をはさんでくるもんなの!男の主人公が何かとヒロインの胸に飛び込んだりとか、ベッドにヒロインがもぐりこんでいたりとか――ん?」
説明している間に黙読しているマイカに目を向けると、彼女はいつの間にか両目から涙をこぼしていた。
「え?あれ?その辺りって泣けるシーンあったっけ?」
「…あ!ご、ごめん!ちょっとこの幼馴染の娘が私に似ていて…」
涙をぬぐいながらマイカは答えた。幼馴染の娘とは主人公の少年と一緒に異世界に飛ばされた少女のことである。彼女は勇者として選ばれた少年を支えるために魔法使いとなって旅に同行することになったのである。
「こんなにも尽くしているのに…この主人公はどうして彼女の気持ちに気づいてくれないのよ…」
「ハーレムものの主人公は大抵そんなものよ。私も読んでて腹立だしいと思ったわ」
あきれ顔を作りながら静葉はテーブルの上に置いてあるカップを手に取り、緑茶を一口飲んだ。
「道中、仲間になる武闘家だのエルフだの皆美少女ばかりだし、そいつら全員あっさりと主人公に惚れるし…そのくせ肝心の主人公はアホみたいに鈍感で彼女達の恋心に全く気付かない。私ならそんな男はお断りよ」
「あらそう?そんなこと言って、実際にパーティー組んだら惚れちゃうんじゃない?」
「はっ!んなわけないわよ。消費税が一気に下がるくらいありえないわ」
メイリスの問いに対し、静葉は鼻を鳴らして否定した。
「でもなんだかんだ面倒見がよく、ハーレムとやらを作るところは魔勇者様にもあると思いますよ?」
ベッドから顔を出したアウルが唐突に口をはさんできた。
「どわっ!いつからいたのよ?」
「魔勇者様が部屋に戻られた直後です。今日は仕事が早めに終わったので一足早くベッドを温めておりました」
アウルはしれっとした表情でベッドから抜け出した。ちなみに彼女はすでに静葉の本を読み終えていたので物語の内容を知り尽くしていたのである。
「勝手に入んなって毎回言ってんでしょうが!いくら修行してもあんたの気配は全然読めないんだから!」
「いやーそれほどでも」
「褒めてねぇよ!」
テーブルの上では赤いマフラーが持ち主の気持ちを代弁するようにぶんぶん動いていた。
「ったく…で、何しに来たの?」
「あ、そうそう。そろそろ夕食だから誘いに来たんだったわ」
用事を思い出したマイカはポンと手を叩いた。
「夕食?あ、ほんとだ」
二人が来るまで読書に集中していた静葉はようやく時計を見た。
「それじゃ行きましょ。きっとエイルも待ってるわよ」
「待ってる?律儀な奴ね。私に構わず食べてりゃいいのに…」
「何言ってんの!そういう無粋なとこ、ニールに似てるんだから…ほら!」
せかすように部屋を出たマイカを静葉は追いかけて行った。
「…ふふ。本当に面白い娘ね」
二人の背中を見送ったメイリスはクスクスと笑った。
「同感です。僭越ながらご一緒してもよろしいですか?」
「ええ。もちろんよ」
アウルの申し出をメイリスは快く承った。
「ん?いいわよ」
「お邪魔しまーす」
静葉の了承を得て居室に入って来たのはマイカとメイリスであった。
「あら?何を読んでいるの?」
椅子に腰かけ、静かに読書をしている静葉の手にある書物にマイカは興味を示した。
「これ?この世界に来る時に持ってきていたラノベよ。もう何回も読み終えちゃったけどね」
「らのべ?」
右手に持った肉まんをかじりながらメイリスは首を傾げた。静葉がたびたびその単語を口にしていたのは覚えているが、実際にその意味はいまだに把握していなかった。
「んー…そうね…おとぎ話みたいなもの…かしら?」
その本は静葉がこの世界に召喚されるきっかけとなった中古のライトノベルであった。
「変わった表紙ね。シズハの世界ではこういう絵柄が流行りなの?」
「そういうわけじゃないんだけどね…」
マイカは静葉から受け取った本をパラパラとめくった。
「でも読める?こっちの世界とは違う文字を使っているはずだけど…」
そう言われてマイカはあるページを開き、そこに書かれている文字を凝視した。
「これは…『もう!入浴中に入ってこないでよ!』…かな?」
「え?読めるの?」
音読した文章が合ってることに対し、静葉は目を丸くした。
「この書体と文法、オウカ語によく似てるのよ」
「オウカ語?」
「クラウディ大陸の西側を治めているオウカ公国で主に使われている言語よ」
「あらホント。こっちは『いくら幼馴染だからって一緒の部屋だなんて…!』かしら?」
横から覗いたメイリスは別の文章を音読した。
「とんだご都合展開ね…こっちは魔王の力の影響でこの世界の言語がわかるけどさ…」
静葉は肩を竦めた。
「文章を縦書きで書くのもオウカ形式だからね。あとは…隣のページの挿絵がヒントになったからかな?」
隣のページには裸体をバスタオルで隠し、赤面する少女が描かれていた。
「あらあら。シズハちゃんってばこういう絵が好きなのかしら?」
ニヤニヤしながらメイリスは尋ねた。
「違うわよ!ラノベってのは大抵こういうお色気展開をはさんでくるもんなの!男の主人公が何かとヒロインの胸に飛び込んだりとか、ベッドにヒロインがもぐりこんでいたりとか――ん?」
説明している間に黙読しているマイカに目を向けると、彼女はいつの間にか両目から涙をこぼしていた。
「え?あれ?その辺りって泣けるシーンあったっけ?」
「…あ!ご、ごめん!ちょっとこの幼馴染の娘が私に似ていて…」
涙をぬぐいながらマイカは答えた。幼馴染の娘とは主人公の少年と一緒に異世界に飛ばされた少女のことである。彼女は勇者として選ばれた少年を支えるために魔法使いとなって旅に同行することになったのである。
「こんなにも尽くしているのに…この主人公はどうして彼女の気持ちに気づいてくれないのよ…」
「ハーレムものの主人公は大抵そんなものよ。私も読んでて腹立だしいと思ったわ」
あきれ顔を作りながら静葉はテーブルの上に置いてあるカップを手に取り、緑茶を一口飲んだ。
「道中、仲間になる武闘家だのエルフだの皆美少女ばかりだし、そいつら全員あっさりと主人公に惚れるし…そのくせ肝心の主人公はアホみたいに鈍感で彼女達の恋心に全く気付かない。私ならそんな男はお断りよ」
「あらそう?そんなこと言って、実際にパーティー組んだら惚れちゃうんじゃない?」
「はっ!んなわけないわよ。消費税が一気に下がるくらいありえないわ」
メイリスの問いに対し、静葉は鼻を鳴らして否定した。
「でもなんだかんだ面倒見がよく、ハーレムとやらを作るところは魔勇者様にもあると思いますよ?」
ベッドから顔を出したアウルが唐突に口をはさんできた。
「どわっ!いつからいたのよ?」
「魔勇者様が部屋に戻られた直後です。今日は仕事が早めに終わったので一足早くベッドを温めておりました」
アウルはしれっとした表情でベッドから抜け出した。ちなみに彼女はすでに静葉の本を読み終えていたので物語の内容を知り尽くしていたのである。
「勝手に入んなって毎回言ってんでしょうが!いくら修行してもあんたの気配は全然読めないんだから!」
「いやーそれほどでも」
「褒めてねぇよ!」
テーブルの上では赤いマフラーが持ち主の気持ちを代弁するようにぶんぶん動いていた。
「ったく…で、何しに来たの?」
「あ、そうそう。そろそろ夕食だから誘いに来たんだったわ」
用事を思い出したマイカはポンと手を叩いた。
「夕食?あ、ほんとだ」
二人が来るまで読書に集中していた静葉はようやく時計を見た。
「それじゃ行きましょ。きっとエイルも待ってるわよ」
「待ってる?律儀な奴ね。私に構わず食べてりゃいいのに…」
「何言ってんの!そういう無粋なとこ、ニールに似てるんだから…ほら!」
せかすように部屋を出たマイカを静葉は追いかけて行った。
「…ふふ。本当に面白い娘ね」
二人の背中を見送ったメイリスはクスクスと笑った。
「同感です。僭越ながらご一緒してもよろしいですか?」
「ええ。もちろんよ」
アウルの申し出をメイリスは快く承った。
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