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第九章
リフォームした道場
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「いやー。後片付けも無事終わりましたね」
サリアから用意された客室でリエル達は一息ついていた。アズキは部屋に置いてあった急須を用いて人数分の茶を注いだ。
「全く…食器場所まで覚えろとか細かすぎんのよ…」
畳の上で仰向けに転がったビオラは不満をこぼした。
食事を終えたリエル達はそのまま食器と調理器具の洗浄を行った。サリア曰く、『調達、調理、賞味、片付けまでが料理である』とのことであり、洗剤の量、油の落とし方、拭く力加減、食器の重ね方、果ては食器の置き場所までこと細かく指導を受けることとなった。
「でも、ようやく一息つけるわね」
お茶を手に取ったリエルが言った。
「これをしばらく続けろっての?正直身が持たないわよ~…」
仰向けのままビオラは溜息をついた。
「この際、聖剣だけ取り返してここからとんずらしたほうが良くない?」
ビオラは寝返りを打ちながら提案した。
「だ、ダメよ!そんな泥棒みたいなこと!」
「泥棒って…あれはあたし達の預かりものでしょ?こっちはアレを直してペスタ王国に返さなきゃならないんだし、こんなトコで足止め喰らってる場合じゃないでしょうが」
「そうかもしれないけど…師範の言うことも正しいと思うのよ…」
リエルはビオラの目を見て反論した。
「ペスタからここに来るまで、正直私は聖剣の力に頼っていたわ。あれがなかったらきっと、この道場に来ることもできなかったと思う…」
魔勇者との戦いの最中で折れてしまったにもかかわらず、聖剣エクセリオンはリエルに並みならぬ力を与えてくれた。その力のおかげで彼女は道中の危機を何度も乗り越えることが出来た。
「こうしている間にもあの魔勇者はきっと、あの時よりも強くなっているはず。次に会った時、聖剣の力だけで勝てるような気がしないの…」
リエルはふと、自分の右手の平を見つめた。その手はほんの少し震えていた。
「…いや、もしかしたら、聖剣なしで戦わなければならないかも…」
ゾート王国の城を黒い炎で包み、城下町の半分を消し飛ばしたと噂される魔勇者。一度しか相対していないが、直接顔を合わせたリエルにはその恐ろしさを身体の芯まで感じ取っていた。
「だからここでいっちょ強くなってやろうってわけ?ホント真面目ねぇ…」
ビオラは相棒の意気込みを理解し、溜息をついた。
「まぁ、そういう意味ではあのおばさん――もがっ!」
仰向けになっているビオラの顔面に女性の足の裏がのしかかった。
「隙だらけだぞ。休憩時間だからって油断するな」
右足をグリグリしながらサリアはダメだしした。
「ふがが…ふんがふががふが…(だから…なんであたしだけ…)」
顔に足を乗せられたままビオラは文句をつけた。
「師範!」
「そんなに身構えるな。今日のところは訓練はないと言っただろう」
「あ、はい。じゃあ、その鞄は?」
リエルはサリアが身に着けている鞄について尋ねた。
「これか?これからトラップの点検に行くところでな」
「点検?こんな時間にですか?」
外の陽はすでに沈み、空は東から暗くなり始める時間帯であった。
「この程度の暗さなど大したことない。お前達は温泉にでも入ってゆっくり休め。場所は台所の隣だ」
「温泉?この道場に温泉があるんですか?」
「ああ。元々ここは温泉旅館だったらしい。何らかの理由で閉館したそれを買い取って私は道場にリフォームしたんだ」
「なるなる。秘境の温泉ってヤツだったのか」
トニーはビオラの腹の上に乗っかりながら納得した。
「では行ってくる。くれぐれも夜更かしするなよ。明日も早いからな」
そう言ってサリアはビオラから足を離し、客間を後にした。
「ねぇねぇどんな気持ち?足で顔面を踏まれるのってどんな気持ち?NDK?NDK?」
ビオラの胸の上に移動したトニーは無表情な顔面を近づけてうざく質問した。
「うるせぇ!乙女の胸に触んなトンテキ!」
身体を起こしながらトニーの胴体を掴み、ビオラは正面の畳に叩き付けた。
「プギャー」
転がったトニーはふすまにぶつかった。
「ったく…どいつもこいつも!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。ほら」
憤慨するビオラをなだめるべくリエルはちゃぶ台に置かれたお茶を手渡した。
「それにしても驚いたわね。この道場、元々は旅館だったなんて」
「そうね。道場にしてはなんかでかいと思ってたのよね。この客間も広くて居心地いいし」
もらったお茶をすすりながらビオラは頷いた。
「訓練用の道具を置いてあったスペースとか、元々はお土産売り場だったのかもしれないわね。スペースの活用の仕方がとても上手ね」
リエルは入り口付近の間取りを思い出した。
「そんな大規模なリフォームをあのおばさんが一人でやったっての?まぁ、あの人ならやりかねないけど…」
周囲を警戒しながらビオラは言った。
「いえ…きっと誰かに手伝ってもらったのかもしれないわ。誰かはわからないけど」
リエルはお茶を飲み終えた湯飲みをちゃぶ台に置いた。
「あーあ。にしても肩こったわ。あんなでかい籠背負わされて採取作業するなんてね」
ビオラは自身の型を揉み、溜息をついた。
「そうね。無限に入る魔法の袋なんてあればいいのにね」
「はっ!あるわけないでしょそんな便利アイテム!」
二人は肩を竦め、笑いあった。
サリアから用意された客室でリエル達は一息ついていた。アズキは部屋に置いてあった急須を用いて人数分の茶を注いだ。
「全く…食器場所まで覚えろとか細かすぎんのよ…」
畳の上で仰向けに転がったビオラは不満をこぼした。
食事を終えたリエル達はそのまま食器と調理器具の洗浄を行った。サリア曰く、『調達、調理、賞味、片付けまでが料理である』とのことであり、洗剤の量、油の落とし方、拭く力加減、食器の重ね方、果ては食器の置き場所までこと細かく指導を受けることとなった。
「でも、ようやく一息つけるわね」
お茶を手に取ったリエルが言った。
「これをしばらく続けろっての?正直身が持たないわよ~…」
仰向けのままビオラは溜息をついた。
「この際、聖剣だけ取り返してここからとんずらしたほうが良くない?」
ビオラは寝返りを打ちながら提案した。
「だ、ダメよ!そんな泥棒みたいなこと!」
「泥棒って…あれはあたし達の預かりものでしょ?こっちはアレを直してペスタ王国に返さなきゃならないんだし、こんなトコで足止め喰らってる場合じゃないでしょうが」
「そうかもしれないけど…師範の言うことも正しいと思うのよ…」
リエルはビオラの目を見て反論した。
「ペスタからここに来るまで、正直私は聖剣の力に頼っていたわ。あれがなかったらきっと、この道場に来ることもできなかったと思う…」
魔勇者との戦いの最中で折れてしまったにもかかわらず、聖剣エクセリオンはリエルに並みならぬ力を与えてくれた。その力のおかげで彼女は道中の危機を何度も乗り越えることが出来た。
「こうしている間にもあの魔勇者はきっと、あの時よりも強くなっているはず。次に会った時、聖剣の力だけで勝てるような気がしないの…」
リエルはふと、自分の右手の平を見つめた。その手はほんの少し震えていた。
「…いや、もしかしたら、聖剣なしで戦わなければならないかも…」
ゾート王国の城を黒い炎で包み、城下町の半分を消し飛ばしたと噂される魔勇者。一度しか相対していないが、直接顔を合わせたリエルにはその恐ろしさを身体の芯まで感じ取っていた。
「だからここでいっちょ強くなってやろうってわけ?ホント真面目ねぇ…」
ビオラは相棒の意気込みを理解し、溜息をついた。
「まぁ、そういう意味ではあのおばさん――もがっ!」
仰向けになっているビオラの顔面に女性の足の裏がのしかかった。
「隙だらけだぞ。休憩時間だからって油断するな」
右足をグリグリしながらサリアはダメだしした。
「ふがが…ふんがふががふが…(だから…なんであたしだけ…)」
顔に足を乗せられたままビオラは文句をつけた。
「師範!」
「そんなに身構えるな。今日のところは訓練はないと言っただろう」
「あ、はい。じゃあ、その鞄は?」
リエルはサリアが身に着けている鞄について尋ねた。
「これか?これからトラップの点検に行くところでな」
「点検?こんな時間にですか?」
外の陽はすでに沈み、空は東から暗くなり始める時間帯であった。
「この程度の暗さなど大したことない。お前達は温泉にでも入ってゆっくり休め。場所は台所の隣だ」
「温泉?この道場に温泉があるんですか?」
「ああ。元々ここは温泉旅館だったらしい。何らかの理由で閉館したそれを買い取って私は道場にリフォームしたんだ」
「なるなる。秘境の温泉ってヤツだったのか」
トニーはビオラの腹の上に乗っかりながら納得した。
「では行ってくる。くれぐれも夜更かしするなよ。明日も早いからな」
そう言ってサリアはビオラから足を離し、客間を後にした。
「ねぇねぇどんな気持ち?足で顔面を踏まれるのってどんな気持ち?NDK?NDK?」
ビオラの胸の上に移動したトニーは無表情な顔面を近づけてうざく質問した。
「うるせぇ!乙女の胸に触んなトンテキ!」
身体を起こしながらトニーの胴体を掴み、ビオラは正面の畳に叩き付けた。
「プギャー」
転がったトニーはふすまにぶつかった。
「ったく…どいつもこいつも!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。ほら」
憤慨するビオラをなだめるべくリエルはちゃぶ台に置かれたお茶を手渡した。
「それにしても驚いたわね。この道場、元々は旅館だったなんて」
「そうね。道場にしてはなんかでかいと思ってたのよね。この客間も広くて居心地いいし」
もらったお茶をすすりながらビオラは頷いた。
「訓練用の道具を置いてあったスペースとか、元々はお土産売り場だったのかもしれないわね。スペースの活用の仕方がとても上手ね」
リエルは入り口付近の間取りを思い出した。
「そんな大規模なリフォームをあのおばさんが一人でやったっての?まぁ、あの人ならやりかねないけど…」
周囲を警戒しながらビオラは言った。
「いえ…きっと誰かに手伝ってもらったのかもしれないわ。誰かはわからないけど」
リエルはお茶を飲み終えた湯飲みをちゃぶ台に置いた。
「あーあ。にしても肩こったわ。あんなでかい籠背負わされて採取作業するなんてね」
ビオラは自身の型を揉み、溜息をついた。
「そうね。無限に入る魔法の袋なんてあればいいのにね」
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二人は肩を竦め、笑いあった。
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