異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
160 / 261
第九章

目指すは勇者

しおりを挟む
「それにしても、特にお前は根性あるな。他の二人とは大違いだ」
 木刀の素振りを熱心に続けるリエルを見て、サリアは思わず感心した。
「そりゃそうよ。そいつは勇者を目指しているんだからさ」
 スクワットを続けながらビオラが口をはさんできた。
「勇者…?」
 その単語に対し、サリアは眉をしかめた。
「は、はい…」
 素振りに集中するリエルは戸惑いながらも答えた。
 彼女が冒険者となる道を選んだ理由。それは幼い頃に祖母と一緒に読んだ勇者の物語をつづった絵本。その物語に描かれた勇ましき剣士が人々を救うために悪の魔王と戦う姿。それに心惹かれたリエルは将来、勇者になることを決意した。そのために何が必要か、何を身に着けるべきか懸命に学び、教会での勉学を終えるや否やリエルは冒険者のライセンスを取得した。そんな彼女を支えるためにビオラもまた後を追うように冒険者になったのだ。

「こいつ、一度やるって決めたらやるって聞かなくてさぁ…付き合わされるこっちの身にもなってほしいものよ…」
「ふむ…」
 スクワットのノルマを終え、肩で息をしながら話すビオラをよそに、サリアはリエルを見ながら顎に手を当てた。そして、おもむろにリエルの両手を掴み、強引に素振りを止めた。

「え?」
「…その様子だと、お遊びや不純な動機で勇者を目指しているわけではなさそうだな」
 鋭い目つきで自分をにらむサリアにリエルは思わずたじろいだ。

「……」
 何を言っても叩かれる。リエルはそんな圧力を感じた。

「…ならばわかっているな?勇者になることが、そして、勇者になってからがどれほど修羅の道なのかを…」
 
 その言葉を聞いたリエルは、ただ静かに頷いた。その様子を見たサリアはゆっくりと手を離した。

「勝手に止めてすまなかったな。続けろ」
「あ、はい」

 そう言われたリエルは素振りを再開した。

「お前達もだ。勇者を守るならばそれ相応の力を身につけろ!どんな意図があろうと、守れなければ意味がないからな」

 ビオラとアズキにそう強く指摘したサリアは玄関の戸を開け、外に出た。三人と一匹は呆気にとられながらその様子を見ていた。

「き、急にどうしたの…?」
「さあ…でも、勇者に対して何か思うところがあるみたいだけど…」
 サリアの急な反応に対して理解が追い付かないリエルはただ首を傾げることしかできなかった。

「勇者になることが修羅の道…か…」
「んなこと最初からわかってるつもりだけど…ねぇ?」
 ビオラは肩を竦めた。
 『勇者』の称号を得る方法は国によって異なる。リエル達が知っている方法はその中の一つ。Sランクの冒険者がエキョウ王国が年に一度実施する勇者国家試験に挑み、合格するというものである。実技試験。筆記試験。面接。いくつもの難関を越えた猛者のみが勇者の称号を得ることができるのだ。毎年、何十人ものSランクの冒険者が各地から挑戦に訪れるが、ここ数年、勇者の称号を得た者はいない。

「まあいいわ。訓練を続けましょ」
「はいはい」

 リエルから真面目に指摘されたビオラは渋々腹筋を始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...