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第十一章

セキュリティ強化

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「それはそうと魔勇者よ。いつもに増して目つきが悪いのう?」
「『いつも』は余計よ」
 静葉の目の下にはクマが生じており、彼女の表情はいつもよりも険しいものになっていた。
「ちょっと寝不足でね。なんか最近気が抜けないのよ」
「ほほう。例の勇者殺しとやらか」
 ズワースは魔王やメイリスを通じて静葉から先日のクイーン・ゼイナル号のいきさつを聞いていた。そこに現れた灰色の髪の男――セラム・ドゥとの戦いの話にズワースは大きな関心を抱いた。
「絶剣ウルティムス…とか言ったかの?何やら異様な武器じゃな」
 空間を切り裂き、裂け目を通して人や攻撃を行き来させる力を持つ緋色の剣。その剣の力によってセラム・ドゥは空間を越えた移動や攻撃を繰り出し、静葉を翻弄した。
「あんな技を使ってくるうえに、勇者を皆殺しにする的なことを言ってる奴よ?間違いなくまた襲ってくるわ」
 あれほどの男があの程度であきらめるとは思えない。いつどこで襲われるかと考えると静葉は普段の生活でも気が抜けなくなってしまったのだ。
「ふーむ。その手の類は標的の魔力を探知する必要がある。ならば戦闘時以外は自らの魔力をほぼゼロまで抑え込んでおけばまず見つかるまい」
「バトル漫画とかでよくあるヤツね。まさか本当にできるとはね」
 体内の魔力をコントロールし、敵による魔力探知を回避する。静葉とエイルはすでにズワースからその訓練を受けている。
「でも、訓練はどうするんですか?メニューによっては魔力も使わなければならないものもありますし。訓練中に襲われでもしたら…」
「安心せい。すでに手は打ってある」
 エイルの懸念を払拭するかのようにズワースは鼻を鳴らした。
「先日、コノハの協力を得てこの洞窟の周りに魔力探知を阻害するジャミング装置を仕掛けてもらった。これで外側からわしらの魔力を探知することはできない」
「用意周到ね。なんか改築してるなと思ったら…」
「魔王城にも同様の装置が設置されておる。これでお前さんは安心して訓練に集中できるというわけじゃ。外にいる時だけ魔力を隠すようにすればよい」
「…だといいんだけどね」
 事を決して楽観視しない静葉は溜息をついた。
「まあ、仮にその勇者殺しが現れたとしてもこのわしやエイルが力を貸してやるから。のう?」
「え?は、はい!」
 急に同意を求められたエイルは慌てて首を縦に振った。


 ――――


 洞窟のジャミングの効果は絶大であった。
 外からの魔力を観測していたサンユー地方のある冒険者は黒竜の魔力が途絶えたことを冒険者ギルドに報告。調査のためにギルドから多くの冒険者が派遣された。
 その結果、洞窟に仕掛けられたトラップの犠牲者が倍増。辛うじて突破できた者も黒竜や魔勇者の餌食となり、生きて報告に戻ることができた冒険者がいないことからギルドは調査を中止。黒竜の洞窟の危険度は最高値のSSSまで上昇した。


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