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第十一章

命拾い?

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「あ…あ…」

 あまりにも不可解な光景にコッヘル達は言葉を失っていた。
 勇者のふりをして狼藉をたくらみ、自分達に襲い掛かろうとしたならず者の一団。彼らの足元に生じた一本の緋色の裂け目から突然、無数のツララが発生し、リーダー格のラッシィを除く全員がその餌食となった。さらに、そのラッシィも足元の緋色の円から発生した竜巻に呑まれ、文字通りその身を散らした。

「ど、どうなってるの…?」

 当然ながらコッヘル達の仕業ではない。悪人と言えども人間相手に殺生をするつもりはなく、あったとしてもこのような魔法とも技とも異なる攻撃を行う術はパーティー内の誰も持っていない。
 ラッシィの身体を刻み終えた竜巻はやがて収まり、コッヘル達の視界もやがて晴れてきた。彼らの視線の先には緋色の剣を持った灰色の髪の男が静かに佇んでいた。

「だ、誰だ?」

 敵か味方かわからない存在に警戒したコッヘルは剣を抜き、構えた。背後に控える仲間達も各々の武器を手に取り、相手の様子を窺っている。しかし、灰色の髪の男は自らの得物を構えることなく、ただコッヘル達に目のみを向けている。
「い、今のはお前の仕業なのか?」
「……」
 灰色の髪の男は口を開かない。
「こ、答えろよ!」
 その不気味な佇まいにおののいたコッヘルは思わず声を荒げた。男から漂う妙な気配と空間の揺らめきがコッヘルの手を震えさせる。謎の攻撃に用いたであろう緋色の剣が男の不気味さを一層際立たせていた。

「…お前達も勇者を求めるのか?」

 男は静かに尋ねた。

「…は?」
 唐突な質問にコッヘルは首を傾げた。男はじっとコッヘルを見つめ、返答を待っている。

「…い…いや…」

 何とも言い難い圧に気圧され、コッヘルは否定した。

「…そうか…」

 答えを聞いた灰色の髪の男は背を向け、そのまま歩きだした。
「お、おい!お前は一体…」
 コッヘルの問いに耳を貸すことなく、男は目の前に緋色の剣を振るった。その太刀筋はそのまま緋色の裂け目を発生させ、男はその中に身を投じた。
「な…!」
 灰色の髪の男の身体を収めた緋色の裂け目はやがて小さくなり、そのまま消滅した。

「な…何あれ…?」
「何だったんだ…?」
 コッヘルの後ろに控える仲間達も茫然としていた。
 灰色の髪の男の正体も、彼の問いの真意もとうとうわからずじまいであった。わかったことと言えば、選択を誤れば自分達もラッシィ達と同じ末路を歩むことになっていたこと。そして、彼らが今こうして無事でいるのはその選択を誤らなかったこと。
 コッヘル達はとりあえず冒険者ギルドに戻ることにした。
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