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第十二章

今回の計画は

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「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
 気持ちを切り替え、ボルグは席に着いた。彼の隣にはテーブルの上に用意された座布団に腰を下ろすジャッキーが控えている。
「お願いね。魔王からは『詳しくはオウカ支部ここで聞け』って言われてるから」
「かしこまりました。皆さま、手元の資料をご覧ください」
 静葉達はテーブルの上に置かれた資料を手に取った。
「現在、オウカ公国の首都セダンにて建国記念祭が開かれています」
 最初の資料にはオウカ公国建国記念祭のチラシのコピーが載っていた。
「我々の目的は記念祭の最中に大将軍の娘であるアヤメ・フラワード姫を誘拐することです」
「誘拐?」
 その任務内容に静葉は目を丸くした。
「いよいよ魔王軍らしくなってきたわね」
 不本意ながらも魔王に仕えている静葉だが、ベタな展開にどこか高揚感を覚えていた。
「でもどうして姫を誘拐するの?」
「それに関しましては次の資料を」
 静葉達は二枚目の資料に目を通した。それには二種類の三角形の物質の写真が掲載されていた。そのうちの一つは静葉にも見覚えがあった。
「ペスタ支部長コノハ殿の調査によりますと、この三角形はファナトス教が魔剣を隠すために作った鍵であることが判明しました」
「魔剣…そんなものが…」
 ある。突然わいた単語に一瞬耳を疑った静葉だが、すぐに納得できた。聖剣と絶剣。ファンタジー世界のお約束を目の当たりにしている以上、魔剣ぐらいあっても不思議ではない。
「魔剣の在りかはおおよそ目星がついております。しかし、先述の鍵が揃わなければ肝心の魔剣の元へは近づくこともままなりません」
「調査によると、必要な鍵は三つ。残り一つはオウカの大将軍の手元にあるってことが最近わかってな」
 説明の続きを話しながらジャッキーは資料の写真を指さした。黒髪の壮年の男性が写っている写真だ。
「この男が大将軍?」
 その顔つきは静葉の世界で言うところの日本人。鋭い目つきの厳格な表情から只者ではないことがうかがえた。
「彼の名はボタン・フラワード。農民の出でありながら刀一つで大将軍の座まで登り詰めた凄腕のサムライです。その実力は本物であり、戦場では『烈火の鬼神』と呼ばれていたそうです」
「そりゃまたラノベに出そうな話ね」
 静葉は次の資料をめくった。
「記念祭の目玉イベントの一つ、『大名行列』。大将軍は姫と共に参列するわけですが、その際に標的のお宝を姫に持参させるらしいのです」
 行列は城から首都を一回りし、西門を出て近くのウエス自然公園のヤエザの木まで一往復するスケジュールとなっている。
「なるほど。その鍵とやらを手に入れるために姫様を誘拐するのね」
「その通りです。その際に姫が持っていればそれをそのままもらい、持っていなければ姫の身柄を大将軍との交渉に利用すればよいという算段です」
 静葉は内心『めんどくせぇな』と思った。
「で、どうやってその身柄を確保するの?」
 いずれにしてもそううまくはいかない。静葉はそう考えていた。
「真正面から…ってのは無理よねぇ」
 メイリスはわざとらしく首を傾げた。
「それに関しましては次の資料をご覧ください」
 ボルグの指示に従い、静葉達は次の資料をめくった。そこには複数の人間が写っている写真と赤い鳥のマークが載っていた。
「こいつらは?」
「今回の記念祭のどさくさに紛れてクーデターを企てている反政府集団『ピージェン』です」
「クーデター?」
「はい。最近、大将軍は行政改革のために多くの家臣や貴族を排除、いわゆるリストラを敢行しました」
「職務中に酒を飲む奴。意味不明なルールを部下や国民に強要する奴。人気の画家を大した理由もなく拘束する奴。そういった連中を大将軍は一気に追い出したのさ」
 ジャッキーが示した書類にはオウカ公国で近年発覚したいくつかの不祥事がリストアップされていた。
「その恨みを晴らし、実権を得るために大将軍の命を狙っている…と?」
「おそらく。あるいは姫を狙う可能性も。記念祭の日にクーデターを行うのは他の国への面目を潰すという意図もあるのでしょう」
「それで、私達はどう動けばいいの?」
 メイリスの質問に答えるようにボルグは一枚の資料を取り出した。
「ピージェンの動きはある程度把握しております。我々は彼らのクーデターを利用し、そのどさくさの最中に姫を確保いたします」
 通う者を失ったカホクトー学園。魔の巣窟と化したその学び舎の中で魔勇者達は恐るべき計画について綿密に話し合った。
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