異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十二章

幼馴染

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「改めて紹介するよ。俺の名はニール・クライグ。ファイン大陸からやってきた冒険者。君達と同業者だよ」
「フィズ・アトレーゼです」
 事件の現場から少し離れた場所にある屋外の休憩スポット。リエル達は適当な席に腰をかけて互いを紹介した。彼女達に囲まれたテーブルの上には先ほどの大衆スシ屋からもらった特上スシセットが置かれている。
「でもすごいですね。ニールさんの剣の技。あんな人混みの中で的確に敵だけをしとめるんですから」
「ニールでいいよ。歳も近いんだしさ」
 リエルからの言葉に苦笑したニールはマグロのスシをつまんだ。
「君だってなかなかの身のこなしだったよ。あの見事な体術、職業は武闘家かい?」
「いいえ、あ、いや、ううん。私も剣士。あの場所では周りが危ないと思ってとっさに…」
「そうだったのかい?でも、その判断は正しいよ。剣士だからといって剣だけにこだわる必要はないからね」
「師範からも同じように言われたわ。どんな状況でも対応できるように色んな技を覚えろって」
 リエルとニールは共通する話題で盛り上がっていた。そんな二人の様子をビオラとフィズは何か言いたげな表情でじっと見つめていた。
「ところで、ニールとフィズは二人だけのパーティーなの?」
「いや。二人だけじゃないさ」
 リエルの疑問に答えるようにニールは指笛を鳴らした。すると、上空から一羽の鷹が滑空し、ニールの左腕に止まった。首元に緑のスカーフを巻いた鋭い目つきの鷹だ。
「この鷹は…さっきの?」
「ああ、こいつの名はブレイブ。俺達の頼れる仲間さ」
 ブレイブはお辞儀をするように頭を下げた。
「へー。カッコイイじゃん。どこぞの豚とはえらい違いね」
「いやいや。俺の方がカッコイイだろ」
「どの口が…って何あたしのスシ食ってんのよこのネギ塩!」
「プギャー」
 自分の取り皿にキープしておいたイクラのスシをつまみ食いされたビオラは思いきりトニーの両頬をつねった。
「ご、ごめんなさい。いつものことだから…」
「ははは。賑やかでいいじゃないか」
 目の前の喧嘩を気にすることなくニールは笑っていた。
「そういえば、一つ聞きたいことがあるんだが」
 ニールは鞄から一枚の紙を取り出した。ギルドから発行されている『尋ね人』の手配書だ。
「この女性を見なかったかい?」
 手配書には一人の少女の写真が載っていた。緑がかったポニーテールが特徴的な魔法使いの少女。名前はマイカ・フランベル。
「この人は?」
「魔法使い…?」
「可愛いじゃねぇかオイ」
 リエル達は写真をまじまじと見つめた。
「彼女は俺達のパーティーの一員。三か月前、アカフク地方でのクエストではぐれて以来、行方がわからないままなんだ」
 建国記念祭によって多くの人が内外から集まるこのオウカ公国に行けば何かしらの情報が手に入る。そうふんだニールはこの国を訪れたのだ。
「どんな人なんですか?」
「んーと、歳は俺より一個下。背丈はフィズより少し上。気が強くて何かと小言が多いおせっかいな俺の幼馴染なんだ」
 アズキからの問いにニールは答えた。
「幼馴染かぁ…」
「…何見てんのよ?」
 真横からの視線に気づいたビオラはリエルをにらみつけた。
「あ、いや別に…」
 にらまれたリエルは狼狽した。
「で、スタイルはビオラこいつよりも良いか?」
「オイ!」
「え?んーと上は…」
「真面目に答えんな!」
 トニーの下世話な質問に答えようとしたニールにビオラは手元のおしぼりをぶつけた。余談だが、マイカの『上』はリエルより少し大きい。
「…ごめんなさい。見てないわ」
「…そうか」
 リエルはクラウディ大陸に来てからの足取りを振り返ったが、それらしい人物に会った記憶はなかった。
「三か月も行方不明なんでしょ?とっくに死んでんじゃないの?」
「ちょっとビオラ!」
 配慮を欠いた言葉を出したビオラに対し、リエルは思わず声を荒げた。
「いや。そう言われても仕方がない。ギルドでも同じことを言われたよ」
 ニールは苦笑し、お茶を一口飲んだ。
「でも俺は…俺達は信じてる。マイカはそう簡単には死なない。どこかで必ず生きてるってな」
 そう断言するニールの瞳には力強い確信が込められていた。
 パーティーの仲間でもあり、幼馴染でもあるマイカのことはニールがよく知っている。手がかりすらつかめない今でもモチベーションを下げることなく旅を続けられるのは彼のその強い確信と精神力があってこそのものだ。
「それじゃあ。俺達はこれで」
 取り皿を空にしたニールとフィズは席を立った。
「もう行くの?」
「ああ。次のクエストがあるからな」
「それじゃ。お気をつけて」
 二人は頭を下げ、席を離れた。しばらく歩くと、フィズはおもむろに自らの左腕をニールの右腕に絡めた。
「…フィズ?」
 ニールが顔を向けると、ほんの少ししかめっ面を作るフィズと目が合った。
「…なんか楽しそうだった」
 剣士同士で話が盛り上がっていたリエルとニール。フィズにとってその様子はどこか不安になると感じたのであろう。
「そうか?」
「そうよ」

「…見せつけてくれるわね」
 まだそんなに離れてもいない距離でいちゃつく二人の背中を見るビオラは眉をひそめ、ガリを一口つまんだ。
「あれのせいで帰るに帰れないんじゃねぇのか?マイカって奴は」
「そんなわけ…ありそうね」
 トニーの推測に同意するビオラであった。

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