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第22話 ロリコン紳士とショタコン淑女

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 自称〝全世界の幼女を明るい未来へ導く愛の戦士〟という、俺の〝パンチの効いた自己紹介ランキング〟で人生でベスト3に入るであろう、独特な自己紹介を聞いた俺は……反応に困っていた。

 ちなみに今の所、パンチの効いた自己紹介ランキングの1位は『職業は神様です♪』と、自己紹介して来た、本物の神様である──女神アルテナだ。

 ……と、まあ、それはともかく、俺は今このロリコンの金髪男に、同志と呼ばれるというらぬ疑いをかけられている。

(てか、コイツ色々と大丈夫か? 言ってる事は立派な気がするが、前提がアウトな気がするぞ)

「ミリア下がって! この〝女たらしの黒い変態〟一人でさえ手に終えないのに──〝ロリコン塵芥ちりあくた〟まで現れるなんて……最悪だわ……!」

 くっ……と歯軋はぎしりし、戦闘体制のエメレアと──言われたとおり「だ、大丈夫……!?」と心配そうにしながらエメレアの背後に下がるミリア。

「おい、クレハ……何だコイツは?」
「あ、うん……この人ね、確か2年ぐらい前に、ミリアを『自分の孤児院に来ないか?』って言ってきたんだけど。あんな感じだから、ミリアも怖がっちゃって……後、変な言動とかで色々あってエメレアちゃんが凄く怒っちゃったんだよね……」

「あぁ……何となく察しはついて来た」

 ミリアは確か12歳だったか?
 多分、日本だと小学生ぐらいだな。

「おお、それにミリアではないか! 元気そうで何よりだ! ハッハッハッハ!」

 高らかに笑うクシェラを見て、ミリアはビクリッとし、更にエメレアの後ろに隠れてしまう。

「《風刃よ・我──》」

 エメレアは呪文詠唱を始めるが……

「あ、おい、待て!」

 と、俺はエメレアを止める。

「──ちょ、ちょっと! 何すんのよ!!」
「こんな所で魔法ぶっぱなしてどうすんだ!」

「はぁ? あの生きゴミを始末するのよ、馬鹿じゃないの? じゃないと、ミリアの身が危ないのよ!」

 『何当たり前の事を聞いてるのよ?』と、
 エメレアは心底不思議そうな表情をする。

「すまん。助かったぞッ! 同志よ!」
 
 いや、断じてお前を助けた訳じゃない。

「だから、同志じゃねぇよ……! 俺にロリ属性は無い。あくまでも例えだが──どちらかと言えば、俺はこのエメレアの方が俺は普通にタイプだ!」

 と、俺はエメレアの肩に軽く手を置く。

 こうすれば、多少誤解も解けるだろうしな?

 それとエメレアへのささやかな嫌がらせだ。

 こんだけ嫌ってる俺に、あくまで例えでも〝お前の方がタイプだ!〟何て言われても、エメレアの事だ『最悪』だとか『気持ち悪い』とかしか言わないだろう。

「なッ……! ななななに……言ってんのよッ! ば、馬鹿じゃないの!? こ……このたらしッ……///」

 予想外の事に、顔を真っ赤にするエメレア。
 あれ、もっと冷ややかだと思ったんだけどな……?

「ねえ……ユキマサ君、それ詳しく聞いて良いかな?」

 するとクレハが冷ややかな目でこちらを見てくる。

(……な、何でクレハの方が冷ややかなんだよ?)

「そんな……貴様まさか……熟じ……」

 と、言いかけたクシェラが──

 ──バーンッ!!

 突如、タッタッタッタッタ!! と走って来た女の、踵落としを頭に喰らい、地面に叩きつけられる。

「「「「!?」」」」

 突然のできごとに驚く一同──

(今度は誰だよ……?)

 そして突如現れた、その20代ぐらいの女性は、地面に倒れてるクシェラを、足でぐりぐり踏みつけながら口を開く。

「──おい、何を騒いでいる。少しは回りの迷惑も考えろ、このロリコン親父が!」

 見た目は、長い金髪の髪で、スラリとした身体付き、目付きは少し悪いが整った顔の美女だ。

「き、貴様何故ここにいる……!?」

 どうやらクシェラとは知り合いのようだ。
 
「そこの者たち。申し訳ない。愚兄ぐけいが迷惑をかけた」

 クシェラを踏んだままの状態で、淡々とした口調で話す、この金髪美女は詫びの言葉を投げかけてくる。

「愚兄? ……てことは、お前ら兄弟か?」

 地毛であるだろう金髪は一緒だが……
 まあ、言われてみれば似てなくも無いな? それに、一般的に見れば二人とも美男美女だろうし。

「そうだ。不本意ながらこれは私の双子の兄だ。申し遅れたが私は──クシェリ・ドラグライト。このギルドを拠点に活動する冒険者だ」

「あ、お姉ちゃん!」

 すると嬉しそうに〝モフッ子幼女〟がクシェリに親しげに近寄って行く。どうやら面識があるらしい。

「ん、ココットか。元気だったか?」

 近づいてきた〝モフッ子幼女〟の頭をクシェリは、うりうりと撫でる。それとこの〝モフっ子幼女〟の名はココットと言うらしい。

「うん! あ、そろそろお兄ちゃん離してあげて!」

 うりうりと撫でられる、ココットは、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
 尻尾のある亜人は、嬉しいとやっぱり尻尾にも感情が出るみたいだ。

「ん? 仕方ないな、ココットに免じて離してやるか。愚兄、ココットに感謝するんだぞ?」

 と、言いながら足をどけるクシェリ。

「なんだと! 私はいつでもココットは勿論のこと、この世界において最も素晴らしい存在──そう! すなわち、みなにはつねに日頃から感謝をしている! あまり、私を見くびるでないぞ?」

 ……俺、もう、行っていいか?
 〝モフっ子幼女〟も大丈夫そうだし。

 そんな事を思いながら、ふと、クレハ達を見ると……相変わらず戦闘体制のエメレアと、その後ろにはミリアが隠れており、そしていつの間にかクレハはミリアの横で、ミリアの頭を優しく撫でている。

(お前ら、上手くスルーしているな……)

「何だと。聞き捨てならんな? この世界において最も素晴らしい存在……?」

 ギロッとクシェリは今までよりも目を鋭くする。
 
 ん、どうした……?

「この世界において最も素晴らしい存在? そんなの〝男子児童〟──つまりはに決まっているだろう! これだから貴様は愚兄と呼ばれるのだ! この愚か者め!」

(──お前はそっちか!!)

「何だと、この愚妹ぐまいめが! そんなの幼女に決まっているだろう! このショタコン熟女が!」
「何を馬鹿げた事を言っている? このロリコン中高年め! それに私はで、まだ25歳だ!」

「ハッハッハッハ! 25? どうみても熟女では無いか? それにそれこそ私はで25歳だ。まだまだ若いぞ? 私はだからな!」
「言わせておけば……つけ上がるのもいい加減にするんだな? 切り刻んで、身長だけでも妖精の如とし、男児と同じぐらいにしてやろうか? なぁ、愚兄?」

 睨みを効かしながら、腰にある剣に手をかける……

「それはこちらの台詞だ! その無駄な贅肉を切り刻んで、1ミリでも天使のように尊い幼女に近づけてやろううではないか! 特にその腹回りをな!」

「私の腹に贅肉など一切ついていない!!」

 ──ギュンッ!!

 妹のクシェリが、兄のクシェラに斬りかかる。

 そして、それを──ガキンッ!! と、クシェラは自身の腰にあった剣を抜き、受け止める。

 剣を止められたクシェリは直ぐ様に詠唱を始める。

「《走れ、水の大蛇──》]

「──ダメ~~~ッ!!!!」

 そしてこの兄弟喧嘩を、たった一言で見事に止めたのは〝モフっ子幼女〟のココットであった。

「「む……」」

「ココット危ないだろう! 下がっていろ!」

 剣を仕舞い、クシェラは慌ててココットに近寄る。

「お姉ちゃんと会うといつも喧嘩して! ダメだよ、お兄ちゃん!」

 と、クシェラはココットに叱られている。

「こ、これは喧嘩ではなくてだな。決闘なんだ」
「もっとダメだよ。私はお兄ちゃんとお姉ちゃん仲良い方がいいの!」
「むぅ……」

 これには反論ができない様子のクシェラ。

「仕切り直しだな。私もココットを巻き込む気は無い。愚兄、異論はあるか?」
「無いな、無論私もココットを1ミリも危ない目にあわせる気は毛頭無い。これは幼女に誓う!」

 どうやら、話しは纏まったようだ。

 ──すると、綺麗な金髪をなびかせたクシェリが、俺の方を向くと、じっくりと俺の顔を眺めながら話しかけて来る。

「黒髪に黒い目、そしてを着た男……昨日のヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟を単独討伐したのはお前だな?」

(スイセン服? こののことか? 異世界では和服のことをそう呼ぶんだな)

「何ッ!? こいつがか?」

 てか、広まってんのかよ……?

「ヒュドラなら倒したのは俺だ。それとスイセン服ってのはこれのことか?」

 俺は着てる服を、軽く引っ張りながら聞き返す。

「やはりか。それにスイセン服を知らないで着てたのか? おかしな奴だな?」

 そう言うと、クシェリは俺の周りをぐるぐると一周し、更に改めてじろじろと全身を見てくる。

「何だ?」

 そして、何故か、くんくんと匂いも嗅がれる。

「ふむ。大人びては見えるが16歳といった所か?」

 ──おうッ……!?
 初めて年齢を当てられたぞ?

 てか、今ので分かるのか……? 
 でも、何故だろう──この女には、色々と残念な気配を感じるのは気のせいだろうか?

「名前は何と言うんだ?」

 と、年齢当てクイズを見事制したクシェリが、俺の名前を聞いてくる。

「あ、ああ……名乗ってなかったな。俺はユキマサだ」

 俺は例の如く、魔力を少し込めた指をスライドし〝ステータス画面〟を開きクシェリに見せる。

 ―ステータス―
 【名前】 ユキマサ
 【種族】 人間ヒューマン
 【性別】 男
 【年齢】 16

 まあ、お馴染みのシンプル画面だが。

「ああ、改めて私はクシェリ・ドラグライトだ。それとプライベートで、身寄りの無い12歳までの小さな男の子を集めた孤児院を運営している」

 と、言いながらクシェリもこちらに〝ステータス画面〟を見せてくる。

 ―ステータス―
 【名前】 クシェリ・ドラグライト
 【種族】 人間ヒューマン
 【性別】 女
 【年齢】 25
 【レベル】60

 レベル60なのか? 騎士隊長のシスティアが確かレベル50だった筈だから、レベルだけ見れば騎士隊長より高いんだな?

「では、私も改めて自己紹介をしなくてはな!」

 ──いや、お前はもういい! 
 と、言おうとするが、クシェラはその前に話し始めてしまう。

「私も冒険者だ。私は身寄りの無い、12歳までの小さな女の子を集めた孤児院を運営している!」

 そして同じく〝ステータス画面〟を見せてくる。

  ―ステータス―
 【名前】 クシェラ・ドラグライト
 【種族】 人間ヒューマン
 【性別】 男
 【年齢】 25
 【レベル】56

 こいつも、レベルは騎士隊長システィア越えか。
 まあ、システィア基準で考えるのも、システィアに悪い気もするが……

「そうか。二人共よろしく頼むよ。というか二人共〝孤児院〟の運営してるのか? 大変そうだな?」

 規模がどれぐらいかは知らないが、孤児院の運営ってのは大変なものだ。金もかかるしな? ──それが、コイツらの言う小さい子達なら尚更大変だろう。

「「いや、全然そんなことは無いぞ?」」

 クシェラとクシェリの台詞が見事に被る。

「そ……そうか。ならいいが……」

 と、その時。気品のある、丁寧な言葉遣いの声が俺の背後から聞こえてくる。

「──何やら、ずいぶんと賑やかな様子でしたので、見に来て見れば、貴方達とユキマサ様でしたか」

 声の主は、ホントついさっきぶりに会う──金髪の細身だが、大きな胸を持つ、このギルドの副ギルドマスターであるフォルタニアだ。

「副マスか、何のようだ?」

 クシェリは、副ギルドマスターを略して、と呼んでいるみたいだ。

「用と言うほどの事ではございませんよ。何やら賑やかでしたので、少し様子を見に来ただけですが……問題は無さそうですね」
「フォルタニアさん! ちょっとお願いしますッ!」

 さっきからずっと、無言で戦闘体制を維持していたエメレアが、フォルタニアを必死に呼び止める。

「どうしました?」
「こいつです。この塵芥ちりあくたです! こいつが本当にミリア達に危害を加えたりしないか確かめてください!」

 その塵芥ちりあくたこと──自称〝全世界の幼女を明るい未来へ導く愛の戦士〟でもある、クシェラに向けて、指をさすエメレア。

「なるほど。簡潔に言ってしまえば──小さな子に如何いかがわしい事などをしていないか? と言うことですね。それでしたら心配ないと思われますよ? ただ、言動は少しあれですが……」

 前に確認済みなのか、フォルタニアは直ぐにエメレアの質問に返事を返す。

「当たり前だ! 神聖なる幼女に如何いかがわしい真似など、この私がする筈が無いだろう! むしろ、そういう如何わしい輩から、幼女を守るのも私の使命だ!」

 堂々たる立ち居振舞いのクシェラ。

「嘘は無いようです。クシェリさんも以前に同じような話を聞いています。少し騒がしい時もございますが、基本的にこの方達は──〝紳士〟と〝淑女〟です。言うならば〝ロリコン紳士〟と〝ショタコン淑女〟ですね」

 スキル〝審判ジャッジ〟を使い、嘘が無いことをハッキリと証明するフォルタニア。

(つーか、普通に聞いちまってたが……〝ロリコン紳士〟と〝ショタコン淑女〟って何だよ……?)
 
 ──何かがおかしい……
 だが、ツッコんだら負けな気がする。

「ふん、当たり前だろう。私も、ちゃんとした教育に努めているからな!」

 と、クシェリも堂々と宣言する。

 それに〝ショタコン淑女〟の呼び方についても、何処か気に入ってる様子だ。

「フォルタニアさんが、そう言うなら……少しは安心ね。でも、あの塵芥ちりあくたはいつか必ず倒すわ!」
 
 フォルタニアの言葉は信じている様子のエメレアだが、最後には『いつか必ず倒すわ!』と誓っている。

 ……いや、結局は倒すのかよ?
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