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第60話 ハイかYESで3
しおりを挟む「──そういや、ジャン。クシェラはどうした?」
先程の〝何処の馬の骨とも分からない奴〟という兵士の言葉で、俺はあの〝ロリコン紳士〟こと、クシェラの事を思い出したので、ジャンにクシェラの行方を聞く。
てか、クシェラの安否は〝魔王信仰〟の件の時に聞くべきだったな。一応、助けてくれた形になるし。
「クシェラ殿でしたら、妹のクシェリ殿が、無事に連れていきましたぞ? いやはや、それにしても、中々に個性的なご兄弟でしたな……」
ジャンは、あの二人を見て〝個性的〟と遠回しに言ってはいるが……
何か変わった人物だと感じる面はあったらしい。
……別に深くは聞かないが。
「まあ、無事ならいい」
そのクシェラの双子の妹であるクシェリとの〝大猪の肉〟の約束もあるが、それは明日にでも届けよう。
後はサービスでシェフとして〝料理屋ハラゴシラエ〟の店主を雇うべく、声をかけようと考えてる。
その店の店主の姪であるアトラが『大丈夫だと思いますよ』と言っていたから、ちょっとは期待しよう。
と、そんな呑気な事を考えてた、その時──
「──エルルカ様! 〝中央連合王国アルカディア〟のリュセル様より通達です。予定の滞在期間を過ぎてる為、至急、ご帰還をとの事です!」
片耳に手を添えたフォルタニアが〝精神疎通〟で、メッセージを受け取ったらしく、エルルカにその内容を伝えて来る。
「……そう、私はもう少し滞在したいのだけれど?」
エルルカは淡々とフォルタニアに返事を返す──と、言っても、あくまでもフォルタニアは中継役なので、その言葉はフォルタニアの〝精神疎通〟越しの、リュセルとか言う人物へ向けたものだ。
「少々お待ちを……」
そう言うと、片耳に手を添えたままのフォルタニアは少しの沈黙の後──更に〝精神疎通〟で受け取った返事を口を開く。
「明日の朝までに〝中央連合王国アルカディア〟へ、戻ってきて貰わないと〝六魔導士〟の半数が不在と成る為、大至急との事です」
──? 〝六魔導士〟の半数の滞在?
俺がその会話に首を傾げていると──
「〝中央連合王国アルカディア〟では〝六魔導士〟の半数の、最低でも3名が国内に滞在してないといけない決まりがあるの──〝アルカディア〟は人類の中心だから、もしそこが壊滅すれば事実上は人類の敗北とも言える問題になるから、どうしても最低限の戦力として〝六魔導士〟の半数は常に滞在してないとダメみたい……」
そっと、クレハが俺に耳打ちして教えてくれる。
「なるほどな……」
でも、逆を言えば、エルルカが明日までに〝アルカディア〟に戻ったとしても〝六魔導士〟は半数しかいないのか。
──俺が倒しちまったが、エルルカが今回この都市に来た理由も〝変異種〟のヒュドラの出現で〝アルカディア〟から、この件を任されて来たと言ってたしな。
〝六魔導士〟ってのは〝アルカディア〟だけでは無く、他国のピンチな時には、救援に行ったりする事もあるみたいだ。
だとすると、タイミングによっては同時に何人かの不在の時もある筈だ。
だが、最低限〝人類の中央国〟としては、人類トップクラスの戦力である〝六魔導士〟の半数は、常に滞在している状況を維持しておかなければと考えるのは、別に不思議じゃ無い。
「……はぁ、分かったわ。すぐ戻ると伝えてちょうだい」
エルルカは深く溜め息をつき。かなり、しぶしぶと言った様子だが、その帰還指示に応じる。
個人的な見解だが、エルルカは上司だとか、部下だとか、あまり気にしない独創的なイメージのエルルカだが、この〝六魔導士〟の決まり事には嫌々ながらも従う姿勢を見せているのには少し驚きだ。
「かしこまりました。すぐ、竜車を用意いたします」
フォルタニアはエルルカに軽くお辞儀をした後、竜車を用意しに去っていく。
「──なんだ、もう帰るのか? 年単位で久しくあったんだ。この後、一杯どうかと思ったんだがな?」
エルルカに対し、少し残念そうに声をかけたのはフィップだ。言葉から察するに、お互い有名だから知っているとかでは無く、普通に知り合いらしい。
「そうね。残念だわ……すぐ近くの料理屋がオススメだとレノンに聞いたから、帰りに寄ろうかとも考えていたのだけど──それも、今度になりそうね。悪いわね、フィップ、次はご一緒しましょ?」
「ああ、気にすんな。それに〝アルカディア〟に行った時は顔出すから、また泊めてくれよ?」
「そう、分かったわ。それなら美味しいお酒と楽しい話の肴を持ってきなさいな。貴方なら、特別に宿代はそれで勘弁してあげるわよ?」
クスクスとイタズラめいた顔でエルルカは笑う。
それに対するフィップは──
「勿論、そのつもりだ。酒は財布の許す限りになるが、この歳になると話の肴はいくらでもあるからな?」
と、楽し気に返事を返している。
まあ、378歳の吸血鬼ともなれば、面白い酒の肴になる話の、1つや2つぐらいあるのだろう。
「ユキマサ、貴方もよ? 返事の件では勿論だけど、普通に訪ねても来なさいな? 宿……いえ、私の寝室ぐらいは用意しとくわよ?」
「そりゃ助かる話だが……まあいい。宿とかはともかく、その内〝アルカディア〟には行こうと思ってるからな。その時は顔ぐらいは出すよ」
〝天聖〟が残したという……
人類の生命線である〝八柱の大結界〟の8つ基盤の柱の内の残り4つの〝魔術柱〟がある、この〝大都市エルクステン〟以外の場所──
〝中央連合王国アルカディア〟
〝アーデルハイト王国〟
〝エルフの国・シルフディート〟
には、遅かれ早かれ行ってみたいと考えている。
(この異世界の情報収集にもよさそうだしな?)
「そう、楽しみにしとくわ。……と、そろそろ竜車が来るわね。ユキマサ、また会いましょ? 告白の返事は──1分、1秒、刹那の時間でも、早く返ってくるのを祈っているわよ」
そう言いながら、エルルカは軽く指をスライドし、この異世界お馴染みになってきたゲームみたいな〝ステータス画面〟を俺と……そしてクレハに見せてくる。
―ステータス―
【名前】 エルルカ・アーレヤスト
【種族】 人間
【性別】 女
【年齢】 24
【レベル】94
レベル94か……フォルタニアの話だと、エルルカのレベルは1年前の時点で88と聞いていたが、その1年でレベルが88→94に上がってるみたいだ。
エルルカはクレハにも自身の〝ステータス画面〟を見せていて、これにはクレハ本人も「わ、私にもですか?」と驚いている。
「ええ。クレハ、ユキマサは私が貰うけども。それはそれとして、個人的に私は貴方の事はかなり気に入っているのよ?」
「──ッ!? そ、そう言われると……悪い気はしませんけど……でも、ユキマサ君は渡しませんよ!」
そう言いながら、自身も指をスライドし同じくクレハは〝ステータス画面〟を見せる。
やはり、この世界ではこの〝ステータス画面〟を見せるのが、一種の名刺交換みたいになってるようだ。
―ステータス―
【名前】 クレハ・アートハイム
【種族】 人間
【性別】 女
【年齢】 16
【レベル】36
続けて俺もステータス画面を見せる
―ステータス―
【名前】 ユキマサ
【種族】 人間
【性別】 男
【年齢】 16
「そう、クレハはレベルは36なのね。この様子だと、まだまだ伸びるわね。ますます気に入ったわ……」
ふふ。と笑い、何やら楽しそうなエルルカ。
それを見てるクレハは、何て反応すればいいか分からないらしく、少し戸惑った感じでいる。
そして、そんな話をしながら、いつの間にか少しずつ近づいて来ていたエルルカが、また俺に抱きつこうとして来たが……
──その前に、俺とエルルカの間にパッと〝空間移動〟で現れたクレハにハグを止められる。
ハグを止められたエルルカは「空間移動、厄介ね……」と冷静に呟いている。
「まあ、いいわ。まだ物足りないけど、今日はこれで概ね満足と言うことにして置いてあげるわ……」
淡々と話すエルルカは、クレハに向かい軽く両手の掌を上に向けて開き『何もしないわよ』的なジェスチャーをしている。
エルルカは、それを眺めていた俺と目が合うと……
ふふ。と軽く笑い、まるで夜桜を思わせるような、それこそ〝和〟がよく似合う、妖艶で綺麗な笑顔を向けてくる。それがまた反則的なまでに、綺麗で可愛いので──俺は更に反応に困るのだった。
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