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第120話 フルーツパラダイス
しおりを挟むすると、クレハがいる逆の方角から、俺の目の前にお椀が差し出される。
「お、おかわり……」
その声の主はエメレアだ。
「お、おう。何だ、気に入ってくれたのか?」
「…………」
だが、エメレアは無言で、手だけをこちらに向けて、早くしろとばかりの視線を俺に送ってくる。
仕方ないので、俺はエメレアに味噌汁のおかわりを装ってやり、伸ばした手に味噌汁を渡す。
すると、ビックリな事に……
「──あ、ありがとう!」
ぱぁぁ! と、普段俺には見せないような、満面な笑顔になりエメレアはご機嫌で席に着く。
そしてその後ろにはミリアが、ちゃんと並んで待っており、俺はミリアにも味噌汁のおかわりを装う。
「あ、ありがとうございます。今まで食べたこと無い味で美味しいです。後、魔力が回復して驚きました」
「それは俺のスキルが関係してるみたいだ、まだまだあるから、どんどん食べてくれ」
ミリアは嬉しそうに「はい♪」と返事をした後、お行儀よく、エメレアの隣に座る……のだが……
その時、俺の視界に入ったエメレアが……味噌汁をズズっと飲んでは、ふはぁ~と、幸せそうな顔をし、スプーンを使い、豆腐やワカメを口に運ぶと、ご機嫌な様子で二コりと笑う。いつもそうしてりゃいいのに。
「エメレアちゃん、よかった、気に入ったみたいだね。おにぎりを食べながら、お味噌汁を飲むとお米が口の中でほぐれて美味しいよ」
「ほんと? やってみるわ!」
クレハに勧められたエメレアは直ぐに実行に移すと「ん~♪」と、満足そうにしている。
「はぁ、これでユキマサが作った物でなければ完璧なのだけどね──悔しいけど、美味しいわ」
「おい、一言多いぞ」
まあ、正確には一文ぐらい多い気がするが、最後は『美味しい』と言ってくれたので、ここは一言という事にしておいてやろう。
「……はぁ、これでユキマサが作った物でなければ完璧なのだけどね」
そこじゃねぇよ。絶対わざとだろ? てか『はぁ』の部分から言い直しやがったぞ!
ご丁寧な……
「ところでユキマサ、この味噌汁はどうやって作るの? 怪我や魔力が回復するだとかは、さっき貴方がクレハと話してるの聞こえてたから、今その質問は置いといてあげるとして──これの普通の作り方を教えなさいよ。というか、何処の国の料理よ?」
〝──異世界の国の日本料理だ──〟
……とでも、ちょっと意地悪く返してやろうかとかも考えたが、せっかくエメレアが和食を気に入ってくれたんだ、今回は止めておこう。
それに、何だかんだでレシピまで聞いてくれるなんて、ちょっと嬉しいしな。
「まず、昆布を水に浸して出汁を取るんだ」
「……どうしたのよ、急に?」
素で返された。
この世界には出汁という概念が無いみたいだからな。
「出汁って言うのは、昆布とか、後は削り節とかから旨味を抽出するんだよ。まあ、口で言っても分からないだろうから、今度直接教えてやる」
と、俺はエメレアに伝えると「よく分からないけど分かったわ」と納得(?)してくれた。
その後も、色んな事を喋りながら食事をし、気づくと、山盛りにあった唐揚げやおにぎりは全部無くなっていた。
味噌汁や団子も綺麗に完食し、俺達は手を合わせ、皆で『ご馳走様でした』を言う。
──食器の片付けが終わると、ミリアの提案で〝食後のフルーツを取りに行こう〟という話しになり、俺達はミリアに案内され、ミリアの家の森に入る。
「こりゃ、凄いな。本当に食材の宝庫だ」
森に入ると、辺りは言葉通りフルーツの楽園だ。元いた世界から知ってる果物も、知らない果物もある。
「ミリア、これは何だ、食えるのか?」
俺は垂れた木になっている果物に指をさす。
サッカーボール程の大きさで、ハート型の形だが、網目状の線が入っており、形以外はどうみてもメロンだ。でも、メロンが木になっていて、ハート型なので、俺の知るメロンとは何かが違うのは明白だ。
「それは〝メロメロン〟ですね。甘くてとっても美味しいんですよ。少し取っていきましょう」
ミリアは慣れた手付きで数個の〝メロメロン〟を収穫して行く。
「あ、ミリア手伝うよ」
すると、収穫したメロメロンをクレハが受け取る。
「貴方、本当に無知なのね? 逆によく分からない事をよく知ってたり……クレハは何か知ってるみたいだけど、考えれば考えるほど、貴方の事が分からないわ」
そう話しかけてきたエメレアは、わりと真剣な表情で聞いてくる。だが、別に怒ってる風ではない。
「……本当に知らない物は知らない。だから、目新しくてな? つい、色々と聞いたりしちまう。悪いな」
「別に謝らなくていいけど……」
「お、これは知ってる──〝ラフランス〟だろ?」
所謂、洋梨だ。しかも、ちょうど食べ頃みたいだ。
後、形も大きさも、元いた世界の物と変わらんな。
「正解よ。というか、そんな楽しそうな顔で当たり前のこと言うんじゃないわよ、全く……調子狂うわね」
そう言いながらも、エメレアは俺が収穫したラフランスを、横で受け取る。
美味しそうだったんで、つい10個ぐらい取っちまったが、よかったかな?
「あ、ラフランス、美味しいよね」
「あ、あの、遠慮せず、本当にいっぱい好きなだけ取ってってください」
メロメロンを両手に抱えながら、ラフランスを見て微笑むクレハと、本当に遠慮しないで取ってほしいと言う様子で話すミリア。
「いいのか? 本当にいっぱい取るぞ?」
俺の〝アイテムストレージ〟に仕舞っておけば、果物も腐らないし、いざと言う時の非常食にもなる。
腐ったりしなければ、食材はいくらあっても困らないからな。しかも〝アイテムストレージ〟という、いつでも出し入れ可能な便利機能付きだ。
「はい、あと、まだいっぱい種類もあるんです。もう、バーっと、パーっと持ってってください! それに毎年そのままにしておいて、少なくない数の果物を腐らせてしまうので……だから、むしろありがたいです」
「あ、ああ。じゃあ、遠慮無く──ありがとう」
と、許可も下りたので、俺は言われたとおりパーっと持っていこうと思う。でも、どうしたんだ……俺が果物を持ってく事が、ミリアは凄く嬉しそうな様子だ。
すると──ちょんちょん。と、俺の服の袖を可愛く引っ張り、クレハが耳打ちで話しかかけてくる。
「何かね、ミリアなりのお礼みたいだよ。この前のヒュドラの変異種の件とか、私のおばあちゃんの病気とか、大猪のお肉の事とか、凄く感謝してるから、何かユキマサ君の力になったり、こういう果物の贈り物みたいな物を受け取って貰える事が凄く嬉しいみたい」
……そうなのか?
なら、これは断ったら逆に申し訳ないな。
俺は日本人並みには遠慮もするが、貰う時は貰う。
「そうだったのか、謎が解けた。まあ、俺がした事は別に気にしなくていいんだけどな。でも、そういう気持ちは素直に嬉しい──ありがたく貰っておくよ」
毎度思うが、何だかんだでお礼で色々と貰ったりしちまってんだよな。特にクレハに至っては、クレハの家に俺は居候までさせて貰ってる身だしな。
エルルカに貰った剣──〝月夜〟だけでも、一体金貨いくつ分になるのか知れたもんじゃない。
今度武器屋のレノンにでも、興味本意で『これ実際どれぐらいするんだ?』とでも聞いてみるかな。
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