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第185話 過去編・花蓮ノ子守唄16
しおりを挟む「……親父……母さん……」
二人の遺体を前に、頭が真っ白になった俺はただ何時間もその場に立ち尽くした。
そしてその静寂を奪ったのは人の声だ。
「君! よかった、生存者だね!」
こちらに向かってくる団体は十中八九、山岳救助隊だろう、噴石も収まってきたので山を登ってきたみたいだ。
「他に生存……!?」
俺から目を話すと救助隊員は親父達に目をやる。
「急いで脈を!」
「そんな必要は無い。もう死んでるよ、もう何時間も経ってる。心臓に噴石が貫通したんだ、二人とも多分即死だったろう……」
「君の知り合いかい?」
「両親だ」
「「「「「!?」」」」」
「後は私達に任せて、君も早く下山しなさい」
背中を押されるがまま俺は山を下りた。
山から下りると、携帯の不在着信が入って来る。
電話の主は勿論、理沙と爺ちゃんと婆ちゃんだ。
すると直ぐに今度は着信が鳴る。
「もしもし……?」
『あ、やっと出た! いくらかけても通じないから、皆心配してたんだよ! それで、おかーさんとおとーさんは?』
「……すまん、間に合わなかった」
『嘘……だよね?』
「嘘じゃない」
電話の向こうで、慌てた理沙が電話を落とす音がする。
すると電話の声が変わる。
『ユキマサか! わしじゃ!』
「爺ちゃん……」
どうやら理沙の落とした携帯を拾い話しかけてきてるらしい。
『大体のことは理沙の反応で分かった、今どこじゃ?』
「丁度、山を下りた所だ」
『そうか、焦らんで真っ直ぐ帰ってこい、いいな?』
「分かった」
そこで通話を終える。
そして言われたとおり、真っ直ぐ帰宅する。
家に着くと、店が閉まっていた。流石に今日は休みにしたみたいだ。
〝本日臨時休業〟と書かれた紙も貼られている。
「おぉ、ユキマサ、帰ったか……」
「爺ちゃん……」
「何も言わんでえぇ、辛かったの」
すると家の奥から婆ちゃんと理沙の涙声が聞こえる。
「吹雪ちゃん、木枯……」
「おとーさん、おかーさん……ふぇぇ……」
ズキンと胸が痛む。
何だこれ、痛ぇな……
「ついさっき、連絡があってな、帰ってきたばかりですまんが、木枯達の遺体を確認しに行くぞ」
「ああ、分かった」
泣いてる婆ちゃんと理沙を何とか宥め、俺たちは親父達の遺体を確認しに向かう。
俺はもう見てきた後だが、それでも同行する。
その場所へは爺ちゃんの運転する車で向かった。
道中も婆ちゃんと理沙は泣きっぱなしだった。
電話で指定された病院に着くと、霊安室に二人の姿があった。
「おとーさん……おかーさん……」
「嫌、いやぁぁぁ! 吹雪ちゃん、木枯っ!!」
「婆ちゃん、体に響くぞ、次に発作でも起こしたらどうする!?」
生まれつき体の弱い婆ちゃんの心配をするが、婆ちゃんは止まらない。
「いやぁぁ! あなた、ユキマサ、理沙ちゃんどこ!?」
「俺ならここだ婆ちゃん、しっかりしろ!」
「おばーちゃん、私もここだよ……うぅ……」
「おい、爺ちゃん、爺ちゃんも婆ちゃん止めろ! 体がもたんぞ!」
だが……
「!?」
「どうしてじゃ、どうして、どうして、わしより先に逝った……このバカたれが……」
──泣いていた。あの爺ちゃんが……
その後、婆ちゃんは理沙に肩を借りるような形で、何とか俺達はその場を後にした。
帰りの道も婆ちゃんと理沙は抱き合うようにして、ずっと泣いていた。
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